生きている実感がない、たまに記憶がなくなる「解離」とは?臨床心理士が解説


「生きている実感がなく、自分は死んでいるんじゃないかと感じる」「気がついたら知らない場所にいたり、記憶にないことで人から怒られたりする」など、自分の心と身体がチグハグになったような症状に悩んでいませんか?それは「解離」によるものかもしれません。今回は解離の症状と対処法についてお話しします。
解離とは?
解離は、「心や身体に『自分以外の中心』が現れて、心身をコントロールするようになった状態」(日本精神神経学会 2024.9.19)などと定義されています。
私たちは、通常「自分は自分である」という感覚を持って生活しています。
この「自分は自分である」という感覚は、
・過去から現在まで記憶が連続している
・楽しいときには楽しさ、悲しいときには悲しみの感情が持てる
・考えたいことを考えられる
など、「自分をコントロールできる」という体験の積み重ねで支えられています。
しかし、このような「自分は自分である」という感覚が損なわれることがあります。
・連続しているはずの記憶がところどころ抜け落ちる
・感情がぼんやりして、楽しさも悲しさも感じられない
・自分以外の考えが頭の中を巡る感じがして、十分な思考ができない
など、自分の心身が、自分のコントロールから外れ、「自分は自分である」という体験ができなくなってしまうのです。
このような状態を「解離」といいます。

解離チェックリスト
解離によって生じる主な症状をまとめました。当てはまるものをチェックしてみてください。
□現実感がなく、生きている感じがしない
□大勢の人がいると「見られている」「迫ってくる」など感じて怖い
□実際には誰もいないのに「後ろに誰かいる」と感じる
□自分を呼ぶ声や命令する声が聞こえる
□自分を外から眺めている感じがある
□自分の言動を覚えていないことがある
□過去の出来事をリアルに思い出すことがある
□身体の異常な感覚(虫が這う感覚や身体がねじれる感覚など)に悩まされている
□突然「話せない」「歩けない」などの身体症状が現れた
このチェックリストだけで診断はできませんが、該当する項目が多い方は、解離によって日常生活に支障をきたしている「解離性障害」の傾向があるかもしれません。気になる方は医療機関を受診してみてください。
解離のメカニズム
解離は、耐えがたいほどの苦痛に対し、「この苦痛は自分が感じたものではない、自分以外の人が感じたものだ」と心を切り離すことで、何とか持ちこたえようとする試みです。
確かに苦痛からは逃れられるのですが、その時に感じた「記憶」「感情」「思考」なども一緒に切り離されてしまうリスクがあります。
つらい出来事が頻繁に起きる環境に置かれている人は、何度も心を切り離すことになります。その結果、「自分は自分である」という感覚もどんどん薄れてしまいます。
つまり、解離に対処していくためには、苦痛を切り離さなくて済むように、
・苦痛を減らす
・苦痛への対処法を学ぶ
というサポートが必要になります。
解離の対処法
ここからは、解離に対処する3つの方法についてご紹介します。
苦痛を減らした生活をする
まずは、可能な限り苦痛やストレスを減らした生活を心がけましょう。
例えば、強いストレスを感じる場所や人からは距離を置きます。距離を置くことが難しい場合は、落ち着ける場所を確保するために入院することもあります。
また、生活リズムを整えることでストレスに強い心と身体をつくり、ストレスが降りかかったときの苦痛を和らげるのも1つの方法です。
苦痛への対処法を学ぶ
苦痛を受けても上手に対処できれば、解離する必要がなくなります。方法としては次のようなものがあります。
■カウンセリング
これまで誰にも頼れず解離するしかなかった苦痛を、カウンセラーと分かち合い、扱っていくことで、少しずつ解離せずに苦痛に対処できるようになっていきます。
■認知行動療法
認知行動療法とは、物事を柔軟に考える力を身につけ、自分を苦しめる思考(認知)にとらわれないスキルを育む心理療法です。
「私はダメな人間だ」など苦痛をもたらす思考が生じても、
「今日は掃除ができたからダメじゃない」
「今の私には休むことも大事な仕事」
などほかの角度からの思考に気づき、もたらされる苦痛を軽減していきます。
■リラックス法
強いストレスを感じたときに、リラックス法で心身をケアするのも良い手立てです。
ここでは手軽で身近なリラックス法である「呼吸法」をご紹介します。
(1)鼻から4秒かけてゆっくり吸い込み、お腹がふくらむのを感じる
(2)7秒間息を止める
(3)口から8秒かけてゆっくり吐き出し、お腹がへこむのを感じる
(1)~(3)を数回繰り返すと、心身の緊張がゆるみ、リラックスした状態になれます。
薬物療法
現在のところ、解離そのものに効果的な薬は見つかっていません。
ただし、解離の背景に、不安や抑うつがある場合、薬の効果が期待できます。
おわりに
解離とは、苦痛から自分の心を守ろうとした結果、「自分は自分である」という感覚を失ってしまう状態です。本人にとっては非常につらい症状ですが、正しく理解し、適切な対処や治療を続けていくことで、少しずつ「自分は自分である」という感覚を取り戻せます。
今回ご紹介した「苦痛を減らす」と「苦痛への対処法を学ぶ」というアプローチをベースに、解離とうまく向き合っていきましょう。
参考文献
日本精神神経学会(2024.9.19)「岡野憲一郎先生に『解離性障害』を訊く」
柴山雅俊[監修](2012)「解離性障害のことがよくわかる本」講談社
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