完璧主義がうつの原因に。陥りやすい人の思考・行動の傾向や和らげ方をやさしく解説
本記事では、うつ病になりやすい考え方の傾向とも言われる、完璧主義になる原因や、完璧主義にみられる2つのタイプについて解説します。完璧主義の人がうつに陥らないための対処法も紹介するので、ぜひ参考にしてみてください。
「完璧主義」はうつ病の原因のひとつ
完璧主義者は、脳のエネルギーを消費しやすく、うつ病になる傾向が強いです。他にも、次のような性格はエネルギーを必要としやすく、うつ病になりやすいといわれています。
- 責任を背負い込む性格
- 凝り性な性格
- 几帳面な性格
- 生真面目な性格
- 周りに気を遣う性格
以上の性格の場合、努力と成果が釣り合えば、努力の過程で消費したエネルギーを回復できるでしょう。一方、成果が出せなかったり努力の途中でエネルギーが枯渇したりすれば、精神を消耗して、うつ病になる危険性が高まります(※1)。
なお、うつ病を引き起こす要因はひとつではありません。以下の要因で悩みを抱えて、うつ病になることがあります。
- 人間関係のトラブルや大切な人との離別などの環境要因
- がんや糖尿病などの身体疾患
- 遺伝的要因
以上の要因と性格が複雑に絡み合い、うつ病を発症するのです(※1)。
完璧主義になる原因
完璧主義はうつ病のリスクを高める原因の1つであるため、完璧主義を手放すことはうつ病を予防する有効手段の1つです。まずは完璧主義になる原因を確認して、うつ病になりやすい性格とどのように向き合えばよいか考えてみましょう。(※13)
子どもの頃の厳しいしつけ
子どもの頃に親から厳しいしつけを受けると、完璧主義になる可能性が高いといわれています。
厳しくしつけられる過程で、完璧にできることが当たり前と思い込むようになり、できない自分を許せなくなるのです。
親を落胆させたり、怒らせたりしないように、何事にも完璧に取り組むことで自分を守ろうとします。
過保護
過保護な親に育てられた子どもは、失敗や不安に耐える力が養われる機会が少ないため、完璧主義者になりやすくなります。
失敗を避けようとするあまり、完璧に物事を進めないと過度に不安を感じ、完璧主義に陥ります。
生まれつきの性格
発達障害の傾向がある子どもは、完璧主義になりやすいといわれています。
発達障害の特性は、手の抜き方の加減を理解しづらく、極端に細部へのこだわりを見せ、物事を完璧にしようとする点です。
いわゆる「0か100」の思考になりやすい子どもが多く、まったくできないケースが見られる反面、過度に完璧にこだわる点が特徴です。
完璧主義にみられる2つのタイプ
ここまで説明したとおり、完璧主義はメンタルヘルスに悪影響を及ぼし、うつ病の要因となる可能性があります。
しかし、完璧主義であることが必ずしも悪いわけではありません。完璧主義を活かして前向きに行動できる人もいます。
このような違いが生まれるのは、完璧主義には2つのタイプがあるからです(※2)。
完璧主義に適応・不適応の両側面があることが示された研究は複数ありますが、代表的なものとしてFrost et al.氏(1990)の研究があります(※3)。
国内においても、大谷・桜井(1995)や小堀・丹野(2004)の研究から、完全主義には適応的な側面だけでなく、不適応的な側面があることがわかっています(※3)。
ここでは、完璧主義の特徴について2つのタイプに分けて解説します。(※4)。
適応的完璧主義
適応的完璧主義の特徴は次の通りです。
- 失敗や否定を過度に恐れない
- 他者からの評価を過度に気にしない
- 理にかなった高い目標を設定し、計画した範囲でできることをする
- 自ら積極的に努力する
- 秩序立てて計画的に行動する
適応的完璧主義者は自尊心が高く、成功に向かって失敗を恐れずにチャレンジできるでしょう(※4)。また、たとえ失敗しても自分を過度に追い詰めないため、再挑戦する精神を保てる傾向にあります(※5)。
不適応的完璧主義
不適応的完璧主義には次のような特徴があります。
- 失敗を過度に恐れる
- 他者からの評価を過度に気にする
- 人から評価されないと不安になる
- 高すぎる目標を設定して、自分を追い込む
- 「自分はだめな人間だ」と自己批判が強い
不適応的完璧主義者は自尊心が低く、自分には価値がないと感じてしまう点が特徴です。また、失敗を過度に恐れるあまりに挑戦を回避したり、やるべきことを先延ばしにしたりしがちです(※4)。
Slaney ら(Grzegorek, Rice, Slaney,& Franze, 2004)の研究によれば、不適応的完璧主義者は適応的完璧主義者よりも、抑うつ症状を多く経験することがわかりました(※6)。そうなるのは、不適応的完璧主義者は失敗を過度に恐れたり、他者からの評価を過度に気にしたりするため、ストレスを感じやすいからと考えられます(※7)。
