「恋愛、性行為、出産をしない=未熟」と言われる不思議。未熟扱いしてくる人間は「成熟した人間」なのか、という疑問
エコーチェンバー現象や排外主義の台頭により、視野狭窄になりがちな今、広い視野で世界を見るにはーー。フェミニズムやジェンダーについて取材してきた原宿なつきさんが、今気になる本と共に注目するキーワードをピックアップし紐解いていく。
「恋愛をしたことがないんだよね。興味もない」
→「まだ本気で好きになれる人に出会っていないだけ。大丈夫、そのうち出会えるよ!」
「性行為をしたことがない。やりたくない」
→「処女? かわい〜」
→「もしかして性行為を汚いものだと思ってる? 純粋なんだね(笑)」
「出産をするつもりはない」
→「わがままだな〜」
→「今はいいかもしれないけど、後で後悔するよ」
このように、恋愛・性行為・出産をしない、したことがない、するつもりがない、と表明した際に、「未熟」扱いを受けることは珍しくありません。
なぜ、恋愛・性行為・出産をしない人は、「未熟」扱いされがちなのでしょうか?
恋愛・性行為・出産は「自主的な選択」に見せかけた「義務」だから
世の中には、最初から恋愛や性行為に興味がない人がいます。小説家で歌人の川野芽生さんもその一人です。
川野さんは著書『AはアセクシュアルのA 「恋愛」から遠く離れて』(リトルモア)にて、興味がないのにも関わらず、周囲の人からことある毎に、「(した方がいいのに)なぜ恋愛をしないのか」を問われ、恋愛や性行為をするように圧力をかけられてきたと綴っています。
恋愛や性行為をするか否かは、個人の選択のはずですが、なぜ社会的にプレッシャーをかけられるのでしょうか? 川野さんは、「このような圧力が生じてしまうのは、ひとつには、性的欲望の充足や愛情の獲得が人の幸福の核にあると、この社会であまりに強く信じられているからだと思う」と言います。
また、もう一つのより大きな理由として、「実際のところ、(異性との)恋愛や性行為、そして結婚・出産・子育ては権利というよりは義務」だという考えが支配的だからなのではないか、と述べています。
異性との恋愛・性行為・結婚・出産・子育てが社会から課された義務だとすれば、セクシャルマイノリティの人たちが、「ずるい」とか「わがまま」とか「非生産的」扱いされることも合点がいきます。彼らは、義務を不当に免除されている存在に見えるのでしょう。
同様に、「恋愛適齢期・結婚的歴期・出産的歴期」になっているにも関わらず、恋愛や性行為をしない人が未熟扱いされるのは、大人として果たすべき義務を怠っているように見えるのだ、と考えられます。
「異性との恋愛や性行為、結婚、出産が義務である」と意識的に認識している人は少ないでしょう。しかし、明確には意識していなくても「結婚しなくちゃ、出産しなくちゃ」と思い込んでいる人は少なくありません。
私たちはメディアを通して、繰り返し、「恋愛、性行為、結婚、出産、子育てこそが、幸福な生き方のルートだ」と言われ続けてきたのですから、そのルートを辿ろうとすることは何ら不思議なことではないでしょう。ひと昔は、恋愛、結婚、出産、子育てこそが「女の幸せ」だとはっきり言われていましたし、今もその名残は続いているのです。
しかし川野さんは、「幸福な生き方についての、広く流布された考え方とは、義務をくるむ糖衣にすぎない」と喝破しています。
「義務」を拒む韓国の若い女性たち
ところでこの異性との恋愛、性行為、出産という義務は、何のために課されている義務なのでしょうか?それは、家父長制国家の存続のためです。
韓国の一部の女性たちは、女性が男性と番になりロマンチック・ラブ・イデオロギーに則った「女性の幸せ」を掴むことが、家父長制国家に課された義務であることを見抜き、「4B運動」と呼ばれる抵抗運動を行っています。
「4B運動」(または4非運動)とは、非恋愛、非性行為、非結婚、非出産を掲げる主に10代、20代の女性が中心に行っている運動のことです。
この運動は、これまで「女性の幸せ」「おめでたいこと」「一人前になるために必要なこと」とされ、推奨されてきた「男性と番になる」ための一連の流れを明確な理由から拒否するものです。しかし、若年女性が中心に行っている運動のため、「まだまだ彼女たちは若いから」「歳をとれば結婚や出産をしたくなるはず」と言われることもあります。ここでも、恋愛、性行為、結婚、出産に積極的にならない女性たちを「未熟」扱いする流れは健在なのです。
「大人になるために、異性との恋愛、性行為、結婚、出産をするべき」という言説は、現行社会を維持するために、さまざまな国で見られる圧力だと言えるでしょう。
未熟扱いしてくる人間は、成熟した人間なのか
ところで、恋愛・性行為・結婚・出産をしないなんて、まだまだ未熟……と言っているその当人は、成熟しているのでしょうか?
現代社会で、他人が「恋愛しているか」「性行為しているか」「結婚しているか」「出産しているか」に口を出して、「した方がいいよ」と言ってくる人は減ってきています。大っぴらに、「結婚して出産・子育てするのが女の幸せだよね」なんて言ったら、時代についていけてない人扱いされることでしょう。社会の認識は少しずつ変化し、個々人の選択を尊重した、より成熟した社会に進んでいっている、と言えるでしょう。
もしかしたら、「〇〇しないなんて未熟」だと言っている人は、その当人こそが、未成熟な発達段階にあるのかもしれません。
- SHARE:
- X(旧twitter)
- LINE
- noteで書く




