「結婚しなきゃ」の呪いから解放されて見えた景色。ゲイ専用結婚コンサルタントの「非婚」という選択
男女の結婚相談所で勤務したのち、「ゲイ専用結婚コンサルタント」として働き始め、その後ご自身は「結婚しない」選択という異色の経歴を持つ、田岡智美さん。『素敵なご縁に恵まれて結婚やめました』(KADOKAWA)では、ご自身のご経験から、「自分らしい幸せ」を掴むヒントを執筆されています。非婚の選択の経緯や、お仕事の中での気づきについてお話しいただきました。
「結婚をやめる」という選択
——「結婚をやめる」という選択の経緯についてお話しいただけますか?
20代のときは結婚願望が強い方でした。交際している人もいて、「この人と結婚したら」と想像することもあったくらいです。
29歳で結婚相談所に転職して、お客様から「あなた結婚してるんですか」という質問が当然のように繰り返されたり、上司からも「まだ結婚しないのか」「子どもが産めなくなるぞ」と言われることも多くなって、結婚が憧れのものから「早くしなければ」という気持ちに変わっていきました。当時は無意識だったのですけどね。
そうやって焦る気持ちから元々付き合っていた人と結婚することになりました。ただ、挙式や披露宴の準備をする過程で「このままでいいのかな」という思いが膨れ上がっていったんです。
結婚したかったはずなのに、心に残るこの薄暗い気持ちは何なんだろうと思いながらも「結婚は勢いが大事だよ」ということもよく言われていた時代ですので、「そういうものなのかな」と思って進めました。
——違和感を抱えながら、結婚式に進んでいったのでしょうか?
そうですね。選択を間違えたのかもしれないという気持ちが高まったのは、結婚式の披露宴会場でのことでした。20代の頃は、ウエディングドレスを着て結婚式を挙げている瞬間は人生で一番幸せを感じるのだろうと憧れていたんです。でも「早く帰りたい」という気持ちしかなくて涙が出そうになったんです。
それでも「これはマリッジブルーなのかな」と思い、自分の気持ちを誤魔化しながら数年過ごしていました。ただ、婚姻届は出せなかったんです。事実婚の状態を数年続けていました。
もちろん「婚姻届を出したくない」と思いながら結婚式を挙げたわけではないのですが、自分の中では牧師さんの前で約束をするのと、婚姻届を出すことの重みが違って、ずっと迷っていたんです。本当に結婚してしまう…どうしよう…と、踏み込めませんでした。
——その後、どうされたのでしょうか。
このまま続けるのは無理だと思って、お別れしています。相手の気持ちを考えると本当に申し訳ないことをしました。
結婚相談所の仕事は好きだったのですが、彼と生活する際に一度専業主婦になって、お別れした後は、定時で帰れる事務仕事をしていました。
2年ほど経った頃、結婚相談所時代にお世話になった上司から、男性同士の結婚相談所のお誘いがあって転職しました。法的な結婚という選択肢がない方々と出会い、お話を伺う中で、自分が結婚というものに縛られていることがとても小さなことのように感じたんです。結婚しない選択が浮かび上がって、結婚という選択肢を手放そうと踏ん切りがつきました。
——「結婚を目指すのはやめよう」と思えた瞬間はどんなことを考えていたのでしょうか?
「結婚しない」という選択は頭の中によぎったこともなかったんです。しなきゃいけない・するものと思い込んでいたので。
会社を出て細い道を歩いているときに、ふと「結婚しないのもありなのかな」と浮かび上がってきて、その瞬間からワクワクしたんです。迷いは一切なかったです。
結婚しないことで自分に時間を使えますし、仕事に集中できる。「結婚しなきゃ」「早くしないと子どもを産めなくなる」と考えなくてもいい。メリットが次々と浮かんできて、道が開けたような感覚でした。
——ご自身にとって結婚は合わなかったのだと思いますか?