不適応的完璧主義に見られる特徴
不適応的完璧主義者は、日常生活で次のような特徴が見られます(※8)。
- 目標設定が高すぎる
- 他人に攻撃的になる
- 白黒はっきりつけたがる
- 先延ばしにする
- 強い承認欲求によって空回りしがちになる
それぞれの特徴が、自分に当てはまるかどうかチェックしてみてください。
目標設定が高すぎる
不適応的完璧主義の人は、失敗を許せず、達成までの道筋を無視した現実的ではない目標を設定しがちです。
たとえば、受験勉強をするときに「1日6時間は自習する」などと高い目標を設定しがちです。それを何とかして達成しようとするため、疲れてしまう可能性があります。周囲を巻き込んで、周りを疲弊させることもあります。
他人に攻撃的になる
完璧を求める対象が他人に向くと、目標を達成できない人を攻撃することがあります。
たとえば、仕事などで手を抜く人を許せず、「私はこんなに頑張っているのに不公平だ」とイライラしてしまうことがあります。その結果、相手との仲が険悪になるかもしれません。
白黒はっきりつけたがる
完璧主義の人は極端な考え方をしがちで、白黒はっきりつけたがる傾向があります。
グレーゾーンがないため、仕事や家事などで小さなミスを許せない人もいるでしょう。また、相手の嫌な面を知ると許せなくなることがあります。
先延ばしにする
失敗するのが怖くて、物事になかなか取り組めない人もいます。その結果、予定通りに計画が進まずに、周りに迷惑をかけるかもしれません。「完璧にしなければいけない」という気持ちが強すぎるあまり、勉強や家事になかなか手をつけられない人もいます。
強い承認欲求によって空回りしがちになる
「素のままの自分では価値がない」と思い込み、他者からの評価を過度に気にする傾向があります。そのため、本来の目的を無視して、他者からの承認を優先しやすくなります。
他人の評価を気にしながら、仕事や勉強、家事などをこなそうとするため、意味のないことに時間を費やしてしまうときもあるでしょう。
このように不適応的完璧主義は、日常生活にさまざまな悪影響を及ぼすため、改善すると充実した毎日を送れると言えるでしょう。
不適応的完璧主義がうつにつながる理由は「認知のゆがみ」
不適応的完璧主義者は失敗を過度に恐れ、漠然とした不安に駆られます。心理学の世界では、「10種類の認知のゆがみ」によって、不適応的完璧主義者が不安に駆られうつになるといわれています(※9)。
そもそも「認知」とは、物事の受け止め方や捉え方、捉えた事象を解釈するプロセス全体を示すものです。
「認知のゆがみ」とは、論理的誤りに満ちている状態のことを指します。たとえば、受け取った情報を自分の思考のクセに従って解釈し、客観視したり他の人の意見を取り入れて修正したりすることが難しい場合は認知がゆがんでいる状態です。これは「バイアス」や「思考のクセ」とも呼ばれます(※10)。
認知のゆがみ 10パターン
認知のゆがみは、アメリカの医学博士アーロン・T・ベック氏によって提唱され、下記の10パターンが示されました(※10)。
- 全か無か思想…ものごとを白か黒かで極論化して考える
- 一般化のしすぎ…一度自分に起こったことが、この先もずっと繰り返すと思い込む
- 心のフィルター…ものごとのポジティブな面を意識できず、ネガティブな面ばかりに目がいってしまう
- マイナス化思考…悪いことには「やっぱり自分はダメだ」、 良いことは「これはまぐれだ」と考える
- 結論の飛躍…事実と異なる悲観的な結論に飛躍して考える
- ①心の読みすぎ…確認せず、相手の心を深読みしてしまう
- ②先読みの誤り…まだ起こっていないことも「きっと〜になるだろう」と決めつける
- 拡大解釈・過小評価…欠点・失敗を過剰に大きく捉え、長所・成功を極端に小さく捉える
- 感情的決めつけ…自分の感情を優先させて、 物事から目を逸らしたり決断を先延ばしにしたりする
- すべき思考…自分や相手の行動に対して「〜すべき」「やらなければならない」と考える
- レッテル貼り…その人の性質や行為の一部分だけを見て人の価値を決めつける
- 個人化…悪い出来事が起きたとき、自分に責任がなくても自分のせいにする
認知の歪みが見られるケース
物事を考えたときに、自分がつらくならないのであれば、認知のゆがみとは呼びません。
一方で、「バイアス」や「思考のクセ」によって、生きづらさや苦しさを感じている場合は、それは認知のゆがみと言えます。
