49歳にして大阪-長野の二拠点生活を始めた女性に聞く、新しい土地に馴染むコツ #暮らしの選択肢
近年、テレワークの普及やライフスタイルの多様化により、都市と地方の二拠点で生活する人々が増加傾向にあるということをご存知でしょうか。国土交通省の調査によれば、二地域居住等を実践する人は約6.7%に達し、約701万人と推計されているんだとか。また、複数拠点生活を行っている人は全体の5.1%に上るとの報告も。自らの価値観に基づき「暮らしを選ぶ」二拠点生活者たちから、その魅力や課題、リアルな日常を深掘り。理想と現実の狭間で見えてくる「暮らしの選択肢」の今を伝えます。
今回お話を伺った二拠点生活者は、大阪と長野県松本市で生活をする堀井朋子さんです。堀井さんは、2024年春から、長らく単身赴任をしていたご主人に合流し、大阪(赴任先)と松本での二拠点生活をはじめられました。今年49歳を迎える堀井さんは、生まれも育ちも長野県。大人になってから異郷の地で暮らすことは決して簡単なことではない上、二拠点で行き来のある生活はかなり体力がいるはず。堀井さんの二拠点生活に迫ります。
二拠点生活はシンプルに暮らす練習
– 堀井さんは、ご出身が長野県なんですよね。
堀井さん: はい。長野で生まれ育ち、長野で結婚をしました。結婚してから、しばらくは夫の仕事の都合で長野県内を転々としていたのですが、16年前に松本に家を構えました。
– 2024年の春から、ご主人の赴任に帯同されて二拠点生活をはじめられたとのことですが、行き来があるとは言え、住み慣れた松本から離れるのは大きな決断だったのではないでしょうか?
堀井さん: そうですね。かなり長野県人なので(笑)特に、長野県の中でも松本に住んでいる人は、地域愛がとても強いんです。松本の人は「どこ出身?」と聞かれると必ず「松本出身です」と答えるんです。県外の人からしたら、「長野県出身」と言った方が分かりやすいはずなのに、松本出身ということを言いたいんです。人口は23万人程度ですけど、街としては古くから国の役所が置かれたり、松本藩の城下町として栄えてきたことから、今も豊かな雰囲気があって、暮らしやすいというところに誇りを持っているのかもしれません。そのため、二拠点生活を始める前は、不安もありました。ただ、結果として、今すごく二拠点生活を楽しんでいます。
– そもそも二拠点生活にしたのはどうしてでしょうか?
堀井さん: 二人の子供たちが大きくなって家を出たからというのが理由ですね。それまで、夫は10年ほど単身赴任をしていたんです。その期間は、子供たちが中学、高校の年齢だったのもあり、帯同するのは難しかったんですよ。子育ても一段落したタイミングで夫婦で一緒に住もうかと考えていた時に、夫が今度は金沢転勤になりまして、そこで合流することになりました。半年間は金沢で暮らし、今は大阪に来て半年ほど経ちました。実は当初は、松本の家を貸すという考えもあったのですが、おそらく5年ほどで、長野に戻るだろうという話だったので、松本の家も残して二拠点生活にすることにしました。
– 今はどれぐらいの頻度で行き来されてるんですか?
堀井さん: 平均すると一ヶ月に一回といったところでしょうか。何か用事を絡めて行くことが多いのですが、大体1週間ほど松本に滞在します。今のベースは大阪だと考えているので、そこまで長期間、松本にいることはありません。
– 荷物などはどうされているのですか?
堀井さん: 荷物は、それぞれの家に置いてあります。大阪のワードローブのマイルールを、黒い服と白い服限定と決めたんです。松本の家にはウォークインクローゼットがあるのですが、大阪のマンションは賃貸で、松本のクローゼットの五分の一ほどのスペースなので全てを移動させるのは難しい。黒い服と白い服だけなんて、飽きるかと思ってたんですけど、意外とそうでもありませんでした。それよりも、少ないアイテムを着回すことの工夫を楽しめていて満足できていますね。
– それはすごい!選べる洋服が限られていても、満足できているのはどうしてだと思いますか?