結婚自体が合わないとは思っていないです。「結婚しなきゃ」という気持ちで、「夫」の席に座ってくれる人だけを埋めようとしていたこと、つまり「結婚する」というタスクを完了させることを目標としたことが失敗だったのだと思います。
結婚が合ったかどうかは、していないのでわかりません。笑
独身女性への思い込みと偏見を乗り越える
——田岡さんが結婚をしないと決めたときは、世間的には女性をクリスマスケーキにたとえるなど、「女性は早く結婚すべき」と考える人が多かったかと思いますが、その偏見をどう乗り越えていきましたか?
今はそんな言われ方はしないと思うのですが、私が20代~30代のときは、当然のように世の中でこういうことを言われていました。なので、自分で「そうじゃない」と思うことが難しかったようにも思います。
人から自分の人生を評価されること、そして評価を受け入れてしまう自分の違和感に気づくことは大切なこと。私はその違和感から、自分自身と向き合って自分がどうしたいか、自分がどうすれば幸せになるかを突き詰めることで乗り越えてきました。
——田岡さんご自身は、結婚しないと決めてからすぐに思い込みや偏見から解放されたのでしょうか?
徐々に変わっていったと思います。自分のことは今でもよくわからない部分がありますし、内省しても、所詮、自分の思考と経験でしか考えられないので、間違っていることも多々あると思うんです。
でも私はお仕事を通じてゲイの方々と出会って、生きづらさを感じているお話を伺う中で、「どうして何も悪くないのに、こんな考え方を植え付けられたのだろう」と感じることがたくさんありました。
お客様が「普通」という言葉をたくさんおっしゃるんです。「自分は普通じゃないから」「田岡さんは普通ですか?」「自分も普通だったらよかったのに」など。
お客様のお話を伺う中で、私にも社会にある規範や偏見によって植え付けられた価値観があるのではないかと振り返るようになって、考え方が変わっていきました。
「同性婚」について
——「ゲイ専用婚活コンサルタント」というお仕事から感じている社会の壁についてお話いただけますか?
成婚した方々にアンケートをご記入いただくのですが、「パートナーができて変わったことは?」と伺うと、「未来が安心できる」「不安がなくなった」など「安心」「不安」という単語が山ほど出てくるんです。
言い換えれば、パートナーができるまでは何かしら不安を感じて生きている、つまり安心できない社会で生きているということだと思います。
その背景にあるのは、現在、法的な同性婚がないこと。法律がないということは、社会に「あなたたちを認めていません」と言われているようなものだと思います。男女のカップルだと法的な結婚をするかしないかという選択肢がありますが、同性カップルはその選択肢すらありません。
同性愛者の方は子どもの頃から日々「自分は『普通』ではない」と感じる瞬間があるということです。そんな社会で成長していくので、大人になって自分に自信を持てない人がとても多いと感じます。
——いわゆる「エリート」と呼ばれるような経歴の方でも、自分に自信のない方が多いのでしょうか。
そうですね。立派な大学を出て、超一流企業に勤めていても、年収が数千万あっても「自分なんて」と言う方もいます。
同性婚の制度がないことで、自分の人生を生きられない人が一定数いるということです。制度を変えていくためにも、「おかしい」と声をあげていく人が増えることが必要だと思います。
社会の壁は法律だけではなく、私たち一人ひとりの言動にも表れると思っています。たとえば「彼女いないの?」「いい年なんだから結婚しないの?」など、相手が異性愛者である前提のふるまいをしていないか、少しでも多くの人に立ち止まって考えてほしいです。
※後編に続きます。
【プロフィール】
田岡智美(たおか・ともみ)
1974年生まれ。婚活コンサルタント。
30歳を迎えるころ、「幸せ」に携わる仕事がしたいという思いから、男女の結婚相談所へ転職する。
2016年より同性パートナー紹介会社にて出会いをサポートし、2019年からはxxx(エイジィ)株式会社が運営する「ゲイ結婚相談所ブリッジラウンジ」に勤務。現在店長を務めている。初回来店時の案内から会員様のご紹介、お見合いの立ち会い、カウンセリングまで、すべてのサポート業務に従事している。
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