40代夫婦が言いたいことを我慢した先には…対等な関係を築くために必要な「修羅場を恐れない覚悟」


40代の3人の女性の仕事・家庭・性の悩みが描かれている『女40代はおそろしい 夫より稼いでたら、家に居場所がなくなりました』(幻冬舎)。本作に関連して、作者の田房永子さんに、パートナーとの対等な関係を築くために必要なことや、メンタル不調が改善した、意外な理由について伺いました。
言いたいことを我慢した先には……。
——本作のテーマの一つが「パートナーとどう関係を再構築していくか」ということだと思うのですが、40代や50代の夫婦ですと、家庭内の役割が固定しているケースも多いと思います。今から関係を対等にするためにできることはあると思いますか?
「わがまま」になって、感情を表出させること、修羅場を恐れないことが、私は重要だと思っています。夫に何か言いたいことがあるときって、夫は全く気づいていなくて不便を感じていないことが多い。でもこちらとしては不満を抱えているんですよね。それは「このままだと穏やかな関係が続かない」というサイン。
自分の怒りが湧いてきている時点で、関係が壊れるかもしれないことも前提に、次のステップに踏み出す覚悟が必要だと思っています。
もちろん「ずる賢さ」も必要だと思います。本当に離婚することになったらお金は必要なので、そういったところは準備しておくとか、日頃からいざとなったら覚悟を決められる状態にしておくことは大事なんじゃないかなと思います。
——思っていることを正直に伝えるのは「嫌われたくない」という思いを乗り越えるのが大変だと思います。でも、我慢していてもいずれ上手くいかなくなってしまうので、関係が壊れてもなんとかなる準備はしたうえで、相手に言うしかないということでしょうか。
「覚悟を決める」過程って、日頃の夫婦間のコミュニケーションがどういうものか気づくきっかけにもなると思います。たとえば、夫婦間に限らず突然びっくりすることをされて、「この人に嫌われてるんだ。何かしたっけ」となることが私はあって、遡っていくともともと自分のほうがその人のことをそんなに好きじゃなかった、って思い出したりするんです。不意に攻撃されると100%自分が被害者だと思っちゃうのですが、忘れているだけで、自分も相手に対して表に出してないつもりでも、心の中で「なんかこの人とは合わないな」と思ってたりすることがある。それがただ返ってきてるだけ、っていうことがあったりします。
心理学用語で「癒着」というものがあって、自分と相手の境界線がわからなくなってしまうことがあるんです。たとえばSNSで「夫にセックスを拒否されています」とプロフィールに書いている人が、「昨日夫が誘ってきてすごく嫌だった」と書いていて、数日後には「女として見られていなくてつらい」と書いていることがあって。「自分の望むような誘い方ではない=誘われていない」ってゼロとしてカウントしちゃうんですね。本人も無意識で自分が拒否しているのか相手に拒否されているのかわからなくなっちゃっているんだと思うんです。
人間は基本的には常に自分は被害者でいたい、悪人ではないと思いたい心理がベースにあると思います。だからつい「自分は被害者」という側面にピントが合ってしまうのですが、相手の言動や自分の感情を誤認していることって案外あるんですよね。
「相手のここがひどい! 相手が悪いのに相手に変わる気が無い!」と、相手を主語にしているのは「癒着」している証拠。そうじゃなくて「私はこういうことに怒りを感じている」と自分を主人公にする。そうすると「自分はこんな生活はイヤなんだ」と自分の欲求を大切にしてあげることができて相手と自分の間に距離が生まれ、自然と覚悟ができるようになります。そうやって今の停滞した状態から、前に進もうとする作業が始められるんですよね。
——「本当は自分がどう思っているか」に向き合う必要も出てくるということですね。
自分のニーズを自分に問う作業でもありますね。ただ怒りを夫にぶつけたいのか、対等な関係になりたいのかとか。
少し前に、あるお笑い芸人さんが2年交際した女性にプロポーズした結果、断られたうえに別れることになったことをバラエティ番組で放送していましたが、女性が「こういうのが嫌だった」と伝えていたんですね。
番組では別れの理由として伝えていましたが、結婚生活では日常の中で「これは別れを考えるレベルで嫌です」ということも言わなきゃいけないと思うんです。対話を避けるといろいろな形で爆発するだと思っていて、不倫もそれの一つなのかもしれない。
——パートナーに向き合うのをやめた結果の「爆発」ということですね。
世間の不倫への風当たりがこれだけ強く、法的なリスクもあるわけで、本当に不倫相手と交際したいのであれば、離婚する必要があります。そうではなく、嘘をつきながらも両方とも関係を継続させるというのは、本来向かい合うべき相手にエネルギーを向けていないという見方もできる行為なのかなって。
本作でも、大黒柱妻のマイさんが、専業主夫の夫と義母の行動によって家庭に居場所がなくなるのを感じ、会社の後輩に意識が向きます。マイさんの状況については、男性から「妻が妻の母親と2人で家事をしている時間が長くて、夫婦だけの時間があまりない」といった話をよく聞くので、夫婦逆転バージョンとして描きました。浮気を正当化するわけではないですが、人間の心理としてこういうことはあり得るんじゃないかって。
マイさんは家に居場所がなく、偽りの自分を夫の前で演じている状態です。根本的には夫婦のコミュニケーションの問題ですが、義母がいることでさらに言いづらくなっている。本当はマイさんは自分の気持ちを夫に話す場を設けなきゃいけないと思うんです。最終的にマイさんはそれに気づいていく……という展開で描きました。
不倫に限らず、過度に何かにのめり込むような行為も爆発の一種だと思います。確かに相手に伝えることは恐怖心が伴います。でも、避けたところで別の形で爆発してしまうなら、攻撃的になる必要はないですが、言いたいことのある相手には、言った方がいいんじゃないかと私は思います。

