ダイエット依存から抜け出せない理由をアイデンティティから考える

 ダイエット依存から抜け出せない理由をアイデンティティから考える
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「摂食障害」という言葉は聞いたことがある人もいるでしょう。けれど、自分とは全く関係がないことだと思っていませんか?例えば、何かを食べるたびに「今、何キロカロリー摂取したんだろう」「こんなの食べたら太るに決まってる…」そんな考えに支配され、摂食障害に至るケースもあります。摂食障害は誰にとっても身近にあるものです。摂食障害相談室を運営するカウンセラーのあかねさんによる連載コラムでは、決して縁遠いものではない「摂食障害」についてお伝えします。

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「太っている自分は、自分ではない」

「痩せないと、周りから認めてもらえない」

これらは、摂食障害やダイエット依存の方がよく口にする言葉です。「痩せていなければ、私ではなくなる」と思い込み、いざ自分の理想体型から逸脱すると、死にたくなるほどの苦しさを感じます。

このような考えに至る原因は、痩せ体型がアイデンティティになっていることにあるでしょう。

ここで扱うアイデンティティとは、「自分が自分である感覚」であり、さらには「自分が他者から認められている感覚」のこと。

ダイエットに成功したり、摂食障害になり痩せ体型に執着するようになると、そこに居心地の良さを感じ、「痩せている自分でいなければ、自分ではなくなる」と思えてきます。しかし、痩せ体型で獲得したアイデンティティは、かりそめのアイデンティティでしかありません。なぜなら、「痩せていなければ自分の存在価値を保てない」という観念にとらわれた結果、脅迫的に痩せを維持している状態だからです。つまり、痩せ願望の根底にある「自分自身の価値がわからない」という問題を、痩せで解決しようとしている状態です。したがって、痩せにとらわれた自分は、本来の自分の姿ではないのです。

 痩せ体型を個性として受け入れた先にある悲劇

ダイエット依存から抜け出せず、摂食障害でいる期間が長期に渡るほど、普通の生活の感覚を忘れてしまいます。すると、「痩せ願望とうまく付き合って生きていく=摂食障害を個性の一部として生きていく」という考えになる可能性がでてきます。そうなると、摂食障害を治すことがさらに困難になります。

私も摂食障害で苦しんでいた10年間は、「摂食障害でいること」が私を私たらしめていました。つまり、痩せていることで優越感にひたり、それを自信と勘違いしているうちに、せっかく努力して手に入れた痩せ体型を簡単には手離せなくなっていました。また、病気が長引くほど病気をカミングアウトする機会も増え、それが私の個性としてみられ、そのことに居心地の良さや存在価値を見出すこともありました。自分のありのままをカミングアウトすることはいいことですし、積極的に周りの人に頼ること自体は悪いことではありません。しかし、個性の一部にし続けてしまうと、完治を妨げてしまいます。

もちろん克服する過程で、病気とうまく付き合いながら完治を目指すことは、ほとんどの方が通る道です。ここで問題視しているのは、摂食障害が個性の一部になってしまい、そこに居心地の良さを感じた結果、「摂食障害を手放すことを怖い」と思うようになる点です。

「摂食障害だけど、他の人と同じように仕事をしている」「摂食障害だけど育児に励んでいる」など、摂食障害であることが、他の人よりも「苦労している証(=美徳)」として捉えていると、病気をアクセサリーのように感じ、手放すことが怖くなります。

また、痩せ体型をアイデンティティにしてしまうと、「常に痩せてなければならない」というプレッシャーに襲われます。「太ったら病気と見られなくなる」と思い込み、太ることを極度に恐れる状態は、健康的なアイデンティティとは言えません。

「痩せを手放した私には何も残ってない」と苦しまないために

摂食障害は健康体重に戻ったからといって完治するわけではありません。むしろ、私は標準体重に戻ってからの方が「痩せを手離した私には何も残ってない」という虚無感で苦しみました。しかし、この「つらい」「苦しい」という感情は成長痛のようなもので、それこそ本来のアイデンティティ確立のために必要な苦しみであり、避けて通れない過程なのです。

忘れてはならないのは、摂食障害は個性ではありません。「痩せ体型に執着する」のは病気の症状です。病気を個性として内在化し、共存を目指すのではなく、痩せ以外の自分の良さや好きなことを見つけ、その唯一無二の価値を心の支えにしていきませんか。

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AUTHOR

あかね

あかね@摂食障害相談室

「壁を扉に」を合言葉に、元摂食障害の心理士として「摂食障害オンライン相談室」を運営。1990年生まれ。高校生の頃に27kgになり10年に渡る摂食障害に悩んだのち完治。その間、入退院、高校中退、引きこもり、高卒認定試験合格の後に進学。大学では心理学を専攻し、卒業後は広告会社でコピーライター、デザイナーとして従事。30カ国60都市を訪問の末、宮崎に移住。カウンセラーの傍ら、農家でありクリエイターでもある。3児の母。



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