【よく聞く話】「興奮した時、鼻血が出る」本当か?医師の見解は
興奮したときに鼻血が出るというのはよくマンガなどでみられる表現ですが、実際にそのような経験がある人はいるでしょうか?実際にそのような事は起こるのか、医学的に検討してみましょう。
鼻血が出る理由
まずは鼻血が出る理由についてまとめておきましょう。
多くの鼻血は、鼻の先のほう、鼻中隔にあるキーゼルバッハ部位という場所からの出血でおこります。この場所は粘膜が薄くなっていて、その下を走行している血管が浅い場所に存在するため、ちょっとした刺激で血管が損傷し、出血が起こりやすい場所になっています。
もともと人の鼻がこのような構造をしているのは、呼吸するときに外から入ってくる空気を暖めるためです。冷たい空気が鼻から体の奥まで入ってしまうと体温が急激に下がってしまうため、鼻の部分で加温してから空気を吸い込む必要があります。そのため、血管が浅いところに存在し、空気を血管内にある血液の温度で暖めてから吸入するようにすることで体温の低下を防いでいるのです。
鼻出血のうち90%以上はこのキーゼルバッハ部位からの出血です。また、残りの10%は、ほとんどの場合は外傷によるものです。ですので、外傷が関係しているとは思えない興奮したときの鼻出血はキーゼルバッハ部位からの出血がほぼ全例であると考えるのが自然でしょう。
興奮すると鼻血はでるのか
結論から言うと、興奮しただけで鼻血が出ることはないと考えます。いくら表面に近い部分を血管が走行しているからと言って、興奮しただけで血管が破綻するとすれば、全身いたる場所で血管が破綻してしまうと言う事になります。そうなれば、人体は出血だらけでとてもではないですが生存できないでしょう。
しかし、一度鼻出血を起こした後であれば話は違います。
何らかの原因でキーゼルバッハ部位の血管が損傷し、一度止血したとしましょう。このとき、血管壁はまだ治っていません。血管壁の損傷した部位に、血小板などからなる血塊が詰まっていることで出血が止められた状態です。様は弱いかさぶたができている状態と考えるとわかりやすいでしょうか。 このまま何も出血なく経過すると、この血塊がだんだんと線維化し、修復され血管壁としての構造を取り戻していきます。しかし、何らかの原因でこの血の塊が取れてしまうと、また血管壁に穴が空いてしまい、出血してしまいます。また最初からやり直しです。
さて、この血塊が取れる条件としては、鼻粘膜をこすることで取れるという事もあります。しかし、他の条件としては、血圧が上昇するというのもきっかけになり得ます。人が興奮すると、脈が速くなり、血圧が上昇します。ある程度上昇すると、それがきっかけでこの血の塊が取れてしまうことがあるのではないかと推察されます。
また、興奮すると鼻息が荒くなるというのも関係しているのかもしれません。鼻息が荒くなると流速の早い風が血塊の表面を行き来します。これによって、血の塊が脱落してしまい、再度出血してしまうと言う事があるかもしれません。
ということで、特に鼻出血をそれまでにしていないのであれば興奮するだけで鼻出血することはまずないと考えられますが、鼻出血をした直後であれば、興奮によって再度鼻出血する可能性はあるといえるでしょう。
AUTHOR
郷正憲
香川大学医学部医学科卒業後、徳島赤十字病院で臨床研修、その後麻酔科医として勤務。麻酔の中でも特に術後鎮痛を専門とし臨床研究を行う。医学教育に取り組み、一環として心肺蘇生の講習会のインストラクターからディレクターまで経験を積む。 麻酔科標榜医、日本麻酔科学会麻酔科専門医、日本周術期経食道心エコー認定委員会認定試験合格、日本救急医学会ICLSコースディレクター。 本名および「あねふろ」の名前でAmazon Kindleにて電子書籍を出版。その他多数の医療コラムを執筆。
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