体の不調がメンタルに影響を及ぼしていた
——作中でふさ子さんは収入が大幅に減って、不安を抱えています。田房さんもフリーランスとして働く中で、不安を感じるご経験はあったのでしょうか。
現実には、ふさ子さんを通じて描いたような状況は経験していなくても、気持ちが落ち込んだことによって、全部ダメな気がしたことはあって。でも振り返ると、体が元気じゃなかったのが原因だったと思っています。
最近、市販の貧血改善の薬を飲み始めたらすごく元気になって、貧血が原因でいつもだるかったから気持ちも落ち込んで、「自分は自営業だからダメなんだ」というモードになっていたのかなって思うんですよね。
——ちなみに貧血は健康診断で指摘されるレベルだったのでしょうか?
そこまでではなくて、でも体が欲していたのか、なんとなく飲んでみようと思って、結果元気になった感じです。同世代の友人は更年期症状に関連して貧血を感じ、病院で処方薬を出してもらっていると話していて、検査を勧められたので、私も検査に行くことにしました。
——メンタルの問題だと思っていたら、そもそも体調が悪いことがメンタル不調につながっていたということですね。
「冷え」についても感じるようになって、最近は体を温めることの大切さも実感しています。最近はピラティスも始めて、体を動かすことでも、違いを感じています。
——最後に、20代、30代の経験を振り返って、こうしておけばよかったと思うことはありますか?
あるにはあってよく考えちゃいますし、娘には「こうしたほうがいい、ああしたほうがいい」と言っちゃうのですが……でもどう遡ってもそのときの私はベストを尽くしていたんです。自分の能力としてそうすることしかできなかった。そういう結果だったのは仕方ないなって感じで、「こうすればよかった」と思うことは意味ないと思うので、やめたいんですよね。私だけじゃなくて、みなさん、そのときどきで精一杯やった結果なんだと思います。

【プロフィール】
田房永子(たぶさ・えいこ)
1978年生まれ、東京都出身。漫画家、コラムニスト。
第3回アックスマンガ新人賞佳作受賞。2012年、母からの過干渉に悩み、その確執と葛藤を描いたコミックエッセイ『母がしんどい』(KADOKAWA/中経出版)を刊行し、ベストセラーに。他の著書に『ママだって人間』『キレる私をやめたい』『人間関係のモヤモヤは3日で片付く』『喫茶 行動と人格』などがある。
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