自分の考えにこだわりすぎるのは悪いことじゃない。でも窮屈になったらどうすればいい?心理師が答える

自分の考えにこだわりすぎるのは悪いことじゃない。でも窮屈になったらどうすればいい?心理師が答える
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石上友梨
石上友梨
2025-10-15

ASD(自閉スペクトラム症)など、発達特性をもつ方の中には、「一度信じた考えや解釈を柔軟に変えることが難しい」と感じる方が少なくありません。今回は考えにとらわれすぎず思考をゆるめる方法を心理師が提案します。

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1. なぜ思考が固定化しやすいのか

思考の固定化は、ASD(自閉スペクトラム症)等、発達特性のある方によく見られる特徴です。「認知の柔軟性(考え方を切り替える力)」が苦手な傾向があり、これは単なる性格傾向や頑固さではなく、神経発達的な特性と深く関係しています。認知の柔軟性は脳の前頭前野などと関係していて、状況に応じて考えを変えたり、新しい情報を組み合わせたりする力を支えています。また、感覚が敏感だったり、予測できないことへの不安が強かったりする場合、「はっきりしていること」「いつも通りのやり方」を求める気持ちが強くなります。その結果、“この考え方が正しい”と一つの見方に固まってしまうのです。

2. 固定化は「安心を守るための仕組み」

思考の固定化は、安心して生きるための方法でもあります。混乱や不安を減らすために、世界を「わかる形」で整理しようとする自然な動きのひとつです。ただし、その「安心のための世界」が長く続くと、他の人の意見や新しい情報を受け取りにくくなったり、人間関係の中で「分かってもらえない」「なぜ伝わらないのか」と感じやすくなったりします。また、「自分の考えが間違っていた」と気づくことは、「自分そのものが否定されたように感じる」ことでもあります。だからこそ、単に「もっと柔軟に考えましょう」と言われても、難しいことがあるのです。

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3. 固定化に気づくのは、なぜ難しいのか

思考が固定化しているとき、多くの場合、人は「自分の視野が狭くなっている」とは自覚できません。むしろ「これこそ真実だ」「これしか正しくない」と確信していることが多いのです。しかし、自分の考えが“事実そのもの”のように感じられていても、それが事実とは異なる場合があります。気づきは、たいてい外側からやってきます。誰かとの対話、何気ない出来事、あるいは自分が信じていた価値観とぶつかるような体験。その瞬間に「もしかしたら違うかもしれない」と感じる。それは痛みを伴いますが、思考の固定化が解けるきっかけになります。

4. 間違いを恐れる心と、自責の罠

多くの人がつまずくのは、「間違っていた自分」を受け入れるところです。発達特性のある人の中には、失敗や誤りを極端に恐れる人が少なくありません。それは、過去に「間違えたら怒られた」「理解してもらえなかった」という体験が積み重なり、失敗=存在の否定という感覚と強く結びついているからです。そのため、「修正する」という行為は“成長”ではなく、“自分を壊すこと”のように感じられます。「間違いを認める」ということは、自己否定の痛みを伴うのです。けれど、気づけたということ自体が、すでに変化の第一歩です。その瞬間を「ダメだった」とジャッジするのではなく、「あのときの自分は、それが最善だと思っていた」と理解してあげる。そうすることで、少しずつ自責のループから抜け出すことができます。

5. 他者との関わりの中で緩めていく

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一人で視野を広げることはなかなか難しいことです。「気づく」ためには、自分の中だけで考えるのではなく、他者との関わりや対話を通して、別の見方に触れることが重要になります。安心できる人との対話の中で、「自分の考えがすべてではないかもしれない」と感じられる瞬間が、思考がほどけるきっかけになります。「違う見方を示されても、壊れない」経験を積み重ねること。「間違っても受け止めてもらえる」関係を持つこと。そうした対話や関わりの中で、世界は少しずつ、多層的で豊かなものとして感じられるようになっていきます。

世界が狭まることは、“悪いこと”ではありません。もしその世界が窮屈に感じられたときには、誰かとのつながりの中で、ゆっくりと戻ってくればいいのです。視野が広がるというのは、自分の中にもう一つの「安心」を育て直すこと。誰かと共に小さな変化を感じながら、自分の考えや世界を柔らかく広げていきましょう。

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