「私が◎◎したからこうなった…」その根底にあるのは魔術的思考?具体例と対処法を臨床心理士が解説
くしゃみをしたときに「誰かに噂されているかも!」と考えたことはありませんか?冷静に考えれば、くしゃみは花粉やほこりで鼻が痒かっただけかもしれず、くしゃみと噂の間に因果関係はなさそうです。それでも、私たちは実際には因果関係のない事象同士を「意味があるもの」と考えることがあります。これを「魔術的思考(呪術的思考)」と呼びます。この魔術的思考は心の支えとなることもあれば、苦しみの原因になることも。今回は魔術的思考とは何か、そして魔術的思考の背景や対処法をご紹介します。
魔術的思考とは?
魔術的思考/呪術的思考(magical thinking)とは、実際には因果関係のない事象同士を「意味がある」「関係がある」と考えてしまう心の働きを指します。
発達心理学者のピアジェは、2〜7歳頃の子どもには魔術的思考がよく見られることを示しました。たとえば、「私がてるてる坊主をつくったから晴れた」「僕がいい子じゃないからお母さんが病気になった」などです。
このような子ども時代の魔術的思考は、成長とともに薄れていきますが、何らかの事情により、大人になっても維持されることがあります。
魔術的思考の具体例
以下は、日常でよく見られる魔術的思考の例です。
● 黒猫が横切ると不吉
たまたま黒猫を見ただけなのに、「悪いことが起こるかも」と感じます。
● くしゃみは誰かの噂
実際には風邪や花粉のせいなのに、「誰かが自分の話をしている」と思い込みます。
● 四つ葉のクローバーを見つけると幸せになれる
科学的根拠はありませんが、幸運の象徴として広く信じられています。
● てるてる坊主を作ると晴れる
天候に直接影響するわけではありませんが、信じて行動する人も多いです。
なぜ魔術的思考は起こるのか?
魔術的思考は、大人であっても維持されうるもの。その原因を3つご紹介します。
コントロールできる安心感を得たい
私たちは、予測できないことや、自分ではどうにもできない状況に不安や無力感を抱きます。そのようなとき、魔術的思考によって「少しでもコントロールできている」と感じられると、安心感が得られます。
たとえば、てるてる坊主を作り、あたかも天気をコントロールできるような気持ちになると、無力感や不安感が軽減されます。
認知バイアスの影響
私たちの脳は、過去の経験や思い込み、感情や環境など様々な影響を受けて、しばしば誤り・偏りのある判断をしてしまいます。このような思考の偏りを「認知バイアス」と呼びます。
たとえば、黒猫を見かけた日に道で転ぶ体験をしたとします。すると、その体験に基づき「黒猫のせいで転んだ!黒猫は不吉だ」と感じやすくなります。でも、黒猫と不吉の間に因果関係はありません。もし因果関係があるなら、黒猫と一緒に暮らしている人は、毎日が災難の連続のはずです。
それにもかかわらず、「黒猫=不吉」という魔術的思考にとらわれてしまうのは、認知バイアスの影響です。
文化や宗教の影響
魔術的思考は、文化や宗教の中に深く根づいています。たとえば、「てるてる坊主を作れば晴れる」という考えは、子どもの頃に親や先生から自然と教わり、無意識のうちに信じている人も多いでしょう。このように、魔術的思考は社会の中で「当たり前の感覚」として継承されています
魔術的思考とどう付き合うか
魔術的思考そのものが悪いわけではありません。しかし、それにとらわれすぎると、不安が強くなったり、行動が制限されたりすることがあります。ここでは、魔術的思考とバランスよく付き合うための方法をご紹介します。
認知行動療法
自分の考え方のクセに気づき、非現実的な思考を現実的なものに見直していく方法です。
たとえば、「黒猫が横切ったから不吉」と感じたときに、「黒猫と一緒に暮らしている人もいるが、皆が不幸なわけではない」など、論理的な視点から考え直すことで、思考の偏りを和らげることができます。
マインドフルネス
マインドフルネスとは、「今この瞬間」に意識を向ける方法です。
ここまでお話ししてきた通り、魔術的思考は「今」ではなく、
・過去:文化や宗教により古くから受け継がれてきた伝統や迷信
・未来:未来がコントロールできない無力感や不安感
などに心がとらわれてしまうことで生じます。
そのため、「今この瞬間」に集中することで、そうした思考から距離を取ることができます。日々の中で、呼吸や感覚に意識を向ける練習をするだけでも効果があります。
医療機関への相談
魔術的思考が強くなりすぎて、日常生活に支障をきたす場合は、精神科や心療内科などの医療機関に相談することも大切です。強迫性障害(強迫症)や不安障害(不安症)などの症状として現れていることもあります。
まとめ
魔術的思考(呪術的思考)は、非合理的で科学的根拠はないものの、私たちの心に深く根づいた思考パターンです。不安やストレス、文化的背景などにより強まることもありますが、過剰にとらわれると心の負担となることもあります。
大切なのは、「なぜ自分がそう信じてしまうのか」を理解し、必要に応じて思考を見直すことです。魔術的思考を完全に否定するのではなく、時に支えとしつつも、柔軟で現実的な思考とバランスを取ることが、より健やかな心のあり方につながるでしょう。
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