【インタビュー】ホットフラッシュ・子離れ・夫婦間の衝突…更年期世代の「働きママン」が抱える現実
働きながら育児をする「働きママン」。おぐらなおみさんの「働きママン」シリーズでは、出産後の職場復帰・保活・夫との衝突・小1の壁・小4の壁など、働く母親のリアルな姿が描かれています。今回『働きママンまさかの更年期編 ~ホットフラッシュをやりすごせ!』(はちみつコミックエッセイ)では、主人公・一ノ瀬圭子に更年期症状が出始めます。おぐらさんに「更年期」や、働きママンシリーズを描く中で感じた世の中の変化について伺いました。
更年期がくるのはわかるけれど、どういうものかは知らない
——本作では「更年期」をテーマとされていますが、制作過程のリサーチの中で、どんな悩みが聞こえてきましたか?
多かったのは「更年期がどういうものかわからない」ということ。耳にすることはあっても、具体的に自分がどう変わっていくかわからないとおっしゃっている方は多かったですし、私自身も同じように感じていました。何か実態の掴めないものにとらわれてしまうというか、わけのわからないものによって、身体が変わってしまうことが不安でした。
思春期に月経が始まるということは、劇的な変化だと思うんです。一方で、更年期はある日突然何かが変わるというよりは、徐々にだるさや調子の悪さが出始めていくという身体の変化なのだと感じました。
「更年期」という言葉は知っていても、「具体的にこういうことがある」と描かれている漫画を読んだこともなかったので、今回そういう作品を描いてみようと思いました。
——おぐらさんご自身は、どのような症状で悩まれたのでしょうか?
私は汗をかくことと、動悸で悩まされました。普通に過ごしている中でドキドキしてしまうことが多かったですし、首から上は汗が大量に出て、顔がほてって真っ赤にもなるので困りました。
最初は更年期と体調の変化を関連づけられていなかったのですが、年齢的に更年期の症状なのかもしれないと思うようになりました。頭では「多分そうだろう」と思っていても、実際に汗が止まらなければ困ってしまいますし、なんでもないときにドキドキすれば、自分の身体で何が起きているのか不安にもなります。
本来であれば、病院へ行った方が良かったと思うのですが、なんとなく病院に行こうと思えなくて。熱があるとか骨折してすごく痛いといった、わかりやすい症状というよりは、「なんとなくだるくて大変」な中で日々を過ごしていて、市販の漢方薬だけは飲むことがありました。
——本作を描いている中で、登場人物とご自身が重なるところはありますか?
体調があまり優れなくて、仕事がはかどらないことは同じでした。
また作中で描いたように、更年期の年代と、子どもが自立して親から離れていく時期が重なる方は多いと思います。私もそうだったのですが、子どもが巣立っていくのは寂しかったので、描いていてつらいものがありました。でも誰でも起き得ることですし、経験しなければならない心の痛みなのかもしれないとも思い、受け止めました。
男性の更年期
——本作では中年期の男性の悩み、いわゆる男性更年期のことも描かれています。体調の変化やキャリアに関して、身近で男性が悩んでいることを感じる瞬間はあったのでしょうか。
私は夫が同世代ですが、「なんだか最近イライラしている」と思うことが出てきて。思い返せば学校の先生や、仕事で関わる人など50代の男性が「今日はイライラしている」と思うことがありました。昔は情報が入ってこなかったのですが、今は「男性の更年期」という言葉を耳にすることが出てきて、男性もホルモンの変化でさまざまな不調が出ることを知りました。
女性は一般的に更年期が訪れるのが当たり前の話として知られていますし、いつ始まっていつ終わるかが事前にわかるわけではないものの、いつか終わるのも知っている。その点、男性はまだまだ情報が少なくて、男性自身が男性更年期のことを知らない。だから不調の正体がわからなくて、悩みが深くなるのかもしれないと思いました。
また「男性は弱みを見せるべきではない」という規範の影響も大きいと思います。男性同士で「最近調子悪いんだよね」「更年期じゃない?」って会話をしている人は少ないと思うんです。そういうやり取りができないことが、悩みを深くしてしまう一因かもしれないですね。
働きママンの大変さはあまり変わっていないけれども
——「働きママン」シリーズの一作目は2011年に刊行されています。子育てや働き方に関して、世の中では色々な変化がありましたが、おぐらさんはどのように感じてきましたか?
10年以上経つものの、意外と悩みは変わらない印象を持っています。私の親世代は、紙おむつもなく、保育園も全然預かってもらえない大変な時代だったという話を聞いてきましたが、それは昔話という感覚があったんです。
一方、今でも働きママンの一作目を読んで「私のことを書いているように思いました」という感想をいただくことがあって、働く女性の大変さがそれほど変わっていないことにびっくりしました。
子どもは夫婦で協力して育てるのが当たり前にはなったものの、未だに女性に責任が偏りがちだと思います。たとえばどちらかが辞めて家庭にいなきゃいけない事情が起きたときに、女性がやめることが多い。それも10年前とも変わらないですが、世の中の仕組み自体はそこまで変わっていないからそうなるのですよね。
「最近はこんなに楽になりました」という話をあまり聞かないですし、子育てしながら女性が働くことのハードルが大きくは変わっていないと感じます。
——これまでのシリーズの中で、主人公の一ノ瀬圭子と、夫の健二が家事・育児のことで衝突することもありました。父親が家事・育児をすることについては、変化を感じますか?
読者さんからは、まだ父親が「手伝う・協力」であって、自分も子育ての主体という意識が薄いと感じるというお声を聞くこともあります。一方、朝、保育園に連れて行くスーツ姿の男性を見ることは増えましたし、PTAや進路説明会にお父さんが来ることも当たり前になってきました。私の世代は、夫が参加することはあまりなかったので、変化を感じます。
今の管理職世代は会社を休まないことが正解だったので、若い人が家庭の理由で休むと戸惑うという話を聞くことも。なので、妻ほど家庭にコミットできなくても、男性は男性で悩んでいるのだろうとも感じます。
ただ、今は過渡期でもあると思うんです。コロナ禍を経て、リモートで働くことも進み、子育ての形が変わっていく。自分も子育てしてきた人が管理職世代になると、色々変わるのではないかと私は期待しています。
※後編に続きます
【プロフィール】
おぐらなおみ
イラストレーター&マンガ家&美大生。趣味は飲酒と散歩と耳掃除。群馬県出身。
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