ストレス溜まってない?「こころのティーカップ」でわかる心の状態チェック法|公認心理師に聞く
日々、生活する中で、大なり小なりストレスをためている人は少なくないと思います。ストレスや自分の心とどう向き合っていけばいいのでしょうか?『あふれる「しんどい」をうけとめる こころのティーカップの取り扱い方』(高橋書店)著者で、公認心理師の藤本志乃さんにお話を伺いました。
日常生活で気づく「心の限界サイン」
——本書では、ストレスをためてしまう様子を「こころのティーカップに水がたまる」と表現されています。日本では予防的なメンタルヘルスの意識を持つ人がまだ少なく、限界が近くなってからメンタルヘルスの情報に向き合う人も多いと思います。日々の生活の中で、自分のティーカップの水が溢れそうな状態に気づくためのポイントを教えていただけますか?
まず、溢れそうになっているときの大きなポイントとして、食事がとれなかったり、眠れなかったり、今まで楽しかったことが楽しめなくなるといったサインが出てくることがあります。
ストレス症状としてのサインは、心理学の中で一般的に言われており、心理的反応、行動的反応、身体的反応の三つに大きく分けられています。
心理的反応としては、主に不安が出てきたり、イライラしやすくなったりするものがあります。行動的な反応としては、集中力が低下したり、眠れなくなったり、飲酒や喫煙の量が増えたりという反応が出てきます。身体的な反応としては、心拍数が増加して血圧が少し上昇したり、緊張するので肩こりや頭痛といったものを訴える方もいらっしゃいます。
こうしたストレスのサインを知っておいていただければ、ストレスチェックをやらなくても、「最近イライラしている」「眠りづらい」と感じたら、「ストレスが溢れそうかも」と気づくきっかけになるでしょう。
——本書の中で、ティーカップの水のたまり具合として、三つの状態別でセルフケアの取り入れ方が書かれていましたが、それぞれ取り入れる視点として大切なポイントをお伺いできればと思います。
一つは、載っている方法がうまくいかないからといって、人によって合う・合わないものはありますので、へこまないでいただければと思います。
今回、エネルギーのレベル別でできそうなものを挙げています。ただ、ストレスのレベルにこだわりすぎて、「私は今このレベルなのに、書いてあることができない」と、余計にストレスをためる必要はありません。
最終的にストレスが軽減されれば良いので、自分のレベルと異なる方法でも構いません。様々なレベルの方法を知っておくことで、より実践しやすくなります。
セルフケアを続けるために
——本の中で紹介されている30のセルフケアの方法の中で、特に反響が大きかったものはありますか?
ストレスの対処法としての「おまもりリスト」の作成や「思考に名前をつけてみる」といった割と簡単にできる方法は「取り組みやすかったです」と好評です。
——藤本さんご自身が実践されていることはありますか?
「ジャーナリング」という名前を聞く前から、「書く」ことはやっていました。マインドフルネスは、理論的に非常に色々なところに役立つとわかってから、日常的に取り入れてます。マインドフルネスは継続するほど、頭がすっきりしたり、思考と感情との上手な付き合い方ができるようになる感覚があります。
「脳が変わる」といわれているのですが、それは本当だと感じるくらいの効果は感じていますし、しばらくお休みすると、元の脳の癖に戻るような感覚もあります。
——セルフケアを続けていくことも大事だと思うのですが、継続するためのコツはありますか?
やってみて効果を感じたり、やっていて心地いいと思えるものは自然と続いていくと思います。無理する必要があるものは外して、やりやすいものから始めることが継続のコツだと思います。
「これは良いことだから、やらなければならない(義務感)」と思った瞬間に、続けることが難しくなると思うんです。頭で考えなくてもできそうなものを、できる時間で続けていくことが一番大事ですね。
大事な「少し動く」ということ
——ティーカップの水が溢れそうな、心の限界が近い方に対して、周囲の方ができるサポートで、効果的なことと避けた方がいいことを教えていただけたらと思います。
よくうつの人に対して「『頑張って』と言わないようにする」とか、「『休んで』と言った方がいい」という話を聞くと思うのですが、実は心理学的には逆だといわれています。
もちろん無理をさせてはいけない前提で、窓を開けるとか10%ぐらいの力でできる、ちょっとしたことでいいので、少し動いてもらう方が気分が変わりやすいことがわかっているんですね。これを心理学では「行動活性化」と呼びます。
「休む」中で、スマホを見る中で情報を得て、余計に頭でぐるぐると考えて続けてしまうことが、かえって悪化させてしまったり、気分が全然回復してこないことに繋がってしまうので、少し動くことが非常に大事なのです。
また、心の限界が近い方は、エネルギーが枯渇しているような状態だと思います。「環境調整」といって、ストレスの原因が少しでも減るような対策を講じていくことは、職場側でできることとして、すごく大事なポイントです。
——ティーカップに水が溜まりやすい人は、一昔前まで「弱い人」という扱いを受けやすかったと思います。それで本人も自分を責めてしまうことが多かったと思うのですが、このような考え方や社会的な価値観に、専門家として思うことはありますでしょうか。
心が弱いわけではなくて、職場環境や人間関係など、周囲の状況が心の状態に大きく影響するのは誰にでもあることです。
「私は強い、今までうつなどにもなったことがない」人でも、突然倒れたりすることはありえます。遺伝的な要素は関係なく、環境要因であることなので、心の強い・弱いは関係ないことはお伝えしたいことです。心の問題は、個人の問題ではなく、個人と環境の相互作用だといわれているんです。
——体と心の状態の関連性について教えていただけたらと思います。
「心身相関」という言葉があって、ずいぶん昔から、心と体が繋がっていることは、心理学の分野では指摘されていることです。
体が緩んでいる状態でイライラしたり不安になったりすることは、人間はメカニズム的にできないことがわかっています。なので、心を緩めたいときに心を緩めようとすることは結構難しいのですが、体を緩めてあげることは比較的やりやすいんです。
呼吸法などの心理的リラクゼーションでもいいですし、普段からご自身がやっていらっしゃるストレッチやヨガなどでもいいので、自分にとって体が緩みやすいことをやっていただくと、体に伴って、心は落ち着いていきます。
「落ち着こう、落ち着こう」と思っても難しいので、体をとにかく緩めてあげることにフォーカスしていただくのは非常に大事なことです。
※後編に続きます。
【プロフィール】
藤本志乃(ふじもと・しの)
公認心理師、臨床心理士。 早稲田大学人間科学部健康福祉学科、早稲田大学大学院人間科学研究科卒業後、荒川区教育センター心理専門相談員と東京大学医学部附属病院腎臓・内分泌内科心理士を兼任。
その後、日本赤十字社医療センター腎臓内科心理判定士を経て、2020年にオンラインで心について学べるサービス(オンラインカウンセリングを含む)を提供するLe:self(リセルフ)を創業。2025年より働きごこち研究所取締役兼任。
カウンセリング歴は15年で、グルーブアプローチを含め、これまでに約5000人を診た経験がある。その他、企業でのメンタルヘルス研修など予防的な心のケアに関する講演、コンテンツ作成などにも多く携わっている。
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