3)ドクターにプレゼン。訪問診療のクリニックへの転院を決める【父の認知症から学んだ、幸せの秘密】

3)ドクターにプレゼン。訪問診療のクリニックへの転院を決める【父の認知症から学んだ、幸せの秘密】
写真/野口さとこ
Saya
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2025-12-09

親の老いに向き合うというのは、ある日突然はじまるものです。わたしの場合、それは父の“夜間の徘徊”というかたちでやってきました。これまでは京都での暮らしや移住生活のことを書いていましたが、その裏では東京にいる父の認知症が進行し、家族で介護体制をどう整えるかに奔走していました。介護というと、大変そう、重たそう…そんなイメージがあるかもしれません。でも、わたしにとっては、家族とのつながりを見つめ直し、人の優しさに心動かされることが増えた、そんな時間でもありました。 この連載では、認知症介護の体験を通して、わたしが出会った「幸せの秘密」を、少しずつ綴っていきたいと思います。

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認知症外来での会議ではまずドクターから、認知症を診るのは脳神経外科、脳神経内科、精神科がおもであること。わたしたちがかかっているのは脳神経外科なので、精神科のお薬が必要な患者さんには転院をお願いしているという説明がありました。今度は家族の番ですが、わたしが今までの経緯を流れるように演説したために、ドクターも看護師も、同席した施設の相談員も目を白黒させることに。

精神科にも相談の電話をしているが、受診は、もう少し先でいいのではないかというお話だったこと。また、父がもともと出不精で、家を好む性質であること。今はまだ認知症についても受け入れているとは言えず、精神科の看板のある病院に通院させることで、不信感が生まれると予想されること。入院での投薬医療で悪化する可能性も考え、精神科のある訪問診療のクリニックを見つけたので、そちらにお世話になりたいこと。こちらの外来とも連携したいことを伝えました。

前の週に姉妹で話し合った内容は、ほぼドクターには伝わっていなかったようで、わたしの話を聞いたドクターは、「そういうことなら」と、すぐに訪問診療のクリニックへの転院を了承してくれました。「実は、今度の春でこの病院を辞めるんです。僕が最後まで診られないので(転院先に、きちんと引き継ぎたかった)」「僕も、京都出身なんですよ」などとちょっとお話もできたのでした。「何も進んでいない」と強い口調で言われたり、返事をしない母と上の妹にイライラしたりも、そういう事情があったのかと納得したことでしたし、関西出身なら、「話さない相手」というのは拷問にも等しかっただろうなあと腑に落ちた次第でした。

野口さとこ

余談ながら、ローカルテレビの街歩き番組などでも、一般の人が芸人並みにおもしろい答えを返すのが関西です。ドクターにとっても、何を考えているのか明かさないわたしたち家族は、悩みの種だったのかもしれないと感じたことでした。

このドクターは、父のお薬手帳も見て、内科受診が途絶え、不整脈の血液サラサラのお薬が出ていないことも発見、処方もしてくれました。二度の入院で、かかりつけ医のところに行けないまま。それを母が気にしつつも、何もできないでいたようなのですね。両親が高齢になるということは、こうした予想外の事態が起こるということなのだなと痛感しました。

対話をしつつ、お互いが納得する道筋を見つけていくのがコミュニケーションですが、父が決定したら、それに従うというのでやってきた母は、そんなことは思いもつかず、医師が決めてくれるものだと思い、付き添っていたのかもしれません。母は学生時代、かなり優秀だったと聞くのに、50年以上、父がすべてを決めていたからこその問題でした。占星術で言えば、月になってしまい、太陽を人に預けている状態。わたしが「女性も太陽を生きて、自分で意思決定をしよう」と言うようになったルーツは、両親の関係にあることを久しぶりに思い出す機会にもなりました。

→【記事の続き】4)自宅にドクターが来てくれる。安心感から、父は目に見えて落ち着いた はこちらから。

文/Saya

東京生まれ。1994年、早稲田大学卒業後、編集プロダクションや出版社勤務を経て、30代初めに独立。2008年、20代で出会った占星術を活かし、『エル・デジタル』で星占いの連載をスタート。現在は、京都を拠点に執筆と畑、お茶ときものの日々。セラピューティックエナジーキネシオロジー、蘭のフラワーエッセンスのプラクティショナーとしても活動中。著書に『わたしの風に乗る目覚めのレッスン〜風の時代のレジリエンス』(説話社)他。
ホームページ sayanote.com
Instagram     @sayastrology

写真/野口さとこ

北海道小樽市生まれ。大学在学中にフジフォトサロン新人賞部門賞を受賞し、個展・グループ展をはじめ、出版、広告撮影などに携わる。ライフワークのひとつである“日本文化・土着における色彩” をテーマとした「地蔵が見た夢」の発表と出版を機に、アートフォトして注目され、ART KYOTOやTOKYO PHOTOなどアートフェアでも公開される。活動拠点である京都を中心にキラク写真教室を主宰。京都芸術大学非常勤講師。
ホームページ satokonoguchi.com
Instagram  @satoko.nog

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