「年齢を重ねるごとに自由になっている」作家・窪美澄さんが更年期を経て今思うこととは

 「年齢を重ねるごとに自由になっている」作家・窪美澄さんが更年期を経て今思うこととは
撮影/大森文暁
磯沙緒里
磯沙緒里
2024-02-27

心と体が大きく変化する”更年期”。年齢とともに生じる変化の波に乗りながら生き生きと歩みを進める女性たちにお話しいただくインタビュー企画「OVER50-降っても晴れても機嫌よく」。第9弾は、作家の窪美澄さんにお話を伺いました。前・後編に分けてお届けします。

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生きづらさや心の傷を抱えながら今を生きる人々を丁寧に描き、読み手の心に光が差すような物語が支持されている窪美澄さん。かつてはライターを続けながら母として奮闘してきた時代もありました。そんな窪さんの、更年期やこれまでのこと、物語を書く上での想いを伺いました。

家族以外の繋がりを小説に書きたい

ーー数々の作品を世に生み出し、直木賞をはじめとした文学賞も多数受賞されている窪さんですが、会社員、出産、フリーライターを経て作家デビューをされているんですよね。どのような経緯で小説家になられたのですか?

窪美澄さん(以下、窪さん):20代は広告制作会社に勤めていて、コピーライターやディレクションをする仕事をしていましたが、出産を機に辞めたんです。辞めたっていっても、私の意思で辞めたわけではなく、時代的に辞めさせられてしまって。その後出産をしましたが、経済的に働く必要があったんです。産後にマタニティスイミングの先生の本を1年がかりで作っていたので、そのゲラを持って、当時発刊された『たまごクラブ』『ひよこクラブ』の編集部に行ったんです。「私、こういう本を作っているんですけど、ライターとして雇ってもらえませんか」って飛び込みで営業したんです。そしたら、時代の波もあったんでしょうね。「来週取材に行ける?」って聞かれて、そこからライターとして働き始めました。それが30歳前くらいですね。妊娠、出産、子育てとか、女性の健康などの記事を主に書いていました。

その後、夫婦仲が良くなくなってきて、別居が決まったんです。ライターだけやって自分ひとりで息子を育てていかなければいけないっていうのは、息子が大学まで行くとなると経済的に心許ないと思いました。そこで、小説を書いたら、ライターと小説でなんとかなるんじゃないかと思ったんです。今思えばその時の自分はどうかしているんじゃないかと思いますけど、博打を打つような感じでしたね。その後、デビューできたんですけど、編集者さんには「絶対にライターを辞めないでくださいね」って言われました。食べていけるかわからないからですね。その言葉に従って、小説家デビューしてから3〜4年はライターを続けていました。でも忙しすぎて、週刊誌での連載が決まった時に、「これはもう小説に専念しないと難しい」と思って、そこからは専業でやっています。

ーーどの時代の窪さんも行動力が素晴らしいですね。

窪さん:若かったし、勢いと体力があったんですよね。

ーー小説家になられたのは40代ですか?

窪さん:デビューしたのは44歳です。40代に入って小説を書かなくちゃと思って書いたので、応募したのが41〜42歳の頃だと思います。

ーー母になっても、40歳を過ぎても新しいことを始められるんですね。希望を持てるお話です。

窪さん:当時はまだ若かったっていうのもあるし、私の馬鹿力に応えてくれる人たちがいてくれたんですよね。ライターとして拾ってくださった編集部とか、小説家として拾ってくださった選考委員の方々とか、その折々にラッキーな出会いがあったからやって来れたんだと思います。

ーーこれまで色々な方に助けられてきたという感覚があるんですね。

窪さん:もちろんあります。私は母親との関係が良くなくて家族運があまりないんですけど、その時々に出会った家族以外の人々に助けられてきたっていう気持ちがすごく強いです。マタニティスイミングの先生とか、広告制作会社の社長さんとか。だから、家族以外の繋がりを小説に書きたいって気持ちは強いですね。

ーー家庭の中でなんとかしなければいけないともがいている人にとっても窪さんの小説は励みになりますね。

窪さん:そうですね。そうだといいですね。

喪失感を抱え、鬱と共に過ごした更年期

ーー作家デビューされた時期がはプレ更年期ですよね。作家人生が更年期と被っていると思いますが、更年期症状は気になりましたか?

