【疲れているのに休めない人へ】人生が変わる、もっと楽に生きられる。心療内科医が教える本当の休み方


日本疲労学会が発行する「2022年休養・抗疲労白書」によると、8割弱の人が「疲労を感じている」と回答しています。それにも関わらず「休みたくても休めない」「休みをとれたとしても疲れが取れない」という悩みを抱える人が多いのが現実です。そこで今回は休みづらさの原因を紐解きながら、適切に休むことの重要性をクローズアップ。心療内科医で『心療内科医が教える本当の休み方』の著者である鈴木裕介先生に話をうかがいました。
「休むこと」は高等技術。必要な3ステップとは?
まずは、なぜ「休みたくても休めない」という状態が起こると思いますか。それは「休むことがとても難しい高等技術だから」と鈴木先生は言います。というのも、人が自分に合った本当の休みをとるには、次の3つのプロセスをすべてクリアする必要があるのです。
ステップ1:休みが必要な状態だと自覚すること。
ステップ2:「休みます」と宣言し、療養環境を確保すること。
ステップ3:自分の状態にとって適切な療養活動を選択すること。
ステップ1ですが、ストレスがかかる環境にいるとき人間の身体はその負荷に抵抗するため、副腎からアドレナリンなどの抗ストレスホルモンを放出させて戦闘モードを維持します。このホルモンは枯渇しない限り放出しますが、枯渇すると一気に疲労感と様々な身体症状が現れます。たとえば慢性頭痛、吐き気、腹痛、腰痛等々。これらの症状はメンタル不調から来ている可能性が高く、休みをとるにはこうした身体からのサインをキャッチすることから始まります。
休み下手な人は、自分の内的欲求に応えるのが苦手
次に②のステップですが、自らの疲労を自覚し休んだほうがいいとわかっても、実際に休むには、抱えている業務を誰かに引き継いでもらうなど、休む環境を整える必要があります。その際に障壁となるのは、周りに迷惑や心配をかけたくないという思いです。また休めたとしても働いていない罪悪感に苛まれ、社会の役に立っていない自分を許せず仕事関係の本を読んだり、資格取得の勉強を始めたりしてしっかり休めないという声もあります。こうした状況を「過剰適応」と呼びます。
過剰適応をもう少し詳しく説明すると、会社など外側からの要求には応えられるけど、自分の内側からの要求に応えられず疲弊している状態を表します。真面目な人ほど他者の欲求を優先させ、「こうしたい」という自分の欲求を後回しにしてしまい、疲労回復に必要な休みを取りづらくなります。周りの空気を読めるのは長所とも捉えられますが、自己犠牲を伴う必要はありません。第一に守るべきは自分自身と心得て。

いまの自分のストレスモードは?自覚して適切な休養を
最終ステップの③では、ストレスモードについて紹介します。ストレス反応にはおもに二通りの方向性があり、一つはストレスがかかったときに心臓の鼓動が速くなり血圧が上昇する、あるいは怒りやざわつき、不安を覚えるといった反応です。これらは交感神経の働きによって起こり、迫りくる危機に対して闘ったり逃げたりすることで事態を解決しようとするハイテンションな反応。これを「アッパー系ストレス反応(炎のモード)」と呼びます。
もう一つは、身体がだるく活力がない、感情が動かないといったローテンションな状態。これを「ダウナー系ストレス反応(氷のモード)」と呼びます。
ストレスと上手に付き合うには自律神経のバランスを保つことが重要です。これまで自律神経は交感神経と副交感神経の二つだけと考えられ、副交感神経が優位に働くとリラックス状態になると言われていました。しかしアメリカの心理学者、ポージェス博士が副交感神経は、腹側迷走神経系と背側迷走神経系にわかれることを明らかにしました。博士の理論に基づくと、副交感神経の背側迷走神経系が優位だとダウナー状態に傾くので、腹側迷走神経系優位に導くことが本当の意味の回復につながる休み方になります。

炎のモード(アッパー系)
〈特徴〉
・交感神経優位な状態
・過覚醒
・危機に対して闘う・逃げるで反応
〈身体的反応〉
切羽詰まった表情、眼球が飛び出る、険しい声、動悸、血圧上昇、顔面紅潮、速く浅い呼吸、食欲抑制、震え、発汗、いかり肩、前のめり姿勢(臨戦態勢)、注意力過剰
〈抜け出す方法〉
ゆっくりした呼吸をする、ラベンダーなどの鎮静系のアロマを利用する、ハーブティーや漢方薬などを利用する、心を落ち着かせる静かな音楽を聴く、温かい湯船に浸かる、部屋を暗くするなど
リラックスモード
〈特徴〉
・腹側迷走神経優位な状態
・最適覚醒
・癒しとつながりを確保
〈身体的反応〉
穏やかで余裕のある表情、柔らかい目の輝き、柔らかい声、深くゆっくりした呼吸、胸郭が広がり伸びやかな姿勢
氷のモード(ダウナー系)
〈特徴〉
・背側迷走神経優位な状態
・低覚醒
・省エネで自分を守る
〈身体的反応〉
ボーっとした表情、瞳が縮小する、平板な声、脈が遅くなる、低血圧、顔面蒼白、緩やかで浅い呼吸、脱力(だるさ)、寒気、失神、閉じた胸郭、前かがみ姿勢(防御態勢)、注意力低下(放心状態)、感情を感じにくい(解離)
〈抜け出す方法〉
早めの呼吸をする、レモングラスなど覚醒系のアロマオイルを利用する、運動や体操など身体を動かして心拍数を上げる、太陽の光を浴びるなど
休むことは「負け」ではない。より良く働くために必要な要素
心身の健康を保ちながら長く働き続けるには、時に他者の要求に応えすぎるのをやめて自分の要求を受け入れ、そこに時間やエネルギーを使うことが必要です。自分の要求に沿って本当の意味での休養がとれて疲労が回復すると、いきいきとした表情に変わる、「こうあるべき」という強迫的な思考と距離が取れる、継続的なパフォーマンスが発揮できるといった変化が表れます。
立ち止まって休むことは悪ではなく、ましてや「負け」でもありません。前向きでエネルギッシュな状態にリセットするのに不可欠な時間と認識を改め、適切な休養を積極的にとれると人生の充実度がよりアップするはずです。

〈プロフィール〉鈴木裕介先生
内科医・心療内科医・産業医・公認心理師。一般社団法人高知医療再生機構とハイズ株式会社を経て、2018年に「セーブポイント(安心の拠点)」をコンセプトとした秋葉原saveクリニックを開院、院長に就任。身体的な症状だけではなく、その背後にある種々の生きづらさ・トラウマを見据え、こころと身体をともに診る医療を心がけている。著書『心療内科医が教える本当の休み方』(アスコム)は現在、8万部を記録。YouTubeチャンネル「PIVOT」にて、本当の休み方について説明した動画の再生回数は累計200万回を超える。
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