「男は仕事、育児は母親?」2児の父親による育児漫画で描かれる、夫婦の衝突と家事育児分担のリアル


かつては「男性は仕事、女性は家事・育児」という意識が強かったものの、現在では、「性別関係なく、仕事も家のことも分担してするもの」という考えを持つ人は増えていると思います。とはいえ、今の大人はジェンダー規範が強い中で成長した人も少なくないですし、社会の中でも性別役割分業が根深く残っている場面もあります。『僕らの育児が変わる時』(宝島社)では、パパ視点を中心に育児の葛藤や障壁、夫婦のすれ違いと解消の過程が描かれています。作者のパパコマさんも2児の父親です。パパコマさんのご経験や、作品の背景について伺いました。
本作の中心人物である、東山航太には生後1か月の子どもがいます。早く帰って子どもの顔を見たいと思っているものの、社長や上司は「男は仕事。育児は妻に任せるべき」という考えで、定時で帰ることも、飲み会も断りにくい雰囲気の職場。
妻の京香は「残業や飲み会があっても大丈夫」と言っているものの、本当は抱えているものがあります。航太の優しさを感じているものの、積極性が足りないことや育児への責任感の薄さに不満を感じてもいます。でも正直に言えず、嫌味を言ってしまいギクシャクしてしまうことも。
ある日、航太は仕事でミスをしてしまいます。結果、大ごとにならずに済んだものの「父親になったのだから、仕事に集中しなさい」という社長の言葉が胸をえぐります。一方、育休取得経験者であり、育児のためにいつも定時帰宅、飲み会も断る先輩の小澤和馬と話し、家族との時間も大事にしたいという気持ちも再確認。
同日、航太は「帰りにオムツを買ってきて」と言われていたことを忘れてしまい、京香に責められ、お互いに激しい言葉をぶつけてしまいます。ただ、実は京香は限界を迎えており……。
小澤のように「父親が育児に積極的」と聞くと、育児期の夫婦の関係は穏やかなものをイメージしやすいです。ですが、真剣に向き合い、「頑張り方」を間違えた結果、育児ノイローゼになる姿も本作では描かれています。
なお、作者のパパコマさんのインスタグラム及び、公式ブログでは、航太の上司であり「父親は仕事を頑張るべき」という考えである岡崎昌也の話を読むこともできます。
作品作りの背景や、パパコマさん自身の経験について話を伺いました。
「男」という理由で育児の会話から外されることがあって……。
——インスタグラムでの発信を始めたきっかけについて教えていただけますか。どんな思いを持っていたのでしょうか?
インスタグラムでの投稿を始めたきっかけは、子どもの成長を絵日記にして記録するためです。そこからママさんたちと仲良くなったのですが、ママさんたちの投稿を見ていると、パパの育児への不満が多くて。
パパ側からママへの感謝や想いを発信できればと思い、パパ目線を中心とした育児漫画や、育児にまつわる色々なことを絵と文にしたカルタを通じて表現する今のスタイルになりました。
——本作は、ご自身の経験や、人から聞いた話も交えながらのフィクション漫画とのことですが、たとえば社長が子どもの風邪で休む男性社員に激怒していたことは、実際にご経験があったそうですね。「男性の育児」に関して、障壁や葛藤を感じたご経験はありますか?
職場の人が、子どもの運動会のために有給をとろうとしたら「昔は父親が子どもの行事に行けないのは当たり前だった。大黒柱なんだから働きなさい」と言われているのを見かけました。
私自身も、インスタグラムで育児の悩みを発信したとき、「男が何を言っても所詮男」「育児してるアピールうざい」と、「男」という理由で育児の会話から外されることがあって、孤立感を覚えました。
——最近では、家事育児に主体的な男性も増えてきていると感じます。一方、今の大人でも子どもの頃から、「男は仕事、女は家事育児」の性別役割分業の情報を浴びてきているため、影響を受けずに大人になるのは難しいと思います。パパコマさんは、今のような考えになったきっかけはありますか?
私も最初は「育児はママがした方がいいのだろう」と漠然と思っていました。ですから自分が育児をすることに「私がやってもいいものなのだろうか」という、ちょっと引いた気持ちがありました。
ですが妻に「2人とも親なんだから、どちらがやってもいいんだよ!」と言われたことで、ママ・パパという性別で区別するのではなく、「親」という共通の役割に目を向けることができました。
父親が積極的でもすれ違いや衝突はある
——本作で描かれている、会社の先輩後輩であってパパである東山さんと小澤さんは、程度に違いはあれども、2人とも育児に向き合おうとしていますが、それでも夫婦間のすれ違いや衝突が起きてしまうことが描かれていました。夫婦におけるすれ違いをなくしていくために、どんなことが大切だと思いますか?
育児のやり方は人それぞれ違うので、パパが積極的に育児をしても、すれ違いや衝突はあるものだと思います。そういったものを解消していくためにも、やはりコミュニケーションは大切です。二人で育児日記をつけたり、話し合ったりして、今どんな悩みや成長があるかなど、共有することができたらいいと思います。
——東山さんと小澤さんのように、社内の男性同士で育児について相談できる関係性は素敵だと思いました。現実にも、二人のような関係性の話を見聞きすることはありますか?
あります。私もオムツメーカーや幼稚園選びなど、社内の先輩パパに相談しました。また、昨年パパになった友人は、事あるごとに相談してきてくれます。話せる同性の友人がいると、とても気が楽になります。
「漫画を通して妻の気持ちが理解できた」
——インスタグラムにて、色々な反響が届いていることを書かれていました。印象的だった言葉や感想を教えていただくことはできますでしょうか。
連載を始めてから、男性から感想を多くいただくようになりました。その中でも特に「妻とケンカしていたけれど、漫画のおかげで気持ちが理解できた」という言葉がうれしいです。女性からも「パパに『ありがとう』と言おうと思った」といった感想をいただくと、描いていて良かったと思います。
一方「育児を『つらい』と言うな」との言葉もたまにいただきます。そういった方々にも伝わる漫画にしていきたいなと思います。
——育児について悩んでいる方は、真面目に向き合おうとしているものの、すれ違ったり、どうしていいかわからなかったりする方が多いと思います。それぞれの立場によって、色々な思いを抱えている方が読んでいる作品と存じますが、作品制作の中でのマイルールや、大事にしていることはありますか?
あくまでも「ママもパパも子どもの幸せを願っている」という部分は、どの漫画も共通しているところです。
そのうえで「ただ幸せを願っているだけの人」と「幸せにするために行動する人」の差を表現したいと思って描いてます。
※『僕らの育児が変わる時』(宝島社)試し読みはこちらから

【プロフィール】
パパコマ
2児のパパ。
妊娠・出産してくれたママへの感謝や、パパから見た育児の世界、気づきなどをマンガにしてブログやSNSで発信。
「パパコマカルタ」や本作の連載が話題となる。本書が初の著書。
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