「子どもをギャンブル依存症から守るには?」回復者が語る予防法と「誰でもなる」という現実
「意思が弱い人の問題」「自己責任」そんな誤解をされることも多い、ギャンブル依存症。実際には、安定した収入があったり、真面目に働いていたりと、「怠け者」といったイメージとは離れた人も多いそうです。そしてギャンブル依存症は「誰でもなる」身近な病気であるとのこと。自身もギャンブル依存症の回復者である、「ギャンブル依存症問題を考える会」代表の田中紀子さんに回復の経験や、周囲の人間が気をつけるべきことについて伺いました。
ギャンブル依存症と買い物依存症の経験
——田中さんご自身もギャンブル依存症から回復されたご経験があるのですよね。
まず父親がギャンブル依存症だったことが、大人になってからわかりました。離婚した母が実家に戻ってきたのですが、母方の祖父はパチンコ依存症でした。子どもの頃からギャンブル的なものに親しんでいる家庭だったのです。
今の夫は出会ったときから競艇をやっている人で、実家の雰囲気とマッチしていて、懐かしい感じがしたんです。付き合うようになってから、自分もハマっていきました。
最初、夫に対して「これはおかしい」と思って病院に連れていったのですが、医師から「あなたも依存症ですよ」と言われて、自分もギャンブルの問題を抱えていることに気づきました。
——その後、田中さんは買い物依存もご経験されているのですよね。
ギャンブル依存症の自助グループに繋がって、「ギャンブルはほどほどにやらなきゃ」と思っていたんです。実際には、依存症になっちゃうと「ほどほど」はなくて、きっぱりやめるしかないとわかって、やめていきました。
ただ、当時はただ自助グループに繋がっただけで、きちんとした依存症のプログラムを受けていなかったので、代わりになるものとして買い物で心を埋めていきました。
ちなみに一度依存症になったら、「ほどほど」はないので、周囲の人も回復してきたからといって「ちょっとぐらい」と誘わないようにしてくださいね。
——田中さんはギャンブルに依存されていたとき、なぜご自身にギャンブルが必要だったと思いますか?
当時離婚したばっかりだったのと、自分の将来がどうなるのかわからない不安がありました。
でも大きかったのは環境要因です。仲良くしていたのが、遊び=ギャンブルな人たちだったので、頻繁にやるようになって、習慣になってしまったんです。
回復に必要な「自助グループ」とは
——買い物が埋めていた分の心の穴はどうやって埋めていったのでしょうか。
自助グループのプログラムをやるようになって、心の空白が埋まって、回復することができました。
ギャンブル依存症の回復方法は、認知行動療法か自助グループです。自助グループの方が続けやすいと思うので、私は自助グループを勧めています。
最近はリモートでの自助グループもありますし、私たちの「ギャンブル依存症問題を考える会」のリモートの自助グループでは、夜に開催すると100人くらい集まることもあります。
——自助グループにはどんな意味があるのでしょうか。
自助グループは同じ問題を抱えていて、問題を解決したいと思っている人たちの集まりです。でもそれは入口に過ぎないんです。
実際には自分の生き方を変えて、「同じ経験をしている誰かの手助けになりたい」と思っている人たちがいます。
私の周りは10年、20年と長くつながっている人が多いです。多くの場合、自身のギャンブルの問題は真面目に自助グループに行き続けていれば、1年や2年で落ち着いてきます。
その先は、自分の生き方に向き合っている人が多いです。よく「一生続けるんですか?」と聞かれるのですが、楽しいから行き続けているんです。生き方を変えていくことがおもしろいですね。
——だんだんと一つの居場所になっていくのですね。
少し前に「サードプレイス」という言葉が流行りましたよね。それに近いと思います。
ファーストプレイス(家庭)やセカンドプレイス(職場や学校)には、何かしら似た属性の人が集まっていると思います。
自助グループというサードプレイスは、入口として同じ問題を抱えている人という共通点はあるものの、年齢や地位や年収など、みんな違って、ありのままの自分でいられる場所です。
自助グループだからこそ脱げる鎧があって、正直に話せます。まだ世間には依存症者を見下す人はいますが、みんな何かしらの自助グループに行けばいいのに、と思っています。
——依存症は「完治」ではなく「やめ続ける」という表現を使われていますが、自助グループを離れていく方もいるのでしょうか?
