鍵のかけ忘れ、持ち物忘れなどを何度も確認してしまう「強迫症」とは?臨床心理士が解説


「鍵をかけ忘れたかも!」「大事な書類を忘れたかも!」という不安が頭をよぎり、慌てて確認した経験は誰にでもあるでしょう。多くの場合、1回確認できれば不安は消えるはずです。しかし、1回の確認では不安が消えず、何度も何度も確認しないと動けなくなる人もいます。これは「強迫症」の症状かもしれません。今回は強迫症について簡単に解説します。
強迫症とは?
強迫症(強迫性障害)は、「強迫観念」と「強迫行為」の2つから構成される病気です。
・強迫観念:考えたくないのに浮かんできて、払いのけることもできない考え
・強迫行為:強迫観念を消すために何度も繰り返してしまう行為
例えば、「鍵をかけ忘れたかも!」という強迫観念が浮かぶと、「家に戻って確認しなきゃ不安だ!」と強迫行為が生じます。
家に戻って鍵がかかっているのを確認すると、強迫観念が一時的に収まりますが、家から離れるうちに「本当に鍵はかかっていたか?」「ドアノブをもっと回して確認しなくちゃ心配だ!」と強迫観念が浮かび、またもや家に戻ります。
ノブを回して鍵がかかっているのを確かめると少し安心するものの、しばらくすると「10回ノブを回してみないと本当に鍵がかかっているかわからない」と不安になってきて再び家に戻ります。鍵の確認に時間がかかり、なかなか外出ができません。
このように強迫症では、強迫観念と強迫行為のせいで、日常生活に支障をきたしてしまいます。
強迫症の種類
ここでは、強迫症の代表的な症状をご紹介します。
確認強迫
モノやコトの確認をしないと気が済まない状態です。
何を確認するかは人によって異なり、鍵のかけ忘れ、ガスの元栓の閉め忘れが気になる方もいれば、「自分の言動が危害を加えたのではないか」と考え、何度も振り返ったり、他者に聞いたりして確認する人もいます。
洗浄強迫
「汚れ(ばい菌、感染症、放射能など)」から自分や自分にとって大切な人・モノ・場所を守るため、洗浄行為を強迫的に行います。
例えば、30分以上手洗いに時間をかけたり、トイレ1回でトイレットペーパーを1ロール使ったりする方もいます。
縁起強迫
「縁起が悪い」と感じた出来事を打ち消すための強迫行為を繰り返します。
例えば、「4」や「9」など不吉な数字を見たときは、幸運の数字である「7」を思い浮かべないといけないなどです。
ぴったり・すっきり強迫
モノの配置や手順が自分のイメージに「ぴったり」重なるまで行動を繰り返したり、モヤモヤする思考が浮かんだときに「すっきり」するまで何度も反芻したりします。
例えば、水道の蛇口が「キュッ」と鳴るまで閉めないと気が済まなかったり、自分の文章が10文字や15文字など区切りのいい文字数でないと全部書き直したりします。
強迫症の治療法
強迫症では、主に「薬物療法」と「行動療法」が実施されます。
薬物療法
強迫症には、主に「SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)」と呼ばれる薬が治療に用いられます。この薬は強迫観念を和らげます。
ただし、「治った」と思っても、薬をやめると再発する可能性が高く、次に説明する「行動療法」も併用していくことが望まれます。
行動療法
強迫症では、行動療法の技法「曝露法」が用いられます。これは、自分が苦手で避けている行動・状況にあえて直面する方法です。
例えば、「鍵をかけずに外出する」という状況を避けている場合、あえて鍵をかけずに外出してみるのが曝露です。このように苦手なものに触れ、耐性をつけることで、強迫行為は落ち着いていきます。手順としては以下の通りです。
■不安階層表をつくる
避けている行動や状況をピックアップしていきます。「多くの人が自然にできているのに、自分にはできない」という行動を挙げていくと良いでしょう。
ピックアップできたら、それぞれの行動・状況に不安の点数をつけます。
・鍵をかけたかわからない状態で外出する 50
・ガスの元栓を確認せずに外出する 80
…のようにまとめます。
■チャレンジする曝露を決め、予想を立てる
不安階層表から曝露するものをいくつか(1〜2週間のうちに5〜6個の課題を実施するのが望ましいです)選び、曝露すると何が起きるか考えてみます。
例えば、
「鍵をかけずに外出してしまったら、泥棒が入ってきて大切なものを盗んでいってしまう」
「あえて鍵をかけたかわからない状態で外出しても、30秒くらいで耐えられなくなって強迫行為を始めてしまうだろう」
などです。
■実際に曝露をしてみる
予想を立てたら、実際に曝露をしてみましょう。
課題に取り組むうちに「思ったより酷いことは起こらなかった」「意外と我慢できた」と体験でき、強迫観念や強迫行為が和らいでいくはずです。
おわりに
強迫症は単なる心配性や潔癖症など、個人の性格と間違われやすいですが、適切な治療を受ければ改善していく病気です。ご自身やご家族が「強迫症かも?」と思ったら、医療機関の受診を検討してみてください。
参考文献
・原井宏明・松浦文香[監修](2023)強迫症/強迫性障害(OCD)考え・行動のくり返しから抜け出す 講談社
・矢野宏之(2022)強迫症を克服する 当事者と家族のための認知行動療法 金剛出版
・野間利昌[監修](2024)強迫症/強迫性障害をワークで治す本 大和出版
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