一生続くものではないし、乗り越え方は人それぞれ。9人の体験談から考える「更年期」との向き合い方
発汗やめまい、気分の落ち込みなど、さまざまな不調が生じる更年期。現在、大変な思いをされている方も、漠然とした不安を感じている方もいらっしゃると思います。『私の生理のしまい方』(KADOKAWA)では、実際に更年期に不調を抱えた40~60代の9人の体験談が、やさしいタッチのマンガで描かれています。大変な症状があるものの、自分に合った対処方法を見つけたお話には励まされます。著者の原あいみさんも、更年期世代のお一人です。後編では、みなさんの体験談で印象に残っていることや、本作の制作を通じて更年期へのイメージが変わったことをお伺いしました。
更年期の不調は「一生続かないから大丈夫」
——本作では9人の体験談を描かれていますが、特に印象に残っているエピソードや、原さんご自身と重なる部分があった方などをお聞かせいただければと思います。
一人ひとりお話を伺って、みなさん忘れがたいのですが、今回ご紹介したい方は3人いらっしゃいます。1人目は、「密かな生前整理」のさおりさんのお話。寝込んでいたときに、身体には本当に寿命があるのだと感じて、「私もいつか死ぬんだ」と実感したというエピソードが出てきます。
私も45歳を過ぎたあたりから、「自分もいつかは死ぬ」と思うようになって。だからといって、深く落ち込むわけではないのですが、更年期世代に入って、「死」への実感が出てきたんです。それは自分の親も年老いて、介護が必要になるといったこともあるのかもしれませんが、お話を伺っていて、すごく共感しました。
さおりさんは、人生の後半戦に向けて、「やらないこと」を決めていこうと、身の回りの整理をしていったお話もしてくださいました。私も人生の後半戦で幸せに生きたいと思って、やれること・できないこと、やりたいこと・やりたくないことについて考えるようになりました。
2人目は「大丈夫。きっと上を向ける」のはるみさんのお話。閉塞感から奈落の底に突き落とされるような感覚に悩まれた方なのですが、大変だった時期はもう抜けられていて、過ぎたこととしてお話してくださいました。当時の落ちていた自分に声をかけるとしたら?という質問に「一生は続かないから大丈夫よ」って言ってあげたいとおっしゃっていて。
私自身は今のところ大きな不調もないですし、監修の関口由紀先生の話を伺っていて、急激に落ちないよう、今からできることをして備えていこうと思うのですが、突然ガタンと不調がやってくることもないとは言えません。そのときにこの言葉を思い出したいですし、本書を手に取ってくださった方にも届けたいです。
3人目の「夫婦で更年期!?」のゆうこさんの話は、うちの夫婦と重なるところがあります。最近、男性にも更年期症状があることが知られてきていますよね。私も夫が4つ年上で、最近元気がなくて「更年期かもね」と話しています。お互いに年齢的に無理ができないことを共有したり、病院へ行けば「こんな結果だったよ」と話せるようになって、やる気がないときや、どうしても眠いときなど、お互いに優しくなれるようになりました。
このエピソードでは「男女でできることを決めつけない」というお話が印象的です。私自身も、家電の不具合の調整や、車の運転などをなんとなく夫に任せ、料理などの家事は私がやることが多かったと反省しました。「男らしく・女らしく」と育てられてきた世代でもあるので、無意識のうちに性別役割分業の考えに沿って分担していたのですが、男だから・女だからは関係なくて、できることをカバーし合う方がいいですよね。
どれかは手放す必要も
——原さん自身は、やめることと、これからやりたいことの整理はどのようにされたのですか?
この本をつくる前の話ではあるのですが、23年間勤めていたデザイン会社を退職しました。ずっとイラストレーターとアートディレクターの二足の草鞋でやっていて、私は絵の仕事を増やしていきたかったのですが、ディレクターの仕事が途切れなくて、減らそうと思ってもなかなか難しかったんです。人生の後半、どう時間を使うか考えてとても悩んだのですが、これは決断しないと!と思って、45歳でフリーランスになり、ディレクター業は閉店しました。
ディレクター業では、企業の広報誌や、商品広告や販促物などをつくることに会社として携わっていて、チームで仕事をしていく中でのリーダーポジションでした。色々な経験ができたり、チームで関わっていくことのおもしろさも感じていたのですが、ディレクター業を続けるとどうしても時間が足りなくて。それでやめる決心をしたんです。
今後の絵のお仕事は、クライアントワーク(お客様から依頼を受けて絵を描く)ばかりでなく、個展や作品展などで、自分が描きたいものを描いて発表していくことも増やしていきたいです。今フリーランス2年目ですが、1年目は会社員の頃と同じくらいの収入で、かつ仕事量は減らしたいと思っていたのですが、結果的には、収入が減るのが不安で仕事を詰め込んでいました。
でも今年は少しセーブしてもいいかなと思っています。というのも、今、娘が小学4年生で、少しずつ親離れしてきているのを感じていて、たとえば、最近自分の部屋を作って、一人で寝るようになりました。まだ「ママ大好き」な感じでいますが、突然そういうモードじゃなくなるかもしれない。残された娘と共有できる時間を大切にしていきたいですね。
30代のワーママさんから「全部自分で完璧にやらないと」と悩んでいる話を伺うこともあるのですが、全部を丁寧にこなすのは無理。色々やりたいことがある中で、どれかは手放さないと倒れちゃうと思うんです。私は、家の中を完璧にすることは、とうの昔に諦めていて、自分が苦手なことは無理しないよう心がけています。もっと子どもが小さい頃から、実家が遠い我が家は親にちょっと手伝ってもらうこともなかったので、常にミールキットを使ったり、シルバー人材センターの方にお掃除を依頼したり。今後も取捨選択して、うまくやっていこうと思っています。
更年期を乗り越えたらハッピーな30年が待っている
——更年期に対して元々持っていたイメージは、制作を通じてどのように変わっていきましたか?
若い頃は、更年期に入ると不調になるのは知っていたものの、詳しくはわからなくて、「おばちゃんがなるもの」というイメージがどこかにありました。自分も更年期になる年代が近づいてきて、色々調べたり、取材でお話を伺っていくと、すごく大変であることもわかって、最初は本作を描いていて、不安に飲み込まれそうにもなったこともあったんです。でもみなさんが自分に合った乗り越え方を見つけられていて、明るくお話ししてくださったので「なんとかなるっしょ!」と思えるようになりました。
今回、関口先生にお話を伺って、更年期について色々とわかったことで、人生の後半戦に向けて整える「絶好のチャンス」という感覚に変わってきてもいます。関口先生は「この10年を乗り越えたら、ホルモンに振りまわされることなく、自由でハッピーな30年が待っているのよ」とおっしゃっていたんです。更年期の10年という期間は、決して短くはないですが、「自分をていねいに扱って大事にしてあげる時期」という感覚に変わりました。
※更年期と閉経について
更年期とは閉経の前後5年の計10年間のことを指し、閉経の平均年齢は50歳と言われています。閉経は最後の生理から1年以上生理がこないときに初めて「閉経した」と判断できるものです。
【プロフィール】
原あいみ(はら・あいみ)
イラストレーター。難しいことをわかりやすくマンガで伝えることが得意で、体験取材なども自ら行う。立体制作、撮影ディレクションも行い、企業や商品のイメージキャラクターも数多く手がける。
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