(3)心を含む包括的なケアが必要とわかっていても、 問題の手当てに追われ、父との時間が取れない!

(3)心を含む包括的なケアが必要とわかっていても、 問題の手当てに追われ、父との時間が取れない!
Saya
Saya
2025-10-28

親の老いに向き合うというのは、ある日突然はじまるものです。わたしの場合、それは父の“夜間の徘徊”というかたちでやってきました。これまでは京都での暮らしや移住生活のことを書いていましたが、その裏では東京にいる父の認知症が進行し、家族で介護体制をどう整えるかに奔走していました。介護というと、大変そう、重たそう…そんなイメージがあるかもしれません。でも、わたしにとっては、家族とのつながりを見つめ直し、人の優しさに心動かされることが増えた、そんな時間でもありました。 この連載では、認知症介護の体験を通して、わたしが出会った「幸せの秘密」を、少しずつ綴っていきたいと思います。

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この頃の父は自分で歩いて、食べて、まだまだ元気でしたから、父のケアができないと言うのは身体的なことではなく、心も含めた包括的なこと。のちのちわかっていくのですが、アルツハイマーの患者さんは、大勢でワイワイやりながら、本人の気持ちを盛り上げる介護が適しているようなんですね。でも、武家の血筋である母は、どこかスンとしている。およそ介護者に向かないことは、これも時が経つにつれ、明らかになっていきました。

介護界隈で話題になっている「ユマニチュード」など、認知症の患者さんを愛で包むような態度で易怒性が落ち着くことは、父と接していると確かに感じました。想像をめぐらせれば当たり前ですが、目も悪くなっているし、耳も遠いのだから、目線を合わせて正面に座り、優しく語りかける。手に触れたりして、言葉でなく、愛を伝える。わたしには難なくできることが、母はどうしても不得手なようで、その「優しくない態度」がますます父を怒らせるという負のスパイラルに陥ってしまったのです。

毎日、数時間は介護保険に関わるスタッフ、母や妹たちなど家族への連絡に遣い、離れていても心を砕いているつもり。またさまざまな判断は、わたしがするよりなく、知識がないのでひとつひとつ調べて、決断するにもエネルギーが必要です。わたし自身も消耗していましたが、実際に「怒り」のエネルギーを間近で、全身に浴びているのは同居の母ですから、あまり強くも言えない。でも、父にしてみると、たまに来るわたしは常に笑顔で、優しいわけですね。すると、わたしと母の態度の違いに、父はますます態度を硬化させるし、わたしが京都に戻ってしまうと不機嫌になる傾向もあって、どこまで介入してよいのかも悩みとなりました。

またわたしが行くと待っていたかのように、問題が噴出する。もっと父を連れ出して、話を聞いてあげたら満たされるはずだとわかっていても、実家に帰ると、目の前の問題の手当てのために動きまわることになり、なかなか父との時間を作れずにいました。そう、アルツハイマー型認知症とはよくなることがない、進行性の病ですから、現在の状況に合わせて手立てを考え、手続きを踏んで実現させても、すぐに次の問題が現れる。それに対応すると、また進行してしまうという、追いかけっこなところがあるのですね。

野口さとこ

わたしがしてきたのは編集やライティング。ネタを探し、自分の気づきを書くために、かなりマイペースでやってこられたことに改めて気付かされました。案外、見過ごされやすいことですが、自分でペースを作れない、家族のペースに合わせるというのは、体調もエネルギーも崩しやすくなる。セッションでも、家族の都合に振りまわされがちなワーキングママたちがエネルギーのバランスを崩していることがとても多いのはこういうわけか、と腑に落ちました。

→【記事の続き】(4)病院で父を受け取り、母を上野のモネ展に送り出す ふたりで食べた忘れられないヒレカツの味こちらから。

文/Saya

東京生まれ。1994年、早稲田大学卒業後、編集プロダクションや出版社勤務を経て、30代初めに独立。2008年、20代で出会った占星術を活かし、『エル・デジタル』で星占いの連載をスタート。現在は、京都を拠点に執筆と畑、お茶ときものの日々。セラピューティックエナジーキネシオロジー、蘭のフラワーエッセンスのプラクティショナーとしても活動中。著書に『わたしの風に乗る目覚めのレッスン〜風の時代のレジリエンス』(説話社)他。
ホームページ sayanote.com
Instagram     @sayastrology

写真/野口さとこ

北海道小樽市生まれ。大学在学中にフジフォトサロン新人賞部門賞を受賞し、個展・グループ展をはじめ、出版、広告撮影などに携わる。ライフワークのひとつである“日本文化・土着における色彩” をテーマとした「地蔵が見た夢」の発表と出版を機に、アートフォトして注目され、ART KYOTOやTOKYO PHOTOなどアートフェアでも公開される。活動拠点である京都を中心にキラク写真教室を主宰。京都芸術大学非常勤講師。
ホームページ satokonoguchi.com
Instagram  @satoko.nog

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