やめていく人もいますが、私は長く繋がっている人が多いですね。やめるのは自由ですが、こんなに楽しい場所はないので、私はこれからもこの仲間の中にいたいです。
ただスリップ(またギャンブルを始めてしまう)して、自助グループに戻ってくる人もいます。スリップすると、だいたいは状況が悪化してしまうので、ずっと自助グループを続けることを私は勧めています。
自助グループをやめてギャンブルをやめ続ける方が難しいので、わざわざ険しい道を選ぶ必要はないと思います。今はオンラインの自助グループもありますし。
——自助グループを続けること自体が「やめ続ける」ために日常に取り入れやすい方法なのですね。
健康のためにヨガを続けるのと近いと思います。自助グループに行く方が、自分のメンタルヘルスにとって望ましい状態であるから続けています。
私もヨガをやっていたことがあるのですが、ヨガと依存症のプログラムには、自分の外にある偉大なものを感じたり頼ったりする点で共通点があると感じています。実際、依存症の回復施設でヨガを取り入れているところは多いんです。
依存症は「誰でも、なる。誰でも、なおる。」
——田中さんが高知東生さんとやっているYouTube「たかりこチャンネル」では、「誰でも、なる。誰でも、なおる。」という啓発動画を公開されています。
ギャンブル依存症問題を考える会が運営するメディア「Addiction Report」にて「ダメ。ゼッタイ。」に代わるキャッチコピーを募集するコンテストから選ばれたものです。
依存症に関わっている人の間では、「依存症は治らない病気で、完治はないけど、回復はある」と言われます。
ですが、世間のみなさんにとってはわかりにくいですし「一生治らないです」と言われたら、それだけで絶望してしまうのではないかと思いました。それで、やめ続けているなら「治った」と言っていいのではないかと思うんです。
——田中さんにとっての「回復」とは。
回復は人の数だけ定義があると思うのですが、「あなたにとって回復とは」と聞かれたとき、私は「自分を愛せるようになったことです」と答えています。
キャリアや子育てなど、もっと一生懸命やったほうがいいことがたくさんあった時期に、明らかに人生の優先事項ではない、ギャンブルや買い物に10年間もお金と時間を使っていて、そんな自分を好きになれなかったんです。「お前なんかいなくなった方がいいのに」と思っていたのは自分自身でした。
自分を失うような怖さに向き合いながら回復していって、私にとって回復したことが大きな喜びでした。回復を多くの人に伝えていこうと思い、生き方を変えていったら、だんだんと「結構私っていいやつだな」「自分が生まれてきた意味があった」と思えるようになりました。それが「自分を愛せるようになった」という経験です。
周囲の人間が注意すべきこと
——周囲の人間が注意した方がいいことはありますか?
友人や家族、恋人、小さな会社の社長などが「お金を貸して」と言われることが多いのですが、絶対にお金を貸してはいけません。お金を貸すことが余計に苦しめてしまうと覚えておいていただきたいです。
本人を自助グループや相談できる場所に連れていこうとして、何年も経ってしまうケースもあるのですが、まずは周りの人だけでも相談に来ることをおすすめします。
ちなみに、ギャンブル以外は「良い人」なことが多いので、「これを機に反省してやめるはず」と貸す側は期待してしまうのですが、ギャンブル依存症の人にそういった精神論は通用しません。そのままギャンブルに使ってしまったり、借金返済に使ってもまた新たに借金してしまったりするので、とにかく貸さないでください。
——「怪しいところから借りるくらいなら、自分が貸してあげた方がいいのでは」と思ってしまいそうです。
たとえば違法薬物依存症の人が離脱症状で苦しんでいたとして「こんなに苦しんでいて、自暴自棄になって事件を起こしたら困るから、私がちょっとだけ違法薬物を買ってきてあげよう」とはならないですよね。
ギャンブル依存症者にお金を貸すというのは、それと同じことだと思ってください。
——「共依存」の問題もあるのですよね。
家族など近い関係に多いのですが、ギャンブル依存症者がギャンブルのことで頭がいっぱいになるのと一緒で、「この人をなんとかしなきゃ」ということで頭がいっぱいになっていくのが共依存です。
だからこそ、離れることが大切です。繰り返しになりますが、家族だけでも相談に来てください。家族については、NPO法人「全国ギャンブル依存症家族の会」といった自助グループがあります。
ちなみに借金だけなんとかしても根本的な解決になりません。ギャンブルを止められる手段があることを知って、そしてギャンブルをやめ続けていくことが重要です。
ギャンブル依存症の予防はある?
——若年化しているということで、自分の子どものことが心配になる人もいると思うのですが、予防はできるのでしょうか?
ギャンブルに限らず、依存症になる人の背景には、自分を否定されたり、傷つき体験をしていたりと、生きづらさがあります。
親と子どもは別の人格であり、別の人生を歩む人間であること。そして、親が思う安全な道や、親が「こうあってほしい」選択など、親の考えの枠に子どもを当てはめようとしないことは大切だと思います。
ただ、傷つき体験や生きづらさがギャンブル依存症の原因というわけではありません。多かれ少なかれみんな持っていますし、傷つかないで生きていくことは不可能ですよね。
ですが、その傷つき体験を修復する方法は人それぞれです。不健康な心の守り方の一つにギャンブル依存があります。
——あくまで「可能性を減らす」ということですね。
子どもを一人の人間として尊重していても、結果的に子どもがギャンブル依存症になってしまうことはあります。子どもが成長するにつれ交友関係が広がっていく中で、ギャンブル好きの人とどこで出会うかわからないですよね。
どんなに気をつけていても、なるときはあります。親の育て方の問題でもありません。誰でもなるのですから、子どもをギャンブル依存症から守るために必要なのは、もしなったときのために、正しい知識を持っておくことです。
——「ギャンブル依存症への偏見を減らしたい」と思った人ができることはありますか?
相談しやすい社会を作っていくことだと思います。人に話しにくい病気は、本人にとって苦痛ですし、社会としても偏見を持たれがちですよね。「依存症という病気である」とカミングアウトしやすい社会にしていく必要があると思います。
【プロフィール】
田中紀子(たなか・のりこ)
ギャンブル依存症問題を考える会代表。
著書『三代目ギャン妻の物語』(高文研)、『ギャンブル依存症』(KADOKAWA)、『家族のためのギャンブル問題完全対応マニュアル』(アスク・ヒューマン・ケア)
■ギャンブル依存症問題を考える会HP
https://www.scga.jp/
■高知東生さんとYoutube「たかりこチャンネル」配信
https://www.youtube.com/channel/UChxybefxL-r0vaWcZL3ZTBA
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