「独身」と嘘をつかれた!独身偽装されたときの対処法と慰謝料請求【弁護士が解説】

「独身」と嘘をつかれた!独身偽装されたときの対処法と慰謝料請求【弁護士が解説】
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最近聞くことの多い「独身偽装」。独身であると偽って、交際を続けて、既婚者であることが判明した際に、訴えられているケースもあります。もし独身偽装をされてしまった場合、どんな法的な対応がとれるのでしょうか?恋愛に関するトラブルに詳しい三輪記子弁護士にお伺いしました。

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独身偽装による貞操権侵害とは?

——独身偽装をされたとき、どんな場合に貞操権侵害が認められるのでしょうか?

過去の裁判例を見ると、貞操権侵害が認められるのは、

①一方の当事者が既婚者であることを隠し
②相手に結婚することを期待させて
③親密な交際を継続した

という場合に、相手の人格権と貞操権を侵害した不法行為であるとして、精神的な損害に基づいた慰謝料請求が命じられているケースがあります。

なお、人格権とは、人が当然に持っている権利で、明文された規定はありませんが、憲法13条の幸福追求権を根拠に保護されると考えられています。

——反対に、貞操権が認められなかった例として、どのような場合がありますか?

「交際当初から相手が既婚者であることを知っている」といったように、相手を独身と誤信した事情がない場合などは、貞操権侵害が認められる可能性が低いでしょう。

——独身偽装をされて、相手が既婚者と知らないまま妊娠や出産した場合、養育費を相手に請求できる可能性はあるのでしょうか?

あります。養育費は、親子関係が認められれば請求ができます。相手の男性が認知に応じなくても、母たる人(子の親権者)が相手の男性に対して認知を求める申し立てを行うと、多くの場合はDNA鑑定を実施し、鑑定結果から親子関係が認められると判断されれば、強制的に認知されることとなり(「強制的に」というのは、父とされる人の同意がなくても、という意味です。)、法律上の親子関係が認められますから、「父」に対して養育費の請求をすることが可能になります。

ただ、妊娠したことを告げて連絡が全くつかなくなって行方もわからないような状態ですと、認知を求める請求自体が難しくなってしまいます。なので、どんな出会い方であっても、相手がどこの誰なのかはしっかりと確認しておくことをオススメします。

慰謝料
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――貞操権の侵害は、女性が男性を訴えるケースが多いとのことですが、男性から女性を訴えることも、可能ということでしょうか?

男性から女性を「婚約不履行」で訴えている事案はありますし、理論上男性が女性に対して貞操権侵害で訴えることは可能です。ただし、過去の事案に関しては、女性が原告で男性が被告になっている事案が多いということは指摘できると思います。

――貞操権侵害が認められたケースとして「相手に結婚することを期待させて」とありますが、同性(異性と法律婚済)から独身偽装をされた場合は、現状同性婚の制度はないものの、パートナーシップ制度を利用することを匂わせたり、生涯をともにするような意思を示すような文言が残っていたら、貞操権侵害が認められる可能性はあるのでしょうか?

同性のパートナーにおいても、パートナーシップを侵害する行為(第三者が介在して、不貞状態になるような行為)について慰謝料請求が認められている事案があるので、同性の人の間でも独身偽装的な事案で慰謝料請求が認められる余地があると考えます。

――パートナーシップ制度を利用している同性カップルの片方が、貞操権侵害にあてはまる行為をして、同性の人を騙していた場合も同様の考え方ができるのでしょうか?

内縁関係でも法的保護に値すると評価される場合があるので、同性カップルの場合はそのような考え方で違法性が認められると考えます。

——被害者感情としては「既婚者と性行為することには同意していないから性暴力」という声もあります。現状、「不同意性交」で罪に問えない理由を教えていただけますか。

今の不同意性交等罪の要件では、罪に問うことは難しいと考えます。「相手が独身だと信じていたから性行為に同意した」という気持ちはとてもわかるのですが、現状「未婚であると偽っていた」というような要件はないので、刑事罰として罪に問うことは難しいです。

独身偽装をされたことによる慰謝料請求は民事訴訟でのことになりますが、不同意性交等罪で問えるかということは、犯罪か否かという刑事罰の話になり、国家権力が過度に私的領域に介入する話になるのではないかとも言えます。そういう意味で、性的行為に国が介入できる幅を広げることには不安もあります。

もちろん、不同意性交が犯罪とされる現行法について、個人的には賛成しているのですが、この不同意性交罪については、処罰範囲が明確とはいえず、何が犯罪行為なのか不明確ではないかという批判もありますし、性行為についてどこからどこまでを犯罪とするのかについては非常に難しい問題があると感じています。

もちろん、信じていたのに騙されて無駄な時間も過ごして……と本当にショックな気持ちもよくわかります。現状、貞操権侵害で請求できる慰謝料の額は低く、独身偽装をしても経済的リスクが小さいことが問題だと思います。

騙されていたものの、「不倫」として訴えられるリスクは?

——独身偽装をされた側からしたら「騙された」という感覚ですが、「不倫」として訴えられるリスクはあるのでしょうか?

あります。妻側の弁護士から「なぜ詳しく調べなかったんですか?」「気づくタイミングは本当になかったのですか」とも聞かれることもあると思います。

——「疑う部分が全くなかった」と思っている人もいると思います。独身偽装をされた側が本当に知らなかった場合は、不貞行為の責任を問うことは難しいということでしょうか。

妻側が訴えること自体はできるのですが、独身偽装をされた側が本当に知らなかった場合、請求が認められないケースもあります。

——本当に既婚であることを知らなかったのに、妻に不貞行為で訴えられて請求が認められてしまった場合、男性側に責任を負わせることはできるのでしょうか?

当該事案における、妻との合意内容によりますが、求償権の行使といって、慰謝料のうち●%を支払ってくださいと、男性側に請求することは可能です。そもそも、不貞行為は、当該不貞行為をした当事者2名による不法行為であると考えられているためです。

——独身偽装に気づいたときに、どんな対処法がとれるでしょうか?

まずは判明したらすぐに別れた方がいいと思います。そのうえで、独身だと示したり、匂わせたりするようなやり取りが残っていたら、それは証拠として残しておきましょう。

「騙されていた」とわかって、ショックも大きく、自分だけで冷静に判断することは難しいとも思います。ネットで独身偽装に関する情報も出ているので、自分で調べて判断したくなってしまうと思うのですが、それぞれの状況によって話も変わってきますので、自己判断せず、個別の具体的な事案として、弁護士に相談した方がいいと思います。

一人で判断して、変に別れられなくなってしまったり、脅したり突撃したりして別の不法行為の加害者になってしまったりと、泥沼にはまってしまうおそれがあるので、一人で抱え込まず、誰かに相談することはとても重要です。

※後編に続きます。

【プロフィール】
三輪記子(みわ・ふさこ)

第一東京弁護士会所属。
東京大学法学部、立命館大学法科大学院卒業。
2010年に弁護士登録し、2021年3月には「三輪記子の法律事務所」を開設。
著書に『これだけは知っておきたい男女トラブル解消法』(海竜社)。

■YouTubeチャンネル
https://www.youtube.com/@MiwaFusako_B
 

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