5人に1人が経験…恋人間で起こる暴力に気づくための「デートDVチェッカー」どんな行為が該当?

 5人に1人が経験…恋人間で起こる暴力に気づくための「デートDVチェッカー」どんな行為が該当?
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株式会社TENGAヘルスケアが展開する性教育サポート事業「セイシル」。「10代の性のモヤモヤに答える」Webサイトには、2019年12月のローンチ以降、1万3500件の悩みが届いています。80名以上の専門家が協力しており、一つの「モヤモヤ」に対して複数の回答があり、子どもたちは自分が一番納得する答えを見つけられます。ポップなイラストで、性への抵抗感も減らしているのも特徴です。2023年には「デートDVチェッカー」を制作し、配布を始めました。現在、より多くの子どもに届けるため、クラウドファンディングを行っています。同社教育事業部の福田眞央さんに、詳しく話を聞きました。

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マスターベーションに関する悩みが一番多い

——セイシルにはどのような悩みが届くのでしょうか?

2022年4月から2023年3月までに中高生から寄せられた1834件の悩みを分析したところ、最も多いのは「マスターベーションに関すること」でした。次に多いのが恋愛・セックスに関する悩みで、マスターベーションと合わせると半数を超えます。

マスターベーションに関する悩みは、意外に思われるのですが、女の子からの方が多いです。それは「女性はマスターベーションをしない」というイメージが依然として強く、女子同士だと、話自体がしにくかったり、調べても情報が少ないからかと。教科書でマスターベーションの話が出てくると、男子の体の話に書かれていることもあって、女子は「自分だけなのかな」と罪悪感も覚えやすく、悩みにつながりやすいのではと分析しています。

恋愛・セックスに関しては、「何歳からしていい?」「怖いからしたくない」など、したい・したくないどちらの悩みも届いています。ほか「パートナー、もしくはSNS上で知り合った人に下着の写真を送ってしまった」「パートナーからセックスを強要される」など、性暴力やデートDVに関する悩みも少なくはありません。

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5人に1人がデートDVを経験しているけれども……。

——2023年に「デートDVチェッカー」を制作しています。経緯について、お話しいただけますか?

2020年に文部科学省から「生命(いのち)の安全教育」という指導方針が示され、その目的が「子どもたちが性暴力の加害者・被害者・傍観者にならないこと」となっています。多くの学校で取り組み始める中(2023年に本格始動)、先生たち自身が指導の経験がなく、授業をしたことがないので、対応に苦慮していると伺っていました。

そこで、何か手助けになる教材を作れないかと考えていたところ、フランス・パリ市が開発した「暴力チェックメーター」の存在を知りました。フランスでは、暴力チェックメーターを定規として中高生に無料配布していたり、パンやの袋に印刷されていたり、暴力チェックメーターのデザインの階段があったりと、どこでも中高生の目に入る環境になっています。

パリ市の公認を受け、暴力チェックメーターを日本語訳し、「デートDVチェッカー」を制作しました。制作にあたって、認定NPO法人「エンパワメントかながわ」理事長の阿部真紀さんに監修に入っていただいています。

2023年から性教育従事者向けプラットフォーム「withセイシル」にて注文を受け付け、配布を開始し、今までに全国の教員や助産師など性教育従事者を通じて、5万枚を配布しました。

——デートDVチェッカーはどのように使うのでしょうか?

目盛りに照らし合わせ、自分や友人にデートDVが起きているかをチェックします。カードですと、なくしたり捨てられてしまうので、長さを測ったり、線を引いたり、しおりとしても使えるような“一石四鳥”なアイテムにしました。

学校では、デートDVチェッカーを使って対話をしたり、拡大印刷して掲示物にしているところもあります。自治体では、11月の「女性に対する暴力をなくす運動」期間に掲示をしたり、12月のエイズの啓発の際に、「パートナーとの関係性も見直す」というメッセージを込め、デートDVチェッカーを配布してくださった市もありました。

——デートDVに関して、どのような課題意識を持っていましたか?

令和5年の内閣府の「男女間における暴力に関する調査」では、おおよそ5人に1人が交際相手から暴力被害を受けたと回答しています。デートDVの数が多いものの、学校現場では教えられていない点を課題に感じていました。

セイシルを運営する中でも、子どもたち自身がデートDVとは認識していなくても、「スマホをチェック」するなど、独占欲や束縛に分類されるような、デートDVに関する悩みを寄せられることは多いです。

個人的に思っているのは、ジェンダーの問題の影響が大きいということ。子どもたちの悩みを見ていると、「男は強引な方がいい/弱音を吐いてはいけない」「素直に従った方が女の子らしい」などの先入観や思い込みによって、デートDVが生まれていることが多いようです。

デートDVは、男性が被害を受けることも少なくないことは、セイシルへの相談からもわかっていることです。デートDVの根本的な問題として、男女が平等であることや、相手の人権を尊重するといった価値観を子どもたちに伝える必要があると考えています。

デートDVチェッカーの画像
デートDVチェッカー(株式会社TENGAヘルスケアよりご提供)

——デートDVチェッカーを使う中で、子どもから「これはデートDVだと思っていなかった」という反応があったものはありましたか?

