7)相次ぐアクシデント。経験してみないとわからない困りごととは【父の認知症から学んだ、幸せの秘密】
親の老いに向き合うというのは、ある日突然はじまるものです。わたしの場合、それは父の“夜間の徘徊”というかたちでやってきました。これまでは京都での暮らしや移住生活のことを書いていましたが、その裏では東京にいる父の認知症が進行し、家族で介護体制をどう整えるかに奔走していました。介護というと、大変そう、重たそう…そんなイメージがあるかもしれません。でも、わたしにとっては、家族とのつながりを見つめ直し、人の優しさに心動かされることが増えた、そんな時間でもありました。 この連載では、認知症介護の体験を通して、わたしが出会った「幸せの秘密」を、少しずつ綴っていきたいと思います。
突然の徘徊から1年後の2025年2月。浴室での転倒と脱水症状というアクシデントはあったものの、訪問診療が入るようになって、父の易怒性は、ずいぶん落ち着きました。たまに怒るとしても、1月までのような発作的なものではない。やはりドクターが家に来てくださる安心感もあったのだと思います。
そんななか、最後の大学病院の眼科の定期検診が3月末にあり、それに合わせて上京。また病院で待ち合わせることにしたのですが、病院に着くと、父が車椅子で朦朧としている。驚いたことには、電車の時間を気にした母が父に朝食を食べさせずに連れ出し、父の足もとがおぼつかない様子なのに、電車に乗せてしまったと言うのです。病院の近くで歩けなくなったところを通りがかりの病院スタッフが3人がかりで助けてくれ、車椅子に乗せてくれたと聞きました。

焦ってケアマネジャーに電話すると、また脱水症状を起こしているのではという指摘。スポーツドリンクを飲むように勧めてくれました。アドバイスに従うと、父はみるみる元気になっていき、受診もできたのですが、ドクターもようやく父が認知症であることを認識したようで、この病院での治療は打ち切りに。自宅の近隣の病院への紹介状を書いてもらうことにしました。本当は、半年前の角膜手術の抜糸があると言われていたのですが、そのためにはまた入院しなくてはいけない。糸は入ったままでいいということでした。父にそれを伝えると、「見捨てられたんだな」と寂しそうでしたが、もう通院は無理だと悟った家族としてはここまではもう来なくていいとわかって、逆に安心しました。
ここで問題となったのは、健康な人なら歩いて5分で駅まで行けるのに、その距離を父が歩けないことです。でも、病院は、車椅子は外にはもっていってはいけないと言います。タクシーに乗ろうにも乗り場から、ジェイアールの駅の改札までの数十メートルが今の父には歩けない。まずはわたしひとりで駅に赴き、改札の職員に、数十メートルだけ介助してもらえないかと尋ねたのですが、「(お手伝いできるのは)改札からです」と断られてしまいました。それなら、大学病院の救急外来で休ませてもらえないかと眼科のドクターに尋ねると、質問には応答できているから必要ないと断られ……介護タクシーで帰るにはわが家は都下も都下。5万くらいするかもしれず、二の足を踏みました。今考えると、近くのホテルでも取ればよかったのかもしれないのですが、折しもインバウンド需要で東京のホテルは高騰しており、そのときには頭に浮かびませんでした。
実家の最寄り駅まではケアマネジャーが介護タクシーを手配してくれるという話でしたが、そこまで、いったいどうやって帰ればいいのだろうかとなったとき、思いついたのがこの大学病院のソーシャルワーカー。実は、わたしの星占いの読者さんで、十数年前、ワークショップや連続クラスにも参加してくれていました。受付で彼女の名前を出すと、なんと在籍していると言います。久しぶりの再会にも関わらず、介護タクシーを駅までお願いすれば、電車に乗るまで付き添いをしてくれるというアイデアを思いついて、手配までしてくださったのです。またも天使が現れた感じではありました。
→【記事の続き】8) 多くの人の手助けで帰り着けたことに、感謝の思い はこちらから。
文/Saya
東京生まれ。1994年、早稲田大学卒業後、編集プロダクションや出版社勤務を経て、30代初めに独立。2008年、20代で出会った占星術を活かし、『エル・デジタル』で星占いの連載をスタート。現在は、京都を拠点に執筆と畑、お茶ときものの日々。セラピューティックエナジーキネシオロジー、蘭のフラワーエッセンスのプラクティショナーとしても活動中。著書に『わたしの風に乗る目覚めのレッスン〜風の時代のレジリエンス』(説話社)他。
ホームページ sayanote.com
Instagram @sayastrology
写真/野口さとこ
北海道小樽市生まれ。大学在学中にフジフォトサロン新人賞部門賞を受賞し、個展・グループ展をはじめ、出版、広告撮影などに携わる。ライフワークのひとつである“日本文化・土着における色彩” をテーマとした「地蔵が見た夢」の発表と出版を機に、アートフォトして注目され、ART KYOTOやTOKYO PHOTOなどアートフェアでも公開される。活動拠点である京都を中心にキラク写真教室を主宰。京都芸術大学非常勤講師。
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