冬に増加するメンタル不調。「冬季うつ」が楽になる方法を心療内科医が解説


冬になるとなぜかやる気が起こらず鬱々とした気持ちになる……。それは冬季うつかもしれません。冬季うつの原因を理解し、今日からできるセルフケアを実践すればつらい状況から一歩前進できるかもしれません。『心療内科医が教える本当の休み方』の著者である鈴木裕介先生に詳しくうかがいました。
冬季うつと関係が深いセロトニン。鍵を握るのは「日照量」
季節性情動障害(冬季うつ病)は、緯度の高い地方で冬に太陽を浴びない生活を続けている人に発症しやすいことがわかっています。原因は日照時間の減少による、睡眠や精神安定に関わるセロトニンというホルモンの分泌低下が関係しています。普通のうつは食欲の低下、体重減少、不眠、中途覚醒などの症状が特徴的。一方の冬季うつは、過食、糖質摂取への偏り、体重増加、過眠などが典型的な症状になります。
日長時間の変動は多くの動植物の行動に影響を及ぼします。生物が昼と夜の長さの変化、つまり日長の変化を感知し、それに応じて示す反応の変化を光周性と言います。その一つに、暗闇を感じるメラトニンというホルモンは夜になると分泌され、生物は分泌時間が長くなったり短くなったりするのを感じて季節の変化を感知します。冬季うつの患者さんは、この季節感知能力が残っている可能性が高いとも言われています。
冬季うつ対策に最も有効な方法は、朝の時間に「高照度の光を浴びる」こと。大事なのは時間帯より日照量であり、一般的には2,500~1万ルクスの高照度光が有効。数千ルクス以上の光を浴びて網膜のメラノプシン含有細胞が刺激されると、セロトニンが合成されます。太陽光以外に家庭で使える光照射器でも同様の効果を得られ、室内の作業環境を明るく保つことも重要です。

光照度の目安
・屋外(快晴):100,000ルクス
・屋外(曇天):10,000ルクス強
・光照射器:2,000~10,000ルクス
・家庭用照明:1,000ルクス弱
セロトニンの材料を摂取し、食事でメンタル不調を改善
メンタルヘルスが不調になると、食事が甘い物や高脂肪食に偏る傾向があります。セロトニンは脳で生成される神経伝達物質で、その材料となるトリプトファンが脳に取り込まれるとセロトニンに変換されます。糖質はインスリン分泌を介してトリプトファンの脳への取り込みを促進するため、短期的にはセロトニン分泌を増やします。しかし長期的に見ると過剰な糖質摂取は血糖値の乱高下を引き起こし、ストレスホルモンのコルチゾールの分泌を増加させるので要注意。
そうならないためにたんぱく質の摂取が重要になります。なぜならセロトニンの材料となるトリプトファンは必須アミノ酸の一種で、食事から摂取する必要があるからです。トリプトファンを多く含む食材は、卵、大豆、ナッツ、バナナなど。ここではコンビニ食材で手軽に作れる「セロトニンスムージー」のレシピを紹介します。
セロトニンスムージーのレシピ

〈材料〉
・バナナ・・・1本
・パックの豆乳・・・200ml
・飲むヨーグルト・・・1本
・バニラアイス・・・適量
〈作り方〉
すべての材料をミキサーに入れて攪拌するだけ。
冬の寒さと筋緊張が、うつや身体の痛みの原因に
次に、寒さと気温差による筋緊張がもたらす不調について鈴木先生にうかがいました。冬は室内外の温度差により、心血管疾患や呼吸器疾患などの発症リスクが高くなります。関節痛などの発症とも関係が深く、1時間から2時間で気温が3~5℃下がると特に痛みが激しくなります。そして気温変化の時間が短く度合が大きく、その状態が長く続くほど身体への影響は深刻になります。
また筋緊張はストレス感情とも関係しています。というのも、人間は身体の状態をヒントに感情をラベリングしています。たとえば心拍数が高いと怒りや不安を感じることが多く、身体の緊張によってネガティブな感情が引き起こされやすくなるのです。だから寒くて筋肉が硬くなる冬は、うつなどの症状が出やすくなると考えられます。
冬に覚醒度が下がりぼんやりするのは、冬季うつによる眠気のほかに筋緊張が影響している場合があります。後者の場合に関係しているのが首や肩の筋緊張です。これらの筋肉が硬くなると肋間筋がスムーズに動かず腹式呼吸ができなくなり、酸素不足になって覚醒度が低下します。そんなときは、鈴木先生が提案する以下の対策を実践してみましょう。
・お風呂でぬるめのお湯にゆったり浸かる。
・エクササイズや軽い運動をして覚醒度を上げる。
・着脱しやすい防寒具を活用する。
・エアコンの温度設定を調整し、体感する温度差を大きくしない。
身体と心の声をよく聞いて、まずは上記に挙げた冬季うつに効果的な生活習慣を実践してみましょう。そして冬季うつは季節性であり、冬が終われば症状が自然と改善されるので悲観しすぎないことも大切です。

〈プロフィール〉鈴木裕介先生
内科医・心療内科医・産業医・公認心理師。一般社団法人高知医療再生機構とハイズ株式会社を経て、2018年に「セーブポイント(安心の拠点)」をコンセプトとした秋葉原saveクリニックを開院、院長に就任。身体的な症状だけではなく、その背後にある種々の生きづらさ・トラウマを見据え、こころと身体をともに診る医療を心がけている。著書『心療内科医が教える本当の休み方』(アスコム)は現在、8万部を記録。YouTubeチャンネル「PIVOT」にて、本当の休み方について説明した動画の再生回数は累計200万回を超える。
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