更年期は思考癖との闘い。「頑張れない自分」を認めた私の選択【実体験】


最近では「更年期」について語られる機会も少しずつ増えているものの、数年前まではネガティブなイメージも強く、女性同士でも話しにくいものでした。具体的にどうつらいかも知られていない部分も多いです。Life for meプロデューサーの清永真理子(きよまり)さんは、様々な不調を経験しています。清永さんの更年期の経験が『この不調、ぜんぶ更年期のせいだったの!?』(解説:木村容子、三笠書房)に書かれています。インタビュー後編では、更年期との向き合い方や、企業や社会に必要だと思うことについて伺いました。
「頑張れない自分」を認めること
——更年期症状が始まるまで、仕事に支障が出るような体調不良がなく、ハードに仕事を頑張り続けてこられたとのことですが、不調を感じるようになって、気持ちの面でどんなことがつらかったですか?
「頑張れない自分」を受け入れることが、私の中で一番ハードルが高かったかもしれません。他人とは比べなかったのですが、過去にできていた自分と比較するのがつらくて。体は悲鳴を上げている中でも、「私、怠けてるだけじゃない?」「もう少し努力すれば何とかなるのでは」と自分に鞭を打っていました。
いままで、頑張ってきたことで、自己肯定感を高めていたので、その「頑張る自分」を手放すのはつらかったです。なぜ過去の自分が手放せなかったかというと、やりたいことを諦めるようなイメージがあって。
——どう考え方が変化していったのでしょうか?
更年期について学ぶ中で、私には「頑張りすぎる癖」があることに気づいたんです。「一度きめたら、やり遂げるべき」「自分でなんとかすべき」など、色々な思考の癖が私の中にありました。
そうやって自分を見つめ直すうちに、「私は本当にこれがしたかったのかな?」と考えるようになりました。やりたいと思い込んでただけで、実はそこまでこだわる必要がなかったことや、別のやり方があることもあったんじゃないかって。
規則正しい生活を送ることや、病院通いなど、自分のメンテナンスに時間がかかるようになりましたし、集中して作業できる時間も短くなったので、時間の使い方を見つめ直す必要がでてきました。
「何を大切にして、何を手放すか」問い直してみると、新しい視点が見えてきました。たとえば子育てでは、手作りの食事や、きちんと子どもの話を聞くこと、学校の準備をしてあげることが大事だと思っていましたが、私のしたかったことは、子どもの成長を見ることや、子どもと一緒に成長することだったんです。
気づいてからは、全部手作りじゃなくてもいいかもしれないと思えましたし、家事代行を利用してゆっくり話を聞く時間を作るとか、忙しいときはお手紙でやりとりするとか代替の方法はいくらでもあることに気づきました。
また、周囲の人に「困っているの。助けて」といえるようになりました。いままで、「頼ると迷惑かけるので、自分でやらなきゃ」と思い込んでいたんです。でも、実際頼ってみたら、むしろ、自分がやるよりうまくいくことも多く。周囲との関係も以前と変化した気がします。
——仕事でも変化はありましたか?
当時、1人会社でしたので、全部自分でやっていましたが、請求書やアポイントの調整をオンライン秘書に任せるとか、企画書のたたき台は生成AIを使うとか…そんな方法もあるんですよね。
「諦める」のではなく「やり方を変える」ことで目的を達成できると気づいたときは、本当に心が軽くなりました。もちろん全部うまくいくわけではなく、毎日試行錯誤していますが、思考癖を変えられただけでスッキリしました。
——本書には、人に話したことが突破口になったことが書かれていましたが、ご自身の中で一番の障壁になっていたことはどんなことだと分析していますか?
先ほどの思考癖からくる様々な思い込みですね。そもそも「私が更年期になるはずがない」って思っていたんです。今までずっと元気に働いてきましたし、生理も順調、大きな病気もしてない。更年期だとしても、努力でなんとか乗り越えられると思っていました。
私にとって「できない」ことは「怠けている」ことと同じでした。でも、更年期で辛い状況であることを人に話してみたら、「すごく頑張ってるね」って言ってもらえたんです。怠けていたわけじゃないんだ。私なんとかしたくて、頑張ってるんだ。と気づきました。
さらに、誰かに認めてもらえて、共感してもらえたことで、心が軽くなりました。
これ以降は、私の体に不調は起きているものの、それは私が悪いわけでも、怠けているわけでもなく、一般的な体の変化なのだと受け入れられるようになりました。人に話したことをきっかけに、色々と学び始めて、知識と実感が結びついて腑に落ちたのだと思います。
更年期不調が始まってからの家事分担
——家事に関する夫さんとの衝突も本書には書かれていました。更年期の不調が始まってからの家事分担はどうされたのでしょうか。
夫は家事が苦手で、結婚当初から家事は私の担当という感じでした。得意な方がやった方が効率がいいとも思っていたので、それが嫌だとも思わなかったですし、当たり前だと思ってました。でも自分だけで家事を回せなくなったので、家を機能させるには何とかしなきゃと思ったんです。
まず更年期のことを夫に説明しました。でも夫の中では更年期って「イライラするもの」くらいの認識で、「それは気持ちや性格の問題じゃないの?」みたいな反応で。体調不良とイライラがどう関係あるのかがわからない様子でした。
ただ、会社員の夫は「メンタル不調」なら理解できたんです。会社にもメンタル不調の人は結構いたので。それからは一緒に病院に行ってもらったり、二人でカウンセリングを受けたりして、私の状態を理解してもらいました。
——理解してもらった後、どう分担していったのでしょうか?
