依存症になるのは「自分に甘いから」ではない!依存症のメカニズムと関わり方を臨床心理士が解説
「依存症になるのは自分に甘いから」「『もうやらない』って言ったのに、またすぐ手を出すのは心が弱いから」と思っていませんか?実は、依存症は単なる「意思」や「心」の問題ではないのです。今回は依存症のメカニズムと周囲の関わり方についてご紹介します。
依存症とは?
依存症とは、特定のモノ・コトにのめりこみ、「やめたい」と思っても、やめられない状態を指します。
依存症は大きく2つに分けられます。
■物質依存:お酒・タバコ・薬物など精神に作用する「物質(モノ)」を摂取し続けなければ耐えられない状態になります。
■行為依存(プロセス依存):ギャンブル・ゲーム・性行為・万引き・買い物・ダイエットなどの「行為(コト)」にのめりこみます。
依存症は「好きなことができて楽しい」とか「面白くてハマっている」というものではありません。
時間・お金・健康・人間関係・仕事…など、大切なものが犠牲になっているのに、自分の意思ではやめることができない苦しい状態なのです。
依存症になるメカニズム
ここからは依存症になるメカニズムをご紹介します。
1.ストレス対処法として使い始める
依存の対象となるモノやコトは、「ストレス対処法」として使い始められます。たとえば、イヤなことがあったとき、「ぱーっと飲んで忘れたい!」と考え、お酒を飲む人も多いのではないでしょうか。
お酒・タバコ・薬物などの「物質」を摂取すると、ネガティブな気持ちが和らぎます。また、ギャンブルやゲームなどの「行為」は、強い興奮を引き起こし、ネガティブな気持ちを麻痺させてくれます。
ただし、効果は一時的。使用を中断するとネガティブな気持ちがよみがえるため、何度も使うことになります。
2.耐性ができて使用量・回数が増える
「お酒以外に楽しみがない」「暇つぶしがギャンブルしかない」など、ストレスの対処法が特定のモノ・コトに限られていると、ストレスを感じるたびに、それらを使うことになります。
しかし、人間は慣れる生き物。同じ量のお酒では酔えなくなったり、同じ金額を賭けたギャンブルでは興奮できなくなったりします。「耐性」ができてしまうのです。
そのため、依存対象を使用する量や回数はどんどん増えていきます。
3.生活や関係を壊してもやめられない
使用量や回数が増えていくと、
・お酒の飲み過ぎで身体を壊した
・ギャンブルで多額の借金ができた
・夜中にゲームをしていて朝起きられない
などの問題が起こり始めます。
周りの人が使用を止めようとしても、本人は「大丈夫」と言い張ります。一時的にやめても再び手を出し、周囲をがっかりさせることも少なくありません。
使い続ければ社会的な立場や人間関係まで失うことを本人も理解していますが、依存対象を手離せません。むしろ、周囲から責められるストレスに対処するため、さらに依存していくことさえあります。
依存症の人に対する周囲の関わり方は?
依存症は、本人よりも周りが異常に気づき、「なんとかしなければ!」と思う病気です。しかし、なんとかしようと焦るほど、本人を追い詰め、症状を悪化させることがあります。
周囲が依存症に対する適切な対応を理解しましょう。
Iメッセージで話す
依存している本人を見ると、「なんでお酒をやめないの!?」と責めたくなります。しかし、本人の意思でコントロールできない以上、責めても意味はありません。
依存症の人と関わるときは「I(アイ)メッセージ」でのコミュニケーションを意識しましょう。
先ほどの「なんで(あなたは)お酒をやめないの!?」は「あなた=You」を主語にした「Youメッセージ」です。Youメッセージは、「攻撃された」という印象を与え、反発を招きやすくなります。
「私はあなたにお酒をやめてほしい」「私はあなたの身体が心配」など、「私=I」を主語にすると、ネガティブな印象を和らげながら自分の主張を伝えられます。
イネーブリングをやめる
周囲の優しさが依存を助けることを「イネーブリング」といいます。
たとえば、
・泥酔して仕事に行けないときに、代わりに職場に連絡する
・ギャンブルでつくった借金を肩代わりする
など、依存によって生じた問題を代わりに解決することを指します。
自分では「大丈夫」と思っていたのに、泥酔して無断欠勤した。そのときはじめて、本人は「このままじゃマズイ!」「治療を受けた方がいいかも」と思えるかもしれません。
しかし、イネーブリングによって、問題が解決されると、回復や成長のチャンスが失われてしまうのです。心を鬼にしてイネーブリングをやめてみましょう。
本人に変わるきっかけを届ける
Iメッセージで話すことで本人に「治療を受けてほしい」という願いを伝え、イネーブリングをやめることで依存症により発生した問題の責任を本人に背負ってもらう。このような周囲の関わりを続けることで、本人が「このままではダメだ」と気づくきっかけになります。
参考資料
岡山県依存症専門医療機関(依存症治療拠点機関)地方独立行政法人岡山県精神科医療センター「依存症問題介入テキスト(簡易テキスト)」
AUTHOR
佐藤セイ
公認心理師・臨床心理士。小学生の頃は「学校の先生」と「小説家」になりたかったが、中学校でスクールカウンセラーと出会い、心の世界にも興味を持つ。大学・大学院では心理学を学びながら教員免許も取得。現在はスクールカウンセラーと大学非常勤講師として働きつつ、ライター業にも勤しむ。気がつけば心理の仕事も、教える仕事も、文章を書く仕事もでき、かつての夢がおおよそ叶ったため、新たな挑戦として歯列矯正を始めた。
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