たとえば、「全か無か思想」「マイナス化思考」「すべき思考」などの思考は、完璧主義者が持ちやすい考え方です。このような考え方は認知のゆがみを生じやすく、気分がつらくなりやすいです。
完璧主義の人に認知のゆがみが生じると、「完璧にできなければ意味はない」「失敗するかもしれない」と考えて苦しくなってしまい、うつ病の発症につながることがあります。
完璧主義的な考え方を修正して、別の考え方ができるようになると気持ちが楽になるでしょう。
うつ病の原因になり得る完璧主義的な考え方をゆるめる方法
完璧主義的な考え方をゆるめる方法として、次の3つが挙げられます。
- 認知のゆがみをセルフチェックする
- セルフコンパッションを実践する
- 日記で「感情」と「状況」を客観的に捉える
認知のゆがみをセルフチェックする
対処法の1つ目は、認知のやがみをセルフチェックすることです。
インターネットで調べると、認知のゆがみをチェックできるサイトが見つかります。行政が運営するサイトや専門家が監修する記事を参考に、セルフチェックしてみるといいでしょう。
ただし、認知のゆがみを正確に判断したいときには、専門家の助けが必要です。セルフチェックはあくまでも参考程度にとどめることをおすすめします(※10)。
セルフコンパッションを実践する
対処法の2つ目は、セルフコンパッションを実践することです(※11)。
セルフコンパッションとは、自分自身に対する優しさ(慈しみ)や思いやりの心を指す言葉で、言い方を変えると「自分をいたわる能力」だといえます。実践すれば、つらい出来事に遭遇しても対処しやすくなるでしょう。セルフコンパッションには、次に示す3つの特性があります。
- 自分自身を批判するのではなく、愛情を注ぐ
- 誰でも不完全な面があり、つらい出来事は自分だけに起こるのではないと考える
- 否定的な感情に飲み込まれず、直面している苦難や感情を客観的に捉える
先行研究でもセルフコンパッションの度合いが高い人ほど、抑うつの程度が低いことがわかっています(※12)。完璧にできない自分を否定すれば、不安感や無力感によってストレスを溜め込みます。その一方で、自分をいたわる心を持てば安心や自信につながるため、ストレスを抱え込まない状態を維持できるでしょう。
日記で「感情」と「状況」を客観的に捉える
対処法の3つ目は、日記をつけて感情と状況を客観的に捉えることです。
不適応的完璧主義者は自尊心が低く、自分には価値がないと思ってしまいがちです。そうならないように、日記をつけて自己肯定感を上げるようにするとよいでしょう。日記に成功体験や自分の長所を書くことで自分を認めたり、褒めたりすると自己肯定感の向上が期待できます。
また、日記をつける習慣を身につけると、現状を客観的に捉える力が育まれます。
たとえば完璧主義者の場合、完璧であろうとするあまり、細部が気になって物事を先に進められずに落ち込むケースもあるのではないでしょうか。その場合は、実際に起きた出来事を日記に書き出してみましょう。そうすれば自分の置かれた状況を冷静に見つめ直すことができ、落ち着きを取り戻せるはずです。
うつ病につながる完璧主義を和らげしよう
完璧主義には「適応的完璧主義」と「不適応的完璧主義」の2タイプがあり、うつ病につながるのは不適応的完璧主義です。
不適応的完璧主義がうつにつながる理由は「認知のゆがみ」が生じるからです。認知のゆがみとは、受け取った情報を悪い方に解釈して、他者の意見を受け入れられない状態です。
認知のゆがみが生じた場合は、考え方のクセを修正して、物事を悪い方向へと捉えないようにすると良いでしょう。
今回は、うつ病の原因になり得る完璧主義的な考え方をゆるめる方法についても解説しましたので、ぜひ実践してみてください。
※この記事はAIメンタルパートナーアプリ「アウェアファイ」と連携しています
<参考文献>
※1 うつ病の主な症状と原因
※3 坪田(2019),完全主義と選択的注意バイアスとの関連の検討,p9-10.
※5 行動心理士が伝える完璧主義の原因・治し方「完璧主義は悪いことばかりではない!?」
※6 中野ら(2010),完璧主義の適応的構成要素と精神的健康の関係,p77.
※7 精神科医がすすめる「完璧主義」を直す方法。“あのフレーズ” を口癖にするだけで心が楽になる。
※9 ビジネスパーソンを襲う「完璧主義」 やめたい時の思考の切り替え方
※10 認知のゆがみとは?10パターンの具体例や原因、チェック、治し方【公認心理師監修】
※11 完璧主義者がうつにならないためには「自分をいたわる」といい
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