役割分担を明確にしました。全部私がやる必要はないとわかったうえで、どれを夫にやってもらうかと考えたとき、私がやっている「見えない家事」の一覧を全部書き出したんです。
例えば「ゴミ出し」と一言でいっても、部屋中のゴミを集め、袋を出し、新しい袋をセットし、袋の在庫を管理して……と、たくさんのプロセスがあります。プロセスを全部書き出し、夫に「これならできる?」と相談して、ゴミ出しと洗濯を担当してもらうことにしました。
ただ、体調が悪いときにこういう話をするのは難しいので、調子が良い日に自分の中で因数分解する感じで、少しずつ取り組んでいきました。
役割を決めるようになって、だんだんと夫もできるようになっていきましたし、ほかにも変化があって。たとえばついでに夫の担当分を少しやっておくと「ありがとう」と言ってもらえるようになりました。それは夫が自分の役割だと思っているから出てくる言葉ですよね。お互いに、感謝する言葉がけがふえました。
更年期は個人の問題ではなく「社会の問題」
——更年期講座を開催する中で、受講生からの話を聞いて、更年期に関する社会的な課題や、制度の改善について、お考えのことはありますか?
更年期は「個人の問題」と思われがちですが、実は社会の問題だと思うんです。今、少子高齢化で働き手が減少し、女性の活躍が求められる流れがあって、そんな中、40〜50代のベテラン女性たちが10年近くパフォーマンスが下がるのは、もったいないこと。
更年期で何らかの不調を感じる人は10人中6人くらい。私みたいに重い症状が出る人は、10人中2人くらいいると言われています。この2人が10年間フルに働けないのは、会社にとっても国にとっても、大きな損失ですよね。
また、女性の方が家事負担が大きい家庭が多いため、女性が更年期症状で体調を崩すと、その分を夫が担う必要が出てきて、男性の仕事にも影響が出てくることも考えられます。そうすると、夫側の会社にも関係してきますので、やはり個人の問題ではないんですよね。まずはそういう意識を社会全体で共有できたらと思いますし、企業にも理解してほしいです。
——企業でどういう取り組みが必要だと思いますか?
まず、必要な知識を広めること。更年期の基本的な情報から、色々な症状があること、症状が重い人は個人の努力でどうにもできないくらいパフォーマンスが下がってしまうので、サポートが必要といったことを、職場全体で知ることが大切です。
2つ目は、相談しやすい風土づくりです。私は、企業で研修を行うときには、男女一緒に参加してもらうこと、できれば20代の若手も含む全従業員に受けてほしいことをお話ししています。
更年期とは年齢を重ねることによる変化にも拘わらず、悩んでる当事者も、まだ、個人的な問題を企業の中で話すなんて「恥ずかしい」と感じている人も多くいます。また、「甘え」や「自己管理できない人」と思われるんじゃないかと感じて、言い出せない人も多くいます。だからこそ、周囲の人々ふくめ、みんなが知っておくことで話しやすくなると思うんです。
特に男性の上司だと話しにくいので、産業医に相談できるようにしておくとか、外部の専門家に相談できる窓口を設けるとか、そういう工夫もあるとよりよいですよね。
3つ目は柔軟な働き方ができる環境整備です。生理と違って不調がいつ起きるかわかりにくいので、フレックスタイムを自由に使えるようにするとか。あと、一人で抱え込まない仕事の進め方をして、急に休んでも対応できる体制を作っておくといいですね。
こういった取り組みをする企業が増えれば、当然社会も変わっていくと思います。

【プロフィール】
清永真理子(きよなが・まりこ)
1969年福岡県生まれ。
GCDF-Japanキャリアカウンセラー、女性の健康経営推進員、5代目酒サムライ・利き酒師。
株式会社リクルートで営業・営業マネージャーとして23年間勤務。2016年、日本酒コンサルタントとして株式会社WABIを創業。その後4年間の更年期障害に翻弄され、キャリアチェンジを経験。
自身の体験と100名以上の経験者の声をもとに「Life for me-更年期講座-」を立ち上げる。現在は、個人講座以外に、従業員の更年期によるパフォーマンス低下による企業損失を防ぐため、企業研修を企画・実施。
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