セルフラブとは?「自分を責める」「有害なポジティブさ」を抜け出すヒント
エコーチェンバー現象や排外主義の台頭により、視野狭窄になりがちな今、広い視野で世界を見るにはーー。フェミニズムやジェンダーについて取材してきた原宿なつきさんが、今気になる本と共に注目するキーワードをピックアップし紐解いていく。
近年、セルフラブやセルフケアという言葉が注目を集めています。SNS上では「自分を愛そう」「ポジティブに生きよう」というメッセージが溢れ、多くの人が「自己肯定感」を高めようと努力しています。
しかし、自分を愛そう、ポジティブに生きよう、と頑張った結果、自分を嫌いになってしまうケースもあるようです。
今回は、悪循環に陥らないためのセルフラブ実践のためのヒントをご紹介します。
セルフラブとは? 自分を否定したり、責めたりすることをやめること
そもそもセルフラブとは何でしょうか?
セルフラブとは、自分を愛することです。愛とは何か、人それぞれ定義が違うように、セルフラブの定義も個々人によって異なるでしょう。
文筆家の佐久間裕美子は著書『今日もよく生きた ニューヨーク流、自分の愛で方』(光文社)の中で、セルフラブを以下のように定義しています。
“セルフラブは、ただ「私、最高!」と思うことではない。まずは自分を否定したり、責めたりすることをやめること。思うようにいかない日の自分を許すこと。そして、がんばっている自分を褒めてあげること。自分の人生を一緒に送るパートナーとして、大好きな友達みたいに、労ったり、励ましたりしながら扱うことなのだ。”
他人を愛するより、自分を愛するほうが難しい
一般的に、人間は利己的な生物であり、自分の利益や幸せを一番に追求すると思われています。しかし、実際は、他人は愛しすぎてしまうのに、自分のことは蔑ろにしてしまう人も少なくありません。
漫画『わたしたちは無痛恋愛がしたい〜鍵垢女子と星屑男子とフェミおじさん〜』(講談社・瀧波ユカリ)では、大切な友人のためなら怒れるのに、自分のためには怒れない女性・赤井川さんが出てきます。
赤井川さんは、既婚者だということを隠して交際するいわゆる「独身偽装」の被害に遭います。赤井川さんは、「なんでもっと早く気がつかなかったんだろう」「騙された私もうかつだった」と自分を責めるのですが、すぐに友人の由仁(ゆに)さんが「赤井川さんは何も悪くないです。恥じることでもない。もし私が同じ目に遭ったらそう思いますよね?」と問いかけることで、「独身偽装」の悪質さに気がつきます。
由仁さんがもし自分と同じ被害に遭ったら……と想像するだけで、髪の毛が逆立つほどの怒りに駆られたのです。そしてやっと「そうか。怒っていいのか」と気づくことができたのです。
赤井川さんのように、他人に置き換えたら冷静に判断できるのに、自分のことになると自分を責めてしまう人は少なくありません。
「自分いじめ」をやめるエクササイズ
佐久間裕美子はこのような「自分いじめ」を発生させない方法として、一つのエクササイズを紹介しています。
そのエクササイズとは、まず自分について思うことを書き出してみて、それを他人に言うだろうかと考える、というものです。自分に普段言っていることは、他人に対しては言わない厳しい言葉だったりもします。
自分に対する声掛けを、愛しているパートナーや親友にかける言葉と同じ種類のものに変えていければ、自分を否定したり、貶したりすることはやめられるでしょう。
セルフラブの落とし穴「有害なポジティブさ」
セルフラブを実践する過程で「こんな自分は愛せない」と思うこともあるでしょう。自分の◯◯な部分が嫌いだけれど、自分を愛さなければならない……そうなった時に陥りがちなのが、無理やりポジティブ思考になり、自分の気持ちに嘘をつくことです。
本当は苦しいのに、辛いのに、嫌なのに……負の感情から目を背け、どんな困難な状況でも「感謝すべき」と自分に言い聞かせたり、他人の悩みに「ポジティブに考えて」と軽く流すようになったりしてしまえば、自分だけでなく他人をも苦しめることになるでしょう。
このように、無理やりポジティブに考える思考のあり方を「有害なポジティブさ(Toxic Positivity)」と言います。
「有害なポジティブさ」とは、どんな状況でも無理にポジティブでいようとする態度や考え方のことです。明るく前向きにいようとすることは良いことのように思えますが、行き過ぎたポジティブさは、ネガティブな感情や怒りを抑圧につながり、ひいては、自己否定や抑圧になるのです。
「有害なポジティブさ」に陥らないためには、「真のセルフラブとは、自分の光の部分も影の部分も含めて、まるごと受け入れることだ」と理解する必要があるでしょう。
セルフラブは1日にしてならず。生涯のパートナー「自分」との付き合い方を学ぼう
セルフラブは一朝一夕で身につくものではありません。長年の習慣で染み付いた「自分責め」の声は、簡単には変わらないでしょう。それでも、「あ、また自分を責めているな」と気がつけば、自分に対する声掛けを変えていくことはできます。
完璧を求めず、頑張った自分を「よくやったね」と労わり、辛い時は「辛い」と認める。そういった小さな実践を積み重ねることで、自分自身との心地よい関係を築いていけるでしょう。
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