「私が◎◎したからこうなった…」その根底にあるのは魔術的思考?具体例と対処法を臨床心理士が解説

「私が◎◎したからこうなった…」その根底にあるのは魔術的思考?具体例と対処法を臨床心理士が解説
佐藤セイ
佐藤セイ
2025-06-15

くしゃみをしたときに「誰かに噂されているかも!」と考えたことはありませんか?冷静に考えれば、くしゃみは花粉やほこりで鼻が痒かっただけかもしれず、くしゃみと噂の間に因果関係はなさそうです。それでも、私たちは実際には因果関係のない事象同士を「意味があるもの」と考えることがあります。これを「魔術的思考(呪術的思考)」と呼びます。この魔術的思考は心の支えとなることもあれば、苦しみの原因になることも。今回は魔術的思考とは何か、そして魔術的思考の背景や対処法をご紹介します。

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魔術的思考とは?

魔術的思考/呪術的思考(magical thinking)とは、実際には因果関係のない事象同士を「意味がある」「関係がある」と考えてしまう心の働きを指します。

発達心理学者のピアジェは、2〜7歳頃の子どもには魔術的思考がよく見られることを示しました。たとえば、「私がてるてる坊主をつくったから晴れた」「僕がいい子じゃないからお母さんが病気になった」などです。

このような子ども時代の魔術的思考は、成長とともに薄れていきますが、何らかの事情により、大人になっても維持されることがあります。

魔術的思考の具体例

以下は、日常でよく見られる魔術的思考の例です。

●     黒猫が横切ると不吉
  たまたま黒猫を見ただけなのに、「悪いことが起こるかも」と感じます。

●     くしゃみは誰かの噂
  実際には風邪や花粉のせいなのに、「誰かが自分の話をしている」と思い込みます。

●     四つ葉のクローバーを見つけると幸せになれる
  科学的根拠はありませんが、幸運の象徴として広く信じられています。

●     てるてる坊主を作ると晴れる
  天候に直接影響するわけではありませんが、信じて行動する人も多いです。

不安
photo by Adoe Stock

なぜ魔術的思考は起こるのか?

魔術的思考は、大人であっても維持されうるもの。その原因を3つご紹介します。

コントロールできる安心感を得たい

私たちは、予測できないことや、自分ではどうにもできない状況に不安や無力感を抱きます。そのようなとき、魔術的思考によって「少しでもコントロールできている」と感じられると、安心感が得られます

たとえば、てるてる坊主を作り、あたかも天気をコントロールできるような気持ちになると、無力感や不安感が軽減されます。

認知バイアスの影響

私たちの脳は、過去の経験や思い込み、感情や環境など様々な影響を受けて、しばしば誤り・偏りのある判断をしてしまいます。このような思考の偏りを「認知バイアス」と呼びます。

たとえば、黒猫を見かけた日に道で転ぶ体験をしたとします。すると、その体験に基づき「黒猫のせいで転んだ!黒猫は不吉だ」と感じやすくなります。でも、黒猫と不吉の間に因果関係はありません。もし因果関係があるなら、黒猫と一緒に暮らしている人は、毎日が災難の連続のはずです。

それにもかかわらず、「黒猫=不吉」という魔術的思考にとらわれてしまうのは、認知バイアスの影響です。

文化や宗教の影響

魔術的思考は、文化や宗教の中に深く根づいています。たとえば、「てるてる坊主を作れば晴れる」という考えは、子どもの頃に親や先生から自然と教わり、無意識のうちに信じている人も多いでしょう。このように、魔術的思考は社会の中で「当たり前の感覚」として継承されています

魔術的思考とどう付き合うか

魔術的思考そのものが悪いわけではありません。しかし、それにとらわれすぎると、不安が強くなったり、行動が制限されたりすることがあります。ここでは、魔術的思考とバランスよく付き合うための方法をご紹介します。

認知行動療法

自分の考え方のクセに気づき、非現実的な思考を現実的なものに見直していく方法です。

たとえば、「黒猫が横切ったから不吉」と感じたときに、「黒猫と一緒に暮らしている人もいるが、皆が不幸なわけではない」など、論理的な視点から考え直すことで、思考の偏りを和らげることができます。

マインドフルネス

マインドフルネスとは、「今この瞬間」に意識を向ける方法です。

ここまでお話ししてきた通り、魔術的思考は「今」ではなく、

過去:文化や宗教により古くから受け継がれてきた伝統や迷信

未来:未来がコントロールできない無力感や不安感

などに心がとらわれてしまうことで生じます。

そのため、「今この瞬間」に集中することで、そうした思考から距離を取ることができます。日々の中で、呼吸や感覚に意識を向ける練習をするだけでも効果があります。

医療機関への相談

魔術的思考が強くなりすぎて、日常生活に支障をきたす場合は、精神科や心療内科などの医療機関に相談することも大切です。強迫性障害(強迫症)や不安障害(不安症)などの症状として現れていることもあります。

まとめ

魔術的思考(呪術的思考)は、非合理的で科学的根拠はないものの、私たちの心に深く根づいた思考パターンです。不安やストレス、文化的背景などにより強まることもありますが、過剰にとらわれると心の負担となることもあります。

大切なのは、「なぜ自分がそう信じてしまうのか」を理解し、必要に応じて思考を見直すことです。魔術的思考を完全に否定するのではなく、時に支えとしつつも、柔軟で現実的な思考とバランスを取ることが、より健やかな心のあり方につながるでしょう。

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