「健康診断は“経済的な資産防衛”」と医師が語る理由|病気の予防がもたらすリアルな金額効果とは?


病気になると健康リスクはもちろん、経済的にもリスクが発生します。「病気を予防することが経済資産を防衛することになる」という視点について、筑波胃腸病院医師の鈴木隆二さんに教えていただきました。
健康診断や人間ドックといった予防医療は、「病気を見つけるためのもの」という認識が一般的ですが、近年では“健康=経済資産”という視点が注目されています。具体的には、生活習慣病やがんの早期発見・予防が、生涯の医療費や労働生産性損失の大幅な削減につながることがわかってきました。
生活習慣病による経済的損失
生活習慣病による経済的損失は具体的にどれぐらいかさむのでしょうか。以下、代表的な疾患ごとの年間損失額(医療費+生産性損失)の概算を参照していきましょう。

たとえば、大腸がんに罹患した場合、年間で約300万円もの経済的損失が生じると試算されます。これは診断・治療にかかる医療費だけでなく、通院・入院による労働損失やキャリアの中断、場合によっては介護が必要になるといった“周囲の人的コスト”も含まれます。
健康診断は「投資」として考える
健康診断や人間ドックに年1回3万円を投じたとします。それによって早期の糖尿病やがんが見つかり、生活改善や早期治療につながった場合、結果的には数十万〜数百万円単位の損失を未然に防ぐことができます。
つまり、
「年3万円の健康投資が、数十倍のリターンを生む可能性がある」
という視点でとらえるべきです。

企業にとっての健康投資:健康経営の数値化
従業員の健康は、企業の生産性や人件費にも直結します。社員一人あたりの労働生産性損失が年20万円と仮定すると、社員100人規模の企業では年間2,000万円の損失になります。これを予防できるなら、健康診断費用として年間300万円をかけても、ROI(Return On Investment=投資利益率)は十分にプラスです。
健康診断の受診率を上げることは、従業員の安心だけでなく、企業の財務戦略上も合理的な選択肢といえます。
「健康は資産である」という言葉が、いま現実の経済価値として問われる時代です。健康診断を“コスト”ではなく“投資”と捉える視点が、個人にも企業にも求められています。数字で見ることでその価値がより明確になり、行動につながる第一歩となるでしょう。
では、健康診断=投資としてうまくいったケースを、個人と企業に分けて、それぞれイメージしやすい具体例でご紹介します。
【個人編】健康診断で“未来を守った”会社員のケース
登場人物:
40代男性・会社員。営業職で出張も多く、食事も不規則。年1回の人間ドックで「糖尿病予備群」と診断。
投資内容:
- 年3万円の人間ドック受診
- その後、月1回の栄養指導(保険適用)、週2回のウォーキングを開始
結果:
- 半年で血糖値が正常値に戻る
- 体重が7kg減少し、睡眠の質と集中力が向上
- 体調が良くなり、営業成績もアップ → 昇進に繋がる
経済効果(試算):
重度の糖尿病へ進行していた場合の医療費・労働生産性損失:約200万円以上
実際の自己投資額(1年):約5万円→ 健康投資ROI:40倍以上!
【企業編】健康経営が離職率とコストを下げた製造業のケース
企業概要:
従業員数120名、製造業。以前は健康診断は最低限で、再検査勧奨なども特になし。近年、40代〜50代社員の突然の体調不良や離職が目立っていた。
取り組み:
- 健康診断オプション拡充(血液検査・腫瘍マーカーなど)
- 産業医+管理栄養士によるフォローアップ体制を構築
- 健康スコアに応じた福利厚生のインセンティブ導入
結果(2年後):
- 従業員の再検査受診率が90%以上に
- 生活習慣病による休職者が年間7名→2名に減少
- 離職率が8%→3%に低下
- 労働生産性向上+医療関連の福利費削減効果 約1,200万円/年
経済効果(ROI):
健康投資:年間400万円
経済リターン:年間1,200万円以上
→ ROIは約3倍に!
まとめ
健康診断は「将来への保険」ではなく「今できる経営判断・自己防衛策」です。個人も企業も、健康診断を健康投資と捉え、積極的に活用していきましょう。
教えてくれたのは…鈴木隆二医師
医療法人社団筑三会筑波胃腸病院医師(理事長)。聖マリアンナ医科大学卒業後、東京女子医科大学消化器病センター助教などを経て現職。日本消化器内視鏡学会専門医、日本外科学会専門医、茨城ヘルニア研究会世話人、麻酔科標榜医、産業医、難病指定医。
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