「意思が弱い人の問題」は誤解。高収入で友達も多い人がギャンブル依存症になる理由と自死リスク

「意思が弱い人の問題」は誤解。高収入で友達も多い人がギャンブル依存症になる理由と自死リスク
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「意思が弱い人の問題」「自己責任」そんなふうに思われることも多い、ギャンブル依存症。「ギャンブル依存症問題を考える会」代表の田中紀子さんによると、ギャンブル依存症者には、高収入で、友達が多く、周囲からも社会的信用も厚い人も少なくないとのことです。そしてギャンブル依存症には「誰でもなる」とのことです。詳しくお話を伺いました。

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ギャンブル依存症とは何か

——ギャンブル依存症とはどういったものなのでしょうか。ただギャンブルが好きな人と、どう違うのでしょうか。

ギャンブル依存症とは、自分でギャンブルをコントロールできなくなってしまう病気です。病気なので、意思の問題ではありません。

私たちが開発した4つの質問でできる「LOST」というスクリーニングテストがあります。2つ以上当てはまると、ギャンブル依存症の可能性があると考えられます。

L(Limitless):ギャンブルをするときには予算や時間の制限を決めない、決めても守れない 
O(Once again):ギャンブルに勝ったときに「次のギャンブルに使おう」と考える
S(Secret):ギャンブルをしたことを誰かに隠す
T(Take money back):ギャンブルに負けた時にすぐに取り返したいと思う

ただのギャンブル好きとの違いは、借金を何度も繰り返していても、やめられなくなっているのが依存症です。借金は誰にとっても苦しいことですが、自分を傷つけるような問題が起きていても「やめたくてもやめられない」自傷行為のような状態になっています。

——日本でギャンブルと言えば、どのようなものがありますか。

日本では賭博行為は禁止されていますが、法律で例外的に認められているのが公営ギャンブルである、競馬と競輪と競艇とオートレースです。全部スマホからできます。

日本でギャンブルと聞いてイメージされやすいのがパチンコですが、法的には遊技という立てつけで、厳密にはギャンブルではありません。

オンラインカジノは違法であると話題になりましたよね。

ほか、ギャンブルそのものではないものの、仕組みとして似ているのが投資です。仮想通貨やFXなどをきっかけに、私たちの「ギャンブル依存症問題を考える会」に繋がる人もたくさんいます。

ギャンブル依存症になる理由や背景

——ギャンブル依存症になりやすい人はいるのでしょうか。

なりやすい人というのは特にないですね。むしろ「誰でもなる」ということを知っていただきたいです。

とはいえ、リスクを高める要因はあって、若い頃からギャンブルを始めている人たちは、依存症になりやすいといえます。

また、環境要因として、お金の貸し借りが容易であるとか、家族や友達にギャンブルをやっている人たちがいて、なかなかやめ続ける環境が難しいということはあります。

『ギャンブル依存症』(KADOKAWA)の中では、機能不全家族で育った方の事例を紹介していますが、小児逆境体験(ACE)の経験がある人が、さまざまな精神的な不調を抱えやすいと言われている中で、依存症も含まれてはいます。

ただ、機能不全家族で育ったからギャンブル依存症になるのではなく、穏やかな家庭で育った方でもギャンブル依存になることはあります。繰り返しになりますが、「誰でもなる」んです。

世間のイメージと実態とのギャップ

——世間のギャンブル依存症に関する誤ったイメージとはどういったものがありますか。

よく「働きたくない人」「遊び人」「怠け者」と言われるのですが、それは誤解です。ギャンブルの場合、社会的信用がなければ、依存症にまでなれないんです。社会的信用があるから金融機関の審査が通って、多額の借金ができてしまうんです。

多いのはバリバリ働いて稼いでいる人です。性格としてはさまざまな人がいるものの、友達がたくさんいる人も多く、周りの人が「お金を貸しても大丈夫」と思ってしまいます。

ギャンブル以外はあまり問題がなくて「良い人」なことも多く、お金を貸しても返してくれないとか、ギャンブルによる借金を理由として犯罪にまで手を染めてしまうことが想像されにくいんです。

——勤務態度も真面目で、普通に一緒に働いていた人が、ある日突然事件を起こしてしまったということもあり得るのでしょうか。

「まさかあの人が」ということですよね。でも裏を返せば「不真面目でだらしない、ずる賢くて詐欺師みたいな人がギャンブル依存症になる」というイメージを持っているから、「まさか」と思うのではないでしょうか。

特殊な人がなる病気ではなく、あなたの隣の席にいる同僚がギャンブル依存症かもしれない。
そのくらい当たり前にある病気なんです。

「自分は確率計算ができるからギャンブルにハマらない」とおっしゃる方がいるのですが、
実際には優秀な大学の医学部や薬学部といった理数系の若者がギャンブルでドロップアウトしている現実があります。