窪さん:私の場合は、更年期というよりもベースに鬱病がありました。26歳の時に第一子を産んでいるんですけど、その子を病気で亡くしちゃったんですね。それからなんとか乗り越えてきたんですけど、10年後くらいに心が不安定になって、38歳の時に最初の鬱になりました。その時は薬を飲んで、なんとか落ち着いてはきたんですけど、また10年後の48歳くらいの時にもう一回波がきたんですよ。

だから今考えると、更年期と鬱との境があんまりないんですよね。メンタルの症状はあったんですけど、それは自分ではあまり更年期と捉えていなくて、鬱からくる症状だなとずっと思っていたんですよ。だから人間ドックとかも受けてはいたんですけど、ごく普通の更年期症状程度で。ホルモン値も特別に悪いわけでもなく、先生からも特に提案はなかったので、心療内科の治療を優先させていました。体の重だるさなんかは、鬱からきているんだとずっと思っていましたね。

ーー漢方やセルフケアを試されたことはありますか?

窪さん:漢方は、20代〜30代で女性の健康に関する記事の取材をしていたので、その時は飲んでいたんです。でも40代では鬱のほうが進んできちゃったので、そちらの治療を優先していたので、漢方からは遠ざかっていましたね。

窪美澄
photo by Fumiaki Omori

不安要素はあっても、今やるべきことをこなしていくマインドフルネスな生き方

ーー誰もが少なからず悩みを抱えている時代ですが、更年期には不安を抱くことが多いようです。窪さんの不安との付き合い方についてお伺いできますか?

窪さん:私は58歳になるんですけど、やっぱり先のことを考えるとどんどん不安になるじゃないですか。老後の不安とか、この先10年後のこととか。長いスパンで考えると不安になることが多いと思うので、短いスパンで考えるようにしています。本当に短いスパンで、今日だけを考えるとかね。マインドフルネスの考え方ってあるじゃないですか。今ここだけを見ていてもいいんだよっていう。今日も大丈夫だから明日も大丈夫だろうっていう感じで、日を繋いでいくようにして考えることにしています。

ーーマインドフルネスのような考え方は意識的に取り入れたのですか?

窪さん:そういうわけでもないんです。ある時、「あなたのやっていることはマインドフルネスだよ」って、人から言われたんです。それで、これがそうなのかと思って、じゃあこの方法でいこうと思ったんですよね。

ーー未来のことを考えることから不安は感じますものね。今ここに意識を向けることは、誰にとっても必要なことですよね。

窪さん:そうだと思います。やっぱり、色々あるじゃないですか。正月に地震があったり。2025年にはどうなるんだろうとか、日本がこれからどうなってしまうのかとか、不安要素は山ほどあるんですけど、それは一旦おいておいて、今自分がやるべきことは何かっていうことを考えています。今日やるべきことをこなして、明日のことは明日考えようっていう感じで生きています。

年齢を重ねるごとに自由になっている

ーー年齢を重ねることに対して不安やプレッシャーを感じる人も多いですが、窪さんは年齢を重ねることに対してどのようにお考えですか?

窪さん:私自身は、年齢を重ねるごとに自由になっていると感じているんです。もう子供も育てあげちゃったし、恋愛沙汰でごたごたすることもないし。あと、私はすごくPMSが強かったんです。月経前に不安定になることがあってすごくしんどかったんです。更年期を過ぎて、体の節目と共にPMSも終わったので、今はすごく気が楽なんです。今は気圧の変化がつらかったりとか、それなりにあるんですけど、それでもひどいPMSからは抜けられたので、楽だなと思っています。

ーーホルモンに振り回されるってつらいですよね。産後もつらかったですか?

窪さん:すごくつらかったです。産後鬱まではいかないですけど、自分のホルモンの周期でめちゃくちゃに体調が変わってしまう。メンタルも巻き込まれるし、頭痛とか体の症状もあるし、つらかったですね。それに比べると、今は気圧の変化に影響されるくらいでずいぶん楽です。


*後編に続きます
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磯沙緒里

磯沙緒里

ヨガインストラクター。幼少期よりバレエやマラソンに親しみ、体を使うことに関心を寄せる。学生時代にヨガに出合い、会社員生活のかたわら、国内外でさまざまなヨガを学び、本格的にその世界へと導かれてインストラクターに。現在は、スタイルに捉われずにヨガを楽しんでもらえるよう、様々なシチュエーチョンやオンラインでのレッスンも行う。雑誌やウェブなどのヨガコンテンツ監修のほか、大規模ヨガイベントプロデュースも手がける。



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