(2)「短期記憶がもたない」主症状よりも、「怒りと妄想、攻撃」という周辺症状に翻弄された
親の老いに向き合うというのは、ある日突然はじまるものです。わたしの場合、それは父の“夜間の徘徊”というかたちでやってきました。これまでは京都での暮らしや移住生活のことを書いていましたが、その裏では東京にいる父の認知症が進行し、家族で介護体制をどう整えるかに奔走していました。介護というと、大変そう、重たそう…そんなイメージがあるかもしれません。でも、わたしにとっては、家族とのつながりを見つめ直し、人の優しさに心動かされることが増えた、そんな時間でもありました。 この連載では、認知症介護の体験を通して、わたしが出会った「幸せの秘密」を、少しずつ綴っていきたいと思います。
父の突然の徘徊から6〜10ヶ月頃、家族がもっとも困ったのは、「怒り」です。
もともと、若い頃の父は、怒りの沸点が低いほう。正義感が強く、職場でも部下や後輩のために上司と戦うようなタイプだったようです。家族に対しても、口うるさく怒ることもある〝昭和のお父さん〟でした。でも、退職後、食道癌を患ってからは、ずいぶん穏やかに。娘としても付き合いやすくなっていたのですが、認知症と診断される5年くらい前から、周囲には理不尽と思えるような「怒り方」をすることがありました。この頃から、異変を感じ取ってはいたものの、コロナ禍もあり、何もできないまま時が過ぎてしまったことは以前も書きました。
旅行と二度の入院をきっかけに、認知症がさらに進んでしまった結果、この「怒り」が父を支配するようになっていました。「認知症の患者さんは、感情のコントロールができない」とは本にも書いてあるのですが、見るのと聞くのとは大違い。短期記憶がもたないということは、同じことを言い続けている自分に気づけないわけで、2時間でも3時間でも、怒り続けることもありました。しかも、父はコミュニケーションを象徴するふたご座に太陽と水星をもち、認知症になったところで、舌鋒の鋭さがやわらぐわけではない。とくに母に対しては遠慮もなく、病気になる前は諦めていた母への不安があふれ出ているかのようでした。
つまり、「短期記憶がもたない」という認知症の主症状はそれほどではない時期にも、「怒りが抑えられない」「母を言葉で責める」「極端な発想(妄想)をする」という認知症の周辺症状が困りごととして、強く出ていたのですね。同じアルツハイマー型であっても、「かわいいおばあちゃん」である父の妹とはまったく違う点でした。

近居の妹たちには子どももいますし、上の妹は在宅ワークのほか、たまたま環境活動で忙しい時期でした。下の妹はフルタイムの看護師。それぞれに自分の生活があるのは当たり前で、とくに下の妹は、「月に一度は、両親の様子を見てきてほしい」とお願いしても、なかなか時間が取れないのが現実でした。その結果、母のヘルプコールは、遠距離のわたしに入ってきますし、時には父と電話を代わることになる。昨年の誕生日にはガス抜きをしようとひとりでホテルステイをしていた先にも電話が入り、1時間も話を聞かされたほうどでした。その後も毎月、数日は上京し、両親のケアをするようにはしていましたが、肝心の父のケアが思うようにできないことがこの頃の悩みでした。
→【記事の続き】(3)心を含む包括的なケアが必要とわかっていても、問題の手当てに追われ、父との時間が取れない! はこちらから。
文/Saya
東京生まれ。1994年、早稲田大学卒業後、編集プロダクションや出版社勤務を経て、30代初めに独立。2008年、20代で出会った占星術を活かし、『エル・デジタル』で星占いの連載をスタート。現在は、京都を拠点に執筆と畑、お茶ときものの日々。セラピューティックエナジーキネシオロジー、蘭のフラワーエッセンスのプラクティショナーとしても活動中。著書に『わたしの風に乗る目覚めのレッスン〜風の時代のレジリエンス』(説話社)他。
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写真/野口さとこ
北海道小樽市生まれ。大学在学中にフジフォトサロン新人賞部門賞を受賞し、個展・グループ展をはじめ、出版、広告撮影などに携わる。ライフワークのひとつである“日本文化・土着における色彩” をテーマとした「地蔵が見た夢」の発表と出版を機に、アートフォトして注目され、ART KYOTOやTOKYO PHOTOなどアートフェアでも公開される。活動拠点である京都を中心にキラク写真教室を主宰。京都芸術大学非常勤講師。
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