堀井さん: 実は、二拠点生活をはじめる少し前に、断捨離をしたんです。もともとはコロナ禍がきっかけだったのですが、その断捨離した流れでの二拠点生活だったのは大きいかもしれませんね。全部は持っていけないということが、すんなりと受け入れられたんだと思います。ミニマリストにはなれないですが、今はシンプルに暮らすということの練習をしている感覚です。
新しい土地に馴染むための秘訣
– 大阪と松本の生活で違うところは、どんなところでしょうか?
堀井さん: 街全体の雰囲気が違うということは際立っています。松本は、やはり自然豊かでのんびりしています。空気も水道水も美味しいですし。一方で、大阪は都市ですが、ちょっと田舎っぽさがある、地方都市感を感じます。のびのびした感じがあって、私は好きです。あと、大阪は昼からお酒を飲んでいる人が多いのも面白いと思うところですね。ちょっと異国に来たような感覚ですね。これまで自分が当たり前としてきたものが、いい意味でくつがえされる感覚です。あとは、食材とかも全然違うので面白いですよ。
– 松本の方は地元のものが美味しいですよね。
堀井さん: はい。あとは、松本のスーパーには関東のお野菜がメインに流通するんですけど、大阪では四国の野菜をよく見かけます。徳島産のブロッコリーとか。冬から春先が温かいので、そういうところのお野菜が出てきて、棚に並んでいます。夏はハモを食べるとか、松本ではなかったので。スーパーに行くと、より地域性を感じます。本当にもうそれこそ海外旅行の感覚ですね。
– 大阪と松本では、街も人もカラーが全く違うと思うのですが、初めて大阪に行った時、すんなり馴染めましたか?
堀井さん: 私は、すぐに馴染めましたね。新しい土地に馴染むための秘訣はランニングなんです。その日の体調に合わせてですが、大体3キロから5キロほど、週1ペースで走っています。それが、土地を知ることにもつながっているような気がします。その土地の雰囲気だったり、季節の移ろいだったりも感じられます。あとは、それぞれの土地でコーヒーを飲むのも、私の生活の楽しみの一つです。そうやって自分の好きなことを通して、その街を知っていくようにしています。
– 素敵な秘訣ですね。大阪と松本、どちらの方が、ホームだと感じますか?
堀井さん: 面白いことに、大阪に帰ってきても松本に帰ってきても、どちらも「ただいま」と思うんですよね。おそらく、どちらもポジティブに捉えられているんだと思います。
– いいですね。二拠点生活をされる方の多くが、一拠点目は東京や大阪などの都市で、二拠点目に長野のようなのんびりできる生活を選ぶ方が多いですが、堀井さんの場合は逆ですね。
堀井さん: 私は逆ですね。もう、ゆっくりな時間というのは十分知ってるし、味わってきたので、この二拠点生活ではアクティブに過ごしたいという気持ちが強いです。これまで、東京や大阪に旅行や遊びで行くことはありましたが、暮らしてみるのは初めてだったので、都市の生活が面白いですし、ここにいる間にいろいろやろうと思っています。
二拠点生活を楽しむためのコツ
– 堀井さんのインスタグラムで、大阪を拠点に大人の修学旅行に行かれてるのを拝見しました。
堀井さん: 松本にいると、大阪から西日本はすごく遠く感じるんですよね。距離が遠いだけではなく、心理的にすごく遠いような気がして、そこまで行くなら海外に行ったほうが楽なんじゃないかという感覚がありました。だから、今は大阪を拠点にあちこち遊びに行けるのが、すごく楽しいですね。フットワークが軽くなったのは、大阪と松本をそれぞれ行き来する生活をしてからだと思います。
– 松本にいた頃は、そこまで旅行することもありませんでしたか?
堀井さん: 時々はありましたが、今ほどではありませんね。私が思うには、長野県人は、今ある環境を変えたくないと感じる人が多いように思えます。私も松本にいた頃は、例外ではありませんでした。そのため、毎日イベントがあったり、毎週お出かけをしなくても平穏に暮らすのが幸せという価値観が高めだったんです。ただ、大阪は都市だし、交通の便がいいので、行ったり来たりを気楽にできるようになったことで、それ以外のところに行くのも腰が軽くなりました。
– ご旅行をされるのは、ご夫婦でされることが多いんですか?
