依存症の親をケアする子どもたち…介護や家事を担うだけではない「ヤングケアラー」が抱える苦悩とは


前編では『専門家と回復者に聞く 学校で教えてくれない本当の依存症』(合同出版)の著者で、特定非営利活動法人ASK認定依存症予防教育アドバイザーで、自身も薬物依存症の当事者である風間暁さんに、自身のご経験を踏まえながら、依存症の誤解と真実について伺いました。後編では、逆境体験を経て、再び人を信じられるようになった経緯や、「情緒的なケア」に目を向ける重要性など、ヤングケアラー支援の課題についてお話しいただいています。
人間関係のガチャを回す
——虐待や仲間からの孤立など、人間不信になる経験をしつつも、再び信じられるようになるまでに、どのような心境の変化があったのでしょうか。
信じようとしたわけではなくて、結果として信じられるようになっただけです。振り返ると人間関係のガチャ運ですね。周囲にいる人が、私のことを尊重してくれる人になりました。
特にASKの依存症予防教育アドバイザーになって、仲間ができてからは、誰も私のことを否定してこないです。もちろん間違ったら教えてくれますが、私が傷つかないような言い方を駆使して伝えてくれます。そういう人との関わりの中で、徐々に安心感が蓄積されました。
たとえば、私はジャケットが嫌いなのですが、きちんとした服装が求められる場ってあるじゃないですか。そういう場にパーカーで行っても、仲間は「風間さんらしくて似合ってる」と褒めてくれる。私の「いつも自分らしいスタイルでいたい」という気持ちを無下にしないでくれるんです。でも安心感をもらうにつれて、「この人たちに迷惑をかけたくない」という気持ちが生まれてきて、今は「場所によってはジャケットを着ても嫌じゃない」と思うようになりました。
社会規範を押しつけてこない人たちのおかげで、「私は私らしくしてていい」「このままの私で受け入れてもらえる」ことがわかって、ありのままの自分でいていいと思えるようになった。その積み重ねで、私は自分を誇らしく思えるようになりましたね。
——「私らしくしてていい場所」を探すのにはガチャを回し続けるしかないのでしょうか?
そうですね。だって母数が少ないですもん(笑)。医療やカウンセリングだけでなく、友人関係でもガチャを回す必要があると思います。とりあえず一緒に遊んでみたけれども、バイブスが合わないので、2回目はないかなってことあるじゃないですか。そうやって色々な人と接してみて「またこの人と会いたい」と思える人に出会えるようになるまで、ガチャを回し続けるといいと思います。
ただ、いつ当たるかわからないガチャを回し続けるには根気がいりますよね。でも、当たりの数が増えれば、ガチャを回す回数は少なくて済む。すごくつらい経験をしてきて、立ち直っていきたい、生きていくために道を見つけたいと思っている人が、頑張ってガチャを回し続けなくてもいいように、ある程度恵まれた回復の道を進んできた私のような人間や、アライ(理解者)の人たちで、当たりの確率を増やしていけたらと思います。
——風間さんは色々な人との繋がりを持っているように感じるのですが、複数の人に頼ることは意識しているのでしょうか?
誰か一人が完全に痛みを消してくれるわけではないですからね。そんな人類がいたらもう、その人なしでは生きていけないほどにのめり込んでしまいそうです。私は、依存症を通じて出会った人だけでなく、依存症とは関係のない人とのコミュニケーションも大切にしています。ちなみに今回の本のイラストを描いてくれたのはゲーム友だちです。
ゲーム友だちには薬物を使っていたことを話している相手もいるのですが、びっくりされることはあっても「ヤバい人」みたいな扱いはされないですね。「マンガみたい」って面白がられます。
生きづらさは社会構造のせい
——風間さんのお話を伺っていると、生き続けていれば道が拓けるのかもしれないと思う一方で、苦しい渦中でそう思うことのハードルの高さも感じます。
どういう声かけが適切か考えているのですが、難しいですよね。私も「死んだ方が絶対に楽だ」としか考えられなかった時期があったので、そのときに「生きていればいいことあるよ」とか言われたら、鼻で笑うか「うるさい」としか思わなかっただろうと。
なんとなく、今苦しんでいる人たちは、もっと怒っていいと思うんですよね。怒るエネルギーも湧かないかもしれないですけど。
たとえば、発達障がいで生きづらさを感じている人は、自分の特性のせいで苦しいと思っているかもしれません。でも本当は、個々の特性を想定したデザインの社会になっていないのが問題であって、それは間違いなく社会の不備だと思います。そうやって、自分を責めるのではなく、怒りの矛先を考えるのも大事なことだと思っていて。私はそういう考えです。
——大人になってから生まれ育った家の機能不全や、子どもの頃の逆境体験に気づく人もいると思うのですが、どう向き合えばいいでしょうか?
虐待サバイバーの話を聞いて、大人になってから自分も虐待を受けていたことに気づく方って少なくないとは思うのですが、私の話を聞いて「私は風間さんよりは大変じゃなかったので/風間さんほど苦労していないので……」と自分の痛みを小さく見積もり、「我慢しなきゃ」と結論づけてしまう方も中にはいます。
そうやって比較対象として、私の体験を引き合いに出して「私はまだマシだから」と自分に言い聞かせている姿を見ていると、私は傷つくんですよね。そういうふうに私の体験を使われたくない。それに、苦しみや痛みって定量化できないものだから、本来は比較できるものでもない。自分が苦しいなら苦しいんです。自分の感覚に注目してほしいですね。
