心理師が旅をする理由——「どこにいても私は私」を確かめに
旅に出るとき、私は「遠くへ行きたい」と思っているというより、「本来の自分のリズムに戻りたい」と願っているような気がします。 心理師という仕事は、人の心に寄り添う仕事です。誰かの人生を大切に想う一方で、ふと自分自身のことが後回しになってしまうこともあります。そんなとき、私は旅に出ます。
自分のペースを取り戻すということ
ひとりで旅をしていると、自然と「自分のペース」で動くことになります。起きたいときに起き、歩きたい道を歩き、立ち止まりたいときにただ風を感じる——そんな自由さの中に身を置くと、気づきます。
「ああ、私、日本ではずいぶん頑張ってたな」と。
日本にいるときの私は、知らず知らずのうちに、人のスケジュールに合わせたり、社会的であろうとして、本来の自分のリズムよりも少し速いスピードで生きているようです。それが悪いことだとは思いません。ただ、旅の中でふと立ち止まってみると、頑張っていた自分にようやく気づけるような、そんな瞬間があります。「よくやってきたね。大丈夫だよ」と。旅は、自分自身に労いの気持ちを向ける大切な時間でもあるかもしれません。
思考の余白が生まれる時間
旅先では、あえて予定を詰め込みません。ただのんびりと街を歩いたり、地元のカフェでぼんやりしたり。そうやって意識的に「余白」を持つようにしています。すると、普段は忙しさにかき消されてしまうような小さな思考や感情が、少しずつ浮かび上がってくるのです。
「あのとき、あの言葉に引っかかっていたな」
「私は、こういうものに惹かれるんだな」
そんなふうに、旅先での静けさは、私の思考をやさしく整えてくれます。心理師という職業柄、他者の心に耳を傾けることは日常ですが、自分の心の声を聞くには、この静かな時間がとても大切なのだと実感します。
違いを知ることは、人を理解すること
旅をしていると、文化の違いにたくさん出会います。宗教、民族性、食事、あいさつの距離感、人との関わり方……すべてが新鮮で、時には戸惑うこともあります。でも、この「違い」を体感することは、心理師としての大きな学びになります。異なる文化の中で人はどんな価値観を持ち、どんなふうに感情を表現し、何を大切にしているのか。体験として知ることで、「この人は変わっている」ではなく、「こういう背景があるんだ」と思えるようになる。旅は、「人を理解する力」を育ててくれる可能性があるのではないでしょうか。
どこにいても私は私
旅をしていて一番強く感じるのは、どこにいても「私は私」であるということです。場所が変わっても、言語が通じなくても、文化が違っても、自分の内側にある感覚や価値観は、ちゃんとそこにある。それは、変化の多い現代において、とても心強い感覚です。以前は、場所を変えたところで、私ではない何者にもなれないという悲しみを感じたこともありました。しかし、どんな自分も受け入れようと努め続けることで、私は私であるという感覚はむしろ支えになると感じています。外の世界がどれだけ移ろっても、自分の中に戻れる場所がある。旅は、それを確かめに行く行為なのかもしれません。
私にとっての旅は、非日常への逃避ではなく、日常へ戻るための準備期間です。自分を整え、本来のペースを思い出し、また人と向き合うための「間(ま)」のようなものかもしれません。旅で経験したこと、出会った人々との思い出ひとつひとつを心に留め、時折思い出しながら、日々の生活を大切に生きていこうと思います。
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