黄色の範囲は、人によって意見が分かれる傾向が大きいです。グループワークでも「これはたまにやっちゃっていた」と話してくれる子もいて、そこから対話が生まれています。

「あなたのことを何でもコントロールしようとする」「あなたの行動を束縛する」あたりは、「愛情表現」だと勘違いをしている子もいますし、中には「束縛されたい」と言っている子も。「束縛されたいのではなくて、大事にされたいだけじゃない?」と投げかけて、束縛と愛情表現の違いを説明することもあります。

友達からデートDVの相談をされたとき、相談を受ける側も、束縛=愛情ではないと知らないと、気づかずに「それって愛されている証拠じゃない?」と言ってしまう。なので、自分自身のためだけでなく「友達の相談に乗るためにも知っておこうね」と伝えています。

——対話をすることで一人ひとりの違いを知って、「気づき」が生まれるのですね。

そうですね。他にも、黄色と赤の中間のオレンジの辺りに「裸や下着の写真を送るよう求める」という項目があるのですが、これは複数人から「もっと赤の方だよね」という意見がありました。

そもそもの順番がフランスの文化に基づいていますし、一人ひとりの価値観が違いますので、デートDVチェッカーの順番が絶対ではないことや、「黄色に分類されていることが、自分にとって赤だと思うことはおかしなことじゃないよ」という話もしています。

緑の部分は「良好な関係」を示しているのですが、逆に「これが守られていないってことは……?」という見方もできます。「あなたの友達や家族も大切にする」という項目を見て、「元パートナーは私の家族を大切にしてくれなかった」と振り返る子もいました。

子どもだけでなく大人も「気づき」のきっかけに

——デートDVチェッカーに対して、どのような反響がありましたか?

高校2年生からは、「『恋は盲目』という言葉があるように、パートナーだからと耐えてしまって、『これが当たり前』と思ってしまうこともあると思うのですが、そんなときに良い判断材料になると思いました」「自分の被害だけでなく、加害にも気づくことができた」という感想をいただきました。

現在、デートDVチェッカーをもっと広げていくためのクラウドファンディングを行っているのですが、保護者から応援メッセージをいただきました。お子さん自身が応援している方が、クラファンの情報をSNSで拡散していて、それを見てお父さんに協力をお願いされたとのことです。これを機に、初めて恋愛や性の話をしたということも書いてくださいました。デートDVチェッカーを話のきっかけとして使っていただけるのは、私たちとしても嬉しいことです。

また、デートDVチェッカーの内容は恋愛に限らず、友達関係や親子関係にも活用できるものです。「性教育」としてだけでなく、人との距離感を学ぶためにも使えるので、性教育を教えている先生方からも、「性教育だと少し難しく感じている方も、人権教育やいじめ防止という入口から、コミュニケーションの勉強だと始めやすく、管理職にも受け入れてもらいやすいです」という感想をいただきました。

セイシルで出前授業を行っているのですが、コンドームを教材として使うと色々な制限がかかることがあります。その点、デートDVチェッカーの方が配布のハードルが低いそうです。ただ、デートDVチェッカーにも一番下に「セックスを強要する」という項目があり、「セックス」という単語からNGが出ることも、まだ珍しくありません。「性行為」と書く選択もあったのですが、実際の会話の中で使う言葉を子どもたちに知ってほしいですし、濁して書くことで、逆にタブー視を強めてしまう恐れもあるので、「セックス」という言葉を使いました。

——デートDVについて、中高生の保護者世代に知ってほしいことをお話しいただけますか?

内閣府の調査結果からも、デートDVは一部の特別な人だけが経験するものではなく、誰が経験してもおかしくないことを、まずは知ってほしいです。

子どもにとっては、一番身近な性別役割規範を学ぶ場所が家庭。ゆえに、両親の関係が対等でなければ、そこから子どもが不平等な関係性を学んでしまう可能性もあります。子どもたちが加害者にも被害者にも傍観者にもならないようにするために、ジェンダーに関して“敏感”になって考えていく必要性があると思います。

デートDVチェッカーについて、保護者の方から、「自分自身も気づきになった」という意見もいただきました。夫婦間を始めとして、大人同士の関係性の見直しにも使えるものです。今回のクラウドファンディングのリターンの中に、デートDVチェッカーが入っているセットもありますので、冷蔵庫に貼るなどして、家族みんなで活用いただけたら嬉しいです。

※4月30日までクラウドファンディング実施中!
現在、より多くの子どもに「デートDVチェッカー」を届けるため、クラウドファンディングを実施中です。詳しくはこちらをご覧ください。

https://for-good.net/project/1000567


【プロフィール】

福田眞央(ふくだ・まお)

保健体育教師・思春期保健相談士。
大阪の高校で保健体育教師として働いた後、もっと性教育を極めたいという想いから大阪大学大学院に入学。
ジェンダー学と教育学を学び、性教育に関する研究に勤しむ中で、株式会社TENGAヘルスケアと出会う。
現在は性教育WEBサイト「セイシル」の運営を担い、生徒・学生向けに出前授業や教員研修に取り組んでいる。

■セイシル
https://seicil.com/

■withセイシル
学校で使える性教育に関する教材を販売・提供(購入にはアカウント登録・運営側の承認が必須)/性教育に活用できるコラムを発信 
https://with.seicil.com/
 

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AUTHOR

雪代すみれ

雪代すみれ

フリーライター。企画・取材・執筆をしています。関心のあるジャンルは、ジェンダー/フェミニズム/女性のキャリアなど。趣味はヘルシオホットクックでの自炊。



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