死にそうなくらいの不安感に襲われる「パニック発作」とはどういうもの?臨床心理士が解説

 死にそうなくらいの不安感に襲われる「パニック発作」とはどういうもの?臨床心理士が解説
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佐藤セイ
佐藤セイ
2024-12-09

突然「このまま死んでしまうのでは」という強い不安感に襲われたことはありませんか?「気が狂ってしまう!」と思うほどの恐怖を感じた人もいるかもしれません。これらは「パニック発作」と呼ばれます。今回はパニック発作の概要と対処法について解説します。

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死にそうなほどの不安感に襲われる「パニック発作」とは?

パニック発作は、何の理由もないのに動悸や呼吸困難などの身体症状が現れ、「死んでしまう」と思うほどの激しい不安感と苦痛をもたらす発作です。しかし、長くても30分後には何事もなかったかのように回復しているのが特徴です。

DSM-5と呼ばれる診断基準では、次のうち4つ以上が生じると、パニック発作に該当するとされています。

□心臓がドキドキして脈が速くなる

□やたらと汗をかく

□身体や手足がふるえる

□息苦しい、息切れがする

□窒息しそうな感じがする

□吐き気がする、お腹が気持ち悪い

□胸が痛い、あるいは気持ち悪い

□めまいやふらつき、気が遠くなる感じがする

□悪寒もしくは熱っぽい

□感覚が麻痺した感じやうずく感じがする

□自分が自分ではない感じや現実感がない感じがする

□「気が狂うのではないか」「自分のコントロールを失うのではないか」という恐怖

□「このまま死んでしまうのではないか」という恐怖

なお、パニック発作を繰り返した末、「またパニック発作を起こすのではないか」という不安(予期不安)を抱えた結果、日常生活に支障をきたす場合には「パニック症(パニック障害)」と呼ばれます。

パニック発作は「闘争・逃走反応」の誤作動

私たちは危機に直面すると、心拍数・呼吸数の増加や筋肉の緊張などが生じます。これは、危険な何かと闘ったり、もしくは危機から逃げたりするために心身の状態を整えるのが目的です。これを「闘争・逃走反応」といいます。

例えば、「背後で突然ガサガサと音がする」という危険サインをキャッチすれば、鼓動や呼吸が速くなるのを感じるでしょう。緊張で全身の筋肉がぎゅっと収縮するかもしれません。

しかし、音の主が飛んできたビニール袋であることがわかれば、私たちは「あ~ぁ、びっくりした」と脱力します。危機が過ぎれば、闘争・逃走反応は収まっていくのです。

このように危機で生じるべき闘争・逃走反応が、何の危険もない時に発生するのが「パニック発作」です。

例えば、何も起きていないのに心拍数・呼吸数が増加すると「心臓がドキドキして脈が速くなる」「息苦しい、息切れがする」などの症状になります。危機が過ぎたことを確認できれば症状は収まりますが、そもそも危機なんて起きていないため、確認のしようがありません。

その結果、「死んでしまう」と感じるほどに症状が悪化してしまいます。

パニック発作の対処法

薬物療法

パニック発作では「抗不安薬」や「抗うつ薬」が処方されるのが一般的です。

抗不安薬は短時間でパニック発作を収めますが、長期間使用すると依存してしまい、薬をやめるのが大変になります。一方、抗うつ薬は効果が出るまでに時間がかかりますが、依存性はありません。

そのため、抗不安薬と抗うつ薬をバランスよく用いながら、パニック発作をコントロールしていきます。

呼吸法

呼吸法とは、パニック発作につながりやすい緊張や興奮を和らげ、リラックスした状態へと導く方法です。「パニック発作が出そう」と感じたときに試してみましょう。

【1】口をすぼめ、4秒かけて息を吸う

【2】7秒間息を止める

【3】8秒かけて息を吐く

息を吐くと、リラックス効果が得られます。できるだけゆっくりと吐き出してみましょう。

注意シフトトレーニング

注意シフトトレーニングとは、パニック発作を予防・軽減するためのトレーニングです。

パニック発作を経験すると「またパニック発作になるのでは」と不安になり、つい「心臓はドキドキしていないか」「呼吸はいつも通りか」など、身体感覚に過剰な注意を向けがちです。

しかし、過剰な注意を向けていると、いつもとほんの少しだけ違う反応にも「危険だ!」と誤解が生じ、「闘争・逃走反応=パニック発作」が起きてしまいます。

注意シフトトレーニングでは、自分の身体感覚の「外」に注意をシフトすることで、パニック発作を予防したり、発作が起きても悪化を防いだりできます。

【1】パニックではない状況で練習をする

(1)目を閉じて自分の身体感覚に注意を向ける

(2)1~2分したら、目を開け、外のものに注意を向け、声に出して説明する

例:「窓の外には鳥がいます。カラスです。電線の上に立っています。電線が揺れています…」

【2】パニックではない状況で(1)と(2)を交互にシフトする

【3】パニック状況で(1)と(2)を交互にシフトする

上記のトレーニングは1日に1回以上実施すると効果的です。

参考文献

稲田泰之[監修](2020)パニック症と過呼吸 発作の恐怖・不安への対処法 講談社

厚生労働省(2016)パニック障害(パニック症)の認知行動療法マニュアル(治療者用)
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AUTHOR

佐藤セイ

佐藤セイ

公認心理師・臨床心理士。小学生の頃は「学校の先生」と「小説家」になりたかったが、中学校でスクールカウンセラーと出会い、心の世界にも興味を持つ。大学・大学院では心理学を学びながら教員免許も取得。現在はスクールカウンセラーと大学非常勤講師として働きつつ、ライター業にも勤しむ。気がつけば心理の仕事も、教える仕事も、文章を書く仕事もでき、かつての夢がおおよそ叶ったため、新たな挑戦として歯列矯正を始めた。



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