子どもの声を聞くことで、子どもの声を尊重する
——本書では親の依存症に悩む子どもが描かれています。親が依存症の場合、何かしら影響は生じるとは思うものの、どうしたら影響を小さくできると思いますか?
子どもたち自身が「自分にも権利がある」と知ることが大事だと思います。ヤングケアラーという言葉が注目を集めているように、親の疾患などで子ども自身の権利が尊重されない状態で生きている子は結構いると思います。
一方でヤングケアラーは必ずしも“かわいそう”とは限らないんです。私は子どもから直接話を聞く機会もあるのですが、楽しくて望んでやっている子もいます。たとえば「料理が好きで全く苦痛じゃないから、『かわいそう』と言われるのはムカつく」とか。外から見た状況でジャッジするのではなく、子ども自身の声をしっかり聞くことで子どもの権利を尊重できる。
——家族のケアが、自分の興味・関心とマッチしてやりがいになっている子と、やりたいのか、義務としてやっているのか区別がつかなくなってる子もいると思います。目の前にいる子が「私はやりたくてやっている」と言っていたら、風間さんはその子の言葉をそのまま受け取って接していますか?
私はそうしています。大人からすると「本心じゃないかもしれない」と感じることはありますし、それを想定するのは必要なことです。でもそれは本音を打ち明けてもいい相手だと判断してもらえていない大人の側の責任なので、粘り強く信頼関係を構築するしかないと思います。
大人は「早く状況を改善してあげたい」と思いがちですが、今にも死んでしまいそうとかの緊急性がないのであれば、ある程度は待つことも私は大切だと思っています。その子自身が自分の人生を切り拓いていける力を持っていると信じ、寄り添いながら待つことを私は心がけていますね。
わかりにくい「ケア」にも目を向けてほしい
——風間さんが所属するASKで制作されている『季刊Be!151号』では、風間さんご自身の経験を踏まえてヤングケアラーの「情緒的ケア」について綴られていました。今のヤングケアラー支援にどのような疑問を抱いていらっしゃいますか?
現状、わかりやすい介護や家事といった、大人から見て「一生懸命がんばっている」と見なされる行為にばかり、ヤングケアラー支援としての注目が集まっているように感じます。たとえば、アルコール依存症家庭のヤングケアラー、つまりアダルト・チルドレン(※)の子どもたちが行っている「ケア」として想像されやすいのは、親が飲み残した缶や、吐しゃ物を片付けるといった、誰から見ても「親をケアしている」とわかるような行動です。
でもわかりやすいケアだけでなく、父親がアルコール依存症だった場合、そのことによって疲弊している母親をなだめたり、聞き役になったりすることの苦しさや精神的な負担が語られることは多いですし、「母親が大変そうだから、本当は話したいことがあっても我慢する」とか、細かいところでもケアは発生しています。そういう情緒的な役割は、ケアラーとしては見えづらいですし、周囲からも発見しにくいんですよね。
※アダルト・チルドレン:元々はアルコール依存症の親のもとで育った人のことを指していたが、現在では機能不全家族で育った、子ども時代を子どもらしく過ごせなかった人々を示す。生きづらさを感じていることも多い。
——「ヤングケアラー=家族のために頑張っている良い子」というイメージも強いように感じます。
良い子でかわいそうだからなんとかしてあげたい、ということですよね。でも情緒的なケアを行っているのは、わかりやすい「良い子」だけではないんです。
アダルト・チルドレンには主に5つのタイプがあります。
①HERO(ヒーロー=家族の期待を一身に背負ったタイプ)
②SCAPEGOAT(身代わり=家族の問題を行動化するタイプ)
③LOST CHILD(いなくなった子=存在しないふりをして生きのびたタイプ)
④CLOWN(道化師=おどけた仮面を被って不安を隠してきたタイプ)
⑤CARETAKER(世話役=親や周囲の面倒を見てきたタイプ)
引用:https://www.a-h-c.jp/article/7184
私はおそらくスケープゴートで、“問題行動”をすることによって自分が身代わりとなり、家庭内の問題を一挙に引き受けてきました。でも、それもまた、家庭内の問題を薄めるという「ケア」を担っているんですよ。でも一般的にはケアとは認められないどころか、「不良」と呼ばれることがほとんどです。厳しく裁かれ、理解されないことで傷を増やす子もいます。ケアの形が多様であることを世間に知ってもらいたいですね。
とはいえ、ヤングケアラー支援は進んできてはいると思います。物事が動くときにどうしても取りこぼされる人は出てきてしまいますが、私は常に取りこぼされる側にいるので、「こっちも見ろ!」とは、引き続き言っていきたいですね。

【プロフィール】

風間暁(かざま・あかつき)
特定非営利活動法人ASK(アルコール薬物問題全国市民協会)社会対策部。ASK認定依存症予防教育アドバイザー。保護司。自らの経験をもとに、依存症と逆境的小児期体験の予防啓発と、依存症者や問題行動のある子ども・若者に対する差別と偏見を是正する講演や政策提言などを行っている。2020年度「こころのバリアフリー賞」を個人受賞した。分担執筆に『「助けて」が言えない 子ども編』(松本俊彦編著、日本評論社、2023)など。
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