「ちゃんと働けない自分はダメなのか」複雑性PTSDを抱えながら働くのはなぜ辛いのか|心理師が解説
「人と関わるのが怖い」 「注意されると、ひどく落ち込んで動けなくなる」 「何をしても“自分は足りない”と感じてしまう」 そんな日々を過ごしている方の中には、複雑性PTSD(C-PTSD)の症状を抱えている人がいるかもしれません。トラウマ体験によって生じた心の傷で、生活や働き方に影響を及ぼすC-PTSDについて紹介します。
複雑性PTSDとは?
複雑性PTSDは、幼少期からの長期的な対人トラウマが背景にあることが多いとされています。一般的なPTSDの主な症状である
・フラッシュバックや悪夢などの「再体験」
・警戒心の高まりや緊張の持続といった「過覚醒」
・トラウマと関連するトリガーや感情を「回避」
に加えて、複雑性PTSDでは以下のような、より深いレベルの影響が現れます。
C-PTSDの3つの特徴的なつらさ
1. 対人関係の困難
・人に近づくのが怖い/信じられない
・継続的な関係を築けない、
・距離感の取り方がわからない
・急に突き放したり、依存的になったりしてしまう
これは「人が怖い」のではなく、「安全な人とそうでない人の区別がつかない」「人と関わることで傷ついた経験がある」ために、人とのやりとりそのものが“危険”に感じられることから生まれます。
2. 感情の調整が難しい
・怒り・不安・悲しみなどの感情が急にあふれてコントロールできない
・逆に、なにも感じない“麻痺”状態になってしまう
・ちょっとした一言で、自分が全否定されたように感じる
職場では「感情的」「繊細すぎる」「反応が薄い」と誤解されやすく、自分でも「なんでこんなふうに感じてしまうのか」と責めてしまうことがあります。
3. 否定的な自己概念
・どんなに頑張っても「自分はダメだ」と感じる
・他人の評価を信じられない
・小さなミスでも「存在してはいけない」とまで思い詰めてしまう
上司に褒められても「たまたまです」と素直に受け取れなかったり、周囲に認められても、「バレていないだけで、本当の私は無能だ」と感じたり。これらは単なる“自信のなさ”ではなく、深く根付いた「否定的な自己イメージ」に由来していることが多いのです。
職場で起こりうる困難とは?
こうした心の状態を抱えながら働くと、たとえば次のような状況が起きやすくなります。
・上司や同僚のちょっとした言葉に過剰に反応してしまう
・チーム内で孤立感を抱えやすく、誰にも頼れない
・小さな刺激でパニックになったり、フリーズしたりしてしまう
・うまく振る舞えない自分に自己嫌悪を感じ、どんどん自信を失っていく
・体調不良や慢性的な疲れで欠勤や遅刻が増え、「働く自信」そのものがなくなる
こうした状態で働くことはとてもつらく、周囲からどう思われているんだろうと気にして、自分を責め続けてしまうことがあります。
ひとりで悩む以外の選択肢
今、働くことが苦しいと感じていて、過去の心の傷が関係していそうな時。それは「努力不足」でも「弱さ」でもありません。心が長い間、ひとりでがんばってきた証かもしれません。複雑性PTSDは、見た目ではわかりにくく、周囲にも理解されにくい傷です。しかし、今は、さまざまな心理療法(カウンセリング)が確立されてきています。すぐに治そうとしなくても、まずは「この苦しさには理由がある」と知ることが大切です。そして、現在複雑性PTSDに悩んでいる人はたくはんいらっしゃいます。「自分ひとりではない」と思えることも、回復への小さな一歩になります。
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