——そんなに若いときからですか。

昔は若いときにギャンブル好きになって、徐々にのめりこんでいき、依存症になるのは中年期からが多かったんです。

スマホとコロナの影響で若年層とギャンブルの距離が近くなり、キャリアが形成されていない段階で発症してしまうケースが増えています。私たちの仲間には、回復して働いている人もいますが、土台となるキャリアがない分、大変になっているのは事実です。

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ギャンブル依存症の自死リスク

——ギャンブル依存症になって、そこから自死に追い詰められるほどに苦しむとは、どういったことが起きているのでしょうか。

ほかの依存症とも共通していると思うのですが、ある日突然ギャンブル依存症になるわけではありません。

最初のうちは「当たって嬉しい」「当たらなくてもワクワクしたからいいや」と、健全な範囲でギャンブルを楽しめています。頻度が増していくと、他の趣味よりも優先するようになってしまいます。

そのうち子どもの誕生日や恋人との記念日など、ほかの大事な予定もすっぽかすようになってまでギャンブルを優先するようになり、仕事中にもやることも出てきます。そうやって優先順位が狂ってくると、依存症の症状が始まっていると考えられると思います。

——ギャンブルが日常になるほど、お金もかかりますよね。

ギャンブルは長期的に見たとき、必ず負けるようにできていますので、頻繁にかけるようになったら負けが増えていきます。そうすると借金するようになって、借金がかさんでくると、今度は借金のことで頭がいっぱいになるのです。

すでに頭の中はギャンブルのことでいっぱいになっているので、解決策がギャンブルしか考えられなくなるんです。「この苦しみから逃れるには、借金を一発で返せるぐらいギャンブルで当てるしかない」といったように。

負けることはわかっていても、「一度大きく勝つこともあり得ない話ではない」と思い込んで、「勝つまではやめられない」といった強迫観念に囚われていきます。

私自身、ギャンブル依存症の回復者なのですが、病気の症状でギャンブルのことしか考えられなくなっているんです。でもそうやってギャンブルに人生をかけるような感覚が苦しいんです。

そして、自分でどうにもできなくなるほど追い詰められてしまい、自死に至ってしまう。「好きでやっている」と思われてるから、ギャンブルが原因で自殺まで追い込まれることを知らない人が多いんですよね。

——メンタルヘルス悪化の原因はギャンブルによる借金ということなのでしょうか。

それもあるのですが、ギャンブルをやめた後、自分がどうなるかというのが想像できないんです。

ずっとギャンブルと共に生きてきて、ギャンブルが人生の中心になっている。ギャンブルに依存するまでは、家族や友人などほかに大切なものがあったのに、いつのまにか頭の中がギャンブルでいっぱいになっています。そんな中で、ギャンブルをやめるのは、自分の核となるものを手放すイメージです。

私も最初はどう回復していくかの道を知らなかったので「ギャンブルがなくなったら、どうやって生きていくのだろう」と不安でした。

社会的コストと治安への影響

——ギャンブル依存に関して世間的には「自己責任」の考えが根強いですが、身近にギャンブル依存症者がいなくても関係あるのでしょうか。

たくさん影響があります。普通に働けなくなってしまったら、税金や社会保険料を払える人が減るということですし、ギャンブル依存症から他の精神疾患にもなってしまうこともあるので、そうすると医療費や障害年金、生活保護費といったこともかかってきます。

ギャンブル依存症が離婚の原因となることもあって、配偶者の収入が少なければ、児童扶養手当が必要になりますし、逃げるためのシェルターが必要になることもあります。

また、ギャンブルによる借金が犯罪につながっていることもあります。私たちの会の調査では、オンラインカジノ経験者93人にアンケート調査を行ったところ、46.2%が犯罪経験ありとの回答がありました。

犯罪が起きれば、その分、警察や裁判所、刑務所も動くことになり、そういった部分にも費用がかかってきます。

また若年層が自死にまで追い詰められており、少子高齢化や人手不足と言われている中で、労働力や若者の未来を失ってもいます。

だからこそ、国はギャンブル依存症の対策の舵取りをすべきだと思います。もっと予算や人員をつけるべきです。

※後編に続きます。

【プロフィール】
田中紀子(たなか・のりこ)

ギャンブル依存症問題を考える会代表。
著書『三代目ギャン妻の物語』(高文研)、『ギャンブル依存症』(KADOKAWA)、『家族のためのギャンブル問題完全対応マニュアル』(アスク・ヒューマン・ケア)

■ギャンブル依存症問題を考える会HP
https://www.scga.jp/

■高知東生さんとYoutube「たかりこチャンネル」配信
https://www.youtube.com/channel/UChxybefxL-r0vaWcZL3ZTBA

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