気候変動で広がる新たな感染症リスク|『日本脳炎ワクチン』の免疫が低下でデング熱が重症化する危険性
気候変動によって感染症のリスクが広がる中、子供の頃に多くの人が接種してきた「日本脳炎ワクチン」が、世界的に思わぬ形で注目を集めている。
日本脳炎ワクチンとデング熱の意外なつながり
シンガポールのデューク-NUS医科大学の研究で、「日本脳炎ワクチン」で得られる免疫が時間の経過とともに低下すると、同じフラビウイルスに属する「デング熱」に感染した際、重症化リスクが高まる可能性があることが報告された。これまで「熱帯の病気」と思われてきたデング熱。しかし地球温暖化に伴い、媒介する蚊の生息範囲は年々北上しており、日本も例外ではない。感染症とワクチン免疫、そして気候変動が複雑に絡み合い、私たちの生活に新たなリスクをもたらしている。日本脳炎は主にコガタアカイエカが媒介するウイルス感染症で、日本では定期予防接種として子どものころにワクチンを受けるのが一般的だ。このワクチンで得られる抗体は、同じフラビウイルス科に属する他のウイルスに部分的に反応することが知られてきた。問題は、免疫が中途半端に低下した時である。抗体が十分に残っていれば感染防御に役立つが、弱まった抗体が逆にウイルスの侵入を助けてしまう「抗体依存性感染増強(ADE)」という現象が起こることがある。これがデング熱の重症化に関係しているのではないか、と研究者たちは警告している。
気候変動によってデング熱が“身近な病気”になるかもしれない
「それでもデング熱なんて日本には関係ない」と思う人もいるかもしれない。ところが2014年、東京・代々木公園周辺で国内感染が確認され、日本中を驚かせた。これは偶然ではなく、温暖化で蚊が活動できる期間と範囲が広がったことが背景にある。WHO(世界保健機構)によれば、デング熱はすでに世界100以上の国と地域で流行しており、年間推定4億人が感染している。そのうち数十万人が重症化しているとされている。気温が1度上がるごとに、蚊の分布域は数百キロ北へ移動する可能性があるとされ、日本でも本州の都市部で媒介蚊の存在が確認されている。つまり、日本脳炎ワクチンを子供のころに接種した人が、大人になって抗体が弱まった状態でデング熱にかかる―そんなシナリオが現実味を帯びてきたのだ。
専門家が指摘する「想定外のリスク」
国立感染症研究所の専門家は「日本脳炎ワクチン接種後、時間の経過で免疫が低下した世代にとって、デング熱は新たなリスクになり得る」と話す。さらに「気候変動でウイルスを媒介する蚊の分布が変化し、これまで安全とされてきた地域でも感染症が広がる可能性がある」と警鐘を鳴らしている。実際、欧州では温暖化に伴ってダニが媒介するライム病の患者数が増加し、アメリカでは西ナイルウイルス感染症が広がっている。「日本は安全」という前提は、すでに揺らぎ始めているのだ。
リスクにどう備えるか?
では、私たちはどう備えるべきなのだろうか。日本脳炎ワクチンについては、現在も小児期に複数回接種することが推奨されているが、成人になってからの追加接種は一般的ではない。研究が進めば、将来的に「ブースター接種」が検討される可能性もある。一方で、日常生活でできる対策もある。こうした小さな行動が、感染症拡大の時代に自分や家族を守る鍵になる。
- 夏場は虫よけスプレーや長袖を活用し、蚊に刺されにくい環境を作る
- 家の周囲に水たまりを放置しない
- 災害時には清潔な水や食事を心がける
- 発熱や発疹が出たら、ただの風邪と思わず早めに受診する
気候変動というと「氷河の融解」や「海面上昇」といった環境問題をイメージしがちだが、実際には私たちの体に直結する健康問題でもある。感染症の拡大はその象徴的な現れであり、温暖化の進行とともにますます重要な課題となっていくだろう。
出典:
Waning Japanese encephalitis immunity linked to more severe dengue illness
Study Finds Link Between Waning Japanese Encephalitis Immunity and Increased Dengue Severity
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