(1)父よりひと足先に認知症になったおばとの、無限ループの対話がアルツハイマーの理解に役立った
親の老いに向き合うというのは、ある日突然はじまるものです。わたしの場合、それは父の“夜間の徘徊”というかたちでやってきました。これまでは京都での暮らしや移住生活のことを書いていましたが、その裏では東京にいる父の認知症が進行し、家族で介護体制をどう整えるかに奔走していました。介護というと、大変そう、重たそう…そんなイメージがあるかもしれません。でも、わたしにとっては、家族とのつながりを見つめ直し、人の優しさに心動かされることが増えた、そんな時間でもありました。 この連載では、認知症介護の体験を通して、わたしが出会った「幸せの秘密」を、少しずつ綴っていきたいと思います。
前回は、介護生活の伴走者となるケアマネジャーとのお付き合いについて、時系列で書きましたが、今回は、父の突然の徘徊から6〜10ヶ月頃の家族の状態について、振り返ってみたいと思います。認知症によって、父がどう変わっていったのか、何が変わらなかったのか。それについて、家族がどう感じたか、どう対応したのか……まとまらないかもしれませんが、お付き合いくださいね。
以前も書いたように、突然の徘徊があったのは、2024年の2月中旬のこと。徘徊は睡眠導入剤の影響もあったようで、日常生活では同居の母にしかわからない程度でした。でも、徘徊から4か月後、6月の父のふるさとへの旅行では、「今日はどこに行くんだ。明日はどうするんだ」と何回も聞くようになっていました。「明日は◯◯に朝、寄ってから、東京に帰ろうと思っているよ」ということをこちらも何回も説明しないといけないほど。短期間に認知症状がかなり進んでいると感じました。

短期記憶がもたないので、本人は、自分が何回も聞いたこと、すでに、何回も説明されていることは忘れています。「さっきも言ったじゃない」などと言うと、プライドを傷つけることになってしまい、怒りを誘引するはず。それは理解していたので、顔色を変えずに、初めて聞かれたように答えることになるのでした。
これは偶然ですが、父の徘徊の前年の春、ある占星術家の方を尋ねることになり、よくよく聞いてみると、まさかの父の妹の徒歩圏内にお住まいだったということがありました。近くまで行くことを話すと、「妹も認知症で大変なので、様子を見てきてくれないか」と。久しぶりに会ったおばは、いかにも可愛いおばあちゃんという感じで、「あなたは兄の……」「長女です」「兄は、わたしたちのきょうだいのなかではだけど、優秀でね、優しくてね」「そうですか」「兄は、わたしが東京で働いていたとき、洋服を買ってくれてね」。ほぼこのままを無限ループのように、10分ごとにすることになりました。2歳くらいの子どもが何度も、何度も同じ遊びを楽しむ。あの感じと言ったらいいでしょうか。
おばと一緒に過ごしたのは1時間ほど。無限ループの対話でよくわかったのは、おばにとっての兄、つまりわたしの父は、「優しくて、小さな自分を守ってくれた人」であるということ。認知症になっても、最後まで残る感情の核はある。おばのなかの父への愛を感じるのは楽しい時間でもあり、彼女の思いを否定することなく、聞き続けたからでしょうか。別れ際には玄関まで出てきて、「また来てくださいね」とにこやかに送り出してくれました。
「(アルツハイマー型の)認知症ってこういう感じなんだな」とそのとき初めて理解し、この経験がそれから1年後の父の認知症の際も、非常に役立ちました。
→【記事の続き】(2)「短期記憶がもたない」主症状よりも、「怒りと妄想、攻撃」という周辺症状に翻弄された はこちらから。
文/Saya
東京生まれ。1994年、早稲田大学卒業後、編集プロダクションや出版社勤務を経て、30代初めに独立。2008年、20代で出会った占星術を活かし、『エル・デジタル』で星占いの連載をスタート。現在は、京都を拠点に執筆と畑、お茶ときものの日々。セラピューティックエナジーキネシオロジー、蘭のフラワーエッセンスのプラクティショナーとしても活動中。著書に『わたしの風に乗る目覚めのレッスン〜風の時代のレジリエンス』(説話社)他。
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Instagram @sayastrology
写真/野口さとこ
北海道小樽市生まれ。大学在学中にフジフォトサロン新人賞部門賞を受賞し、個展・グループ展をはじめ、出版、広告撮影などに携わる。ライフワークのひとつである“日本文化・土着における色彩” をテーマとした「地蔵が見た夢」の発表と出版を機に、アートフォトして注目され、ART KYOTOやTOKYO PHOTOなどアートフェアでも公開される。活動拠点である京都を中心にキラク写真教室を主宰。京都芸術大学非常勤講師。
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