堀井さん: はい。週末に夫と二人で出かけることが多いですね。去年の4月に二拠点生活をはじめてから、夫は35年ぶりに土日休みになったんです。それまでは平日休みだったので、家族で休みが合うっていうことはなかったんですよ。だから、そのすれ違いで。週末どこ行こうという計画を立てたことが、家族の中でも夫婦でもあんまりなくて、すごく新鮮なんです。夫も楽しいようで、今週末はどこ行こうかって考えて一週間過ごしています。
–週末が楽しみなのはいいですよね。週末に旅行に行くとなると、弾丸旅行に近い感じですか?
堀井さん: はい。かなり弾丸に近いですね。だから、全然優雅ではないんです(笑)例えば、どこかの島へ行く時は、4時台に家を出ます。また、島旅行の場合、帰りのフェリーの時間があるので、絶対にこの船に乗らなきゃいけないっていうリミットがあるんですよね。時間が制限されている中で、どうやって楽しく一日過ごして帰ってくるかみたいなのをゲームというか挑戦という感覚でやっています。一度、子供が遊びに来てくれた時に、一緒に島旅行をしたことがあったんですが、「これは相当やばいね」と言われました(笑)だから、心と体が健康じゃないとできないのかなって思います。旅行云々だけでなく、私たちのように田舎での暮らしが長い人にとって、都会の暮らしは実は、すごく疲れるんじゃないかと思います。スピードも違いますし。おかげさまで今は体は健康なので、それを楽しめていて、本当にラッキーだと思っています。
– 確かに、二拠点生活は行き来だけでもだいぶエネルギーが必要とされるのではないかとイメージしていました。
堀井さん: 心身が健康なことが二拠点生活には重要です。実は、私は2020年に体重を12キロ減らしたんです。もともと、そこまで太ってるって感じじゃなかったんですけど、30代に入ってからは、1歳年を重ねるごとに1キロずつ増えていっていて、気がついたら10キロ増えていました。これはなんとかしなきゃいけないと思って、ボディメイクして、それからすごく健康になりました。長い距離を歩けるようになって、走れるようになって、登山やトレイルランニングもするようになって。私としては、色々な準備や、転機がちょうどいいタイミングで来てくれたのかなと思っています。
– 12キロ痩せる前までは、心身の不調はありましたか?
堀井さん: あったと思います。そもそも若い頃から、ほとんど運動をする機会がなく歳を重ねてきて、その上、松本では車生活が定着していて、本当に歩かないんですよ。歩いて5分くらいのところにあるコンビニにも車で行くくらいなので(笑)、そんなにたくさん食べるわけじゃないけど、年を重ねるごとに徐々に体重が増えていって、健康ではなかったですよね。
– どのようにボディメイクをされたのでしょうか?
堀井さん: 半年間、パーソナルトレーナーの方についてもらって筋トレをメインにトレーニングをしました。だから、痩せたというよりも、筋肉をつけた感じですね。筋トレの基礎を教えてもらって、その後からは自宅で自重でできる筋トレをやっています。今はお休みしているのですが、松本にいた時はヨガにも通っていました。今は、ランニングをメインに運動を続けています。運動が習慣化してから、二拠点生活がはじまったので、本当に良かったですね。健康になったおかげで、今は若い頃よりも旅行を楽しもうとか、その土地を楽しもうといった気力がありますね。
– 年齢を重ねると、体がなんかついていかなくなっちゃって、なんかやりたいけどできないっていう方とかも多い中で、堀井さんのように、出来ることが増えてくるのって理想的ですよね。
堀井さん: そうなんです。私の年頃だと、みんなとにかく調子がどんどん悪くなっていく年齢だと思うんですよ。すごくよく分かるんですけど、加齢やホルモンとも抗いつつ、諦めずに付き合っていく中で、整える方法はきっとあると思うんですよね。
>>>後編へ続く
〈プロフィール〉堀井 朋子
49歳。松本⇔大阪 二拠点暮らし。趣味は、ランニングと喫茶店巡り。
コーヒー豆の麻袋から作る布小物、数寄屋ポーチ専門店『HORII_ya』を展開
Instagram: @horii.sense
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