2)ドクターに伝わらない!遠隔でのコントロールに限界を感じる【父の認知症から学んだ、幸せの秘密】
親の老いに向き合うというのは、ある日突然はじまるものです。わたしの場合、それは父の“夜間の徘徊”というかたちでやってきました。これまでは京都での暮らしや移住生活のことを書いていましたが、その裏では東京にいる父の認知症が進行し、家族で介護体制をどう整えるかに奔走していました。介護というと、大変そう、重たそう…そんなイメージがあるかもしれません。でも、わたしにとっては、家族とのつながりを見つめ直し、人の優しさに心動かされることが増えた、そんな時間でもありました。 この連載では、認知症介護の体験を通して、わたしが出会った「幸せの秘密」を、少しずつ綴っていきたいと思います。
当時、下の妹は子どもふたりを抱えながら、外来のクリニックでフルタイムの看護師をしていました。インフルエンザや新型コロナウイルスの流行で、100人以上の患者さんを数人の看護師でさばくと言うような、過酷な現場にいたようです。日中はほぼ連絡が取れないし、子どもを置いては夜も動けない。そのため、身の回りのお世話は同居の母、介護保険の連絡等は、フリーランスのわたし。緊急事態の対応は上の妹という具合で、他の介護者の側から見ると、ほぼ戦力にならなかったのです。
でも、わたしがうるさいほどマメに報告はしていたために、寝る前にはそれを追って、ネットで調べたりはしてくれていたようです。明後日には認知症外来という夜のこと。「実家のある隣の自治体に、11月にオープンしたばかりの訪問診療のクリニックを見つけた。精神科もあるみたい」と教えてくれました。
この頃、父はまだ都内の大学病院の眼科にも定期検診に通っていましたし、腰を痛めた整形外科もある。それらの通院の付き添いに遠距離のわたしが行けるのはたまのこと。上の妹が行ってくれることも多かったのですね。在宅なら、母だけでも対応できるでしょうから、通院しなくて済む、訪問診療の精神科というのはまさに渡りに船。暗闇のなかの希望の光に思えました。

「訪問診療にしよう」と決めて、外来の診察日を迎えたはずですが、認知症外来の受診日後、上の妹が許可を得て録音したというボイスレコーダーの音声を聞くと、様子がおかしい。ちょうど前日に父の易怒性の爆発があったので、母も上の妹も疲れ切っていたのか、ドクターの質問にウンともスンとも返事をしないのです。そのため、ドクターも苛立って、詰問口調になっていました。
これは以前も何度かあったことなのですが、「あれ、今日は薬を飲むというお返事をするんじゃなかったかな」と思っても、音声を聞くと、返事をしていない。それで何も進展せず、うやむやになってしまうというパターンがある。医師の口調は、ハラスメントに聞こえなくもないほど強いのですが、「これはドクターも怒るよね」とわたしもヘンな納得をしてしまいました。遠隔でのコントロールの限界を感じたことでした。
「他の家族も集まって、話ができないか」とドクターの側からも提案があったので、わたしも観念し、急遽、上京の予定を早め、翌週、医師同席の家族会議の時間を作ってもらうことにしました。奇跡的に下の妹もたまたま休みの日に開催できることになりました。訪問診療のクリニックにも電話をして、転院のお願いをしてから、会議に臨みました。ドクターは母の同席も希望していましたが、父をひとりにはしておけないので、娘3人での出席になりました。
→【記事の続き】3)ドクターにプレゼン。訪問診療のクリニックへの転院を決める はこちらから。
文/Saya
東京生まれ。1994年、早稲田大学卒業後、編集プロダクションや出版社勤務を経て、30代初めに独立。2008年、20代で出会った占星術を活かし、『エル・デジタル』で星占いの連載をスタート。現在は、京都を拠点に執筆と畑、お茶ときものの日々。セラピューティックエナジーキネシオロジー、蘭のフラワーエッセンスのプラクティショナーとしても活動中。著書に『わたしの風に乗る目覚めのレッスン〜風の時代のレジリエンス』(説話社)他。
ホームページ sayanote.com
Instagram @sayastrology
写真/野口さとこ
北海道小樽市生まれ。大学在学中にフジフォトサロン新人賞部門賞を受賞し、個展・グループ展をはじめ、出版、広告撮影などに携わる。ライフワークのひとつである“日本文化・土着における色彩” をテーマとした「地蔵が見た夢」の発表と出版を機に、アートフォトして注目され、ART KYOTOやTOKYO PHOTOなどアートフェアでも公開される。活動拠点である京都を中心にキラク写真教室を主宰。京都芸術大学非常勤講師。
ホームページ satokonoguchi.com
Instagram @satoko.nog
- SHARE:
- X(旧twitter)
- LINE
- noteで書く





