閉経後に血管老化が進む理由とは?内科医が教える、血管老化を予防する生活習慣と食事のコツ
エストロゲン減少で急速に血管の老化が進行する?内科医が、そのメカニズムと予防策について解説します。
更年期に血管老化が起きるワケ
女性ホルモン“エストロゲン”の役割
女性の体内で作られる“エストロゲン”というホルモンは、子宮にはたらいて妊娠への準備をしたり、乳房の発達や女性らしいからだをつくるはたらきがある一方で、肝臓、皮膚、腎臓、血管など様々な臓器に関係しています。その中でも血管老化を抑制する作用があり、心臓と血管を守る重要な役割を担っています。
エストロゲン減少が血管に及ぼす影響
ここからはエストロゲンの役割や更年期を迎え減少することで及ぶ様々な影響について紹介して行きます。
エストロゲンと脂質代謝の関係
エストロゲンは、脂質(脂肪)のバランスを保つのにとても重要なはたらきをしています。
エストロゲンの濃度が高いと、いわゆる「悪玉コレステロール(LDLコレステロール)」を減らし、「善玉コレステロール(HDLコレステロール)」を増やすはたらきが強まります。
理由としては、エストロゲンが減少すると、肝臓が作るLDL受容体の数が減って肝臓にLDLコレステロールを取り込みにくくなるからです。LDL受容体とは、血液中を流れているLDLコレステロールをキャッチして、肝臓の中に取り込むための「入り口」のようなものです。これにより、血液中のLDLコレステロールが十分に回収されず、結果として血中のLDLコレステロールの濃度が上がってしまいます。
また、エストロゲンは肝臓でコレステロールを「胆汁酸」に変換するのを助けます。エストロゲンが減少すると、コレステロールの胆汁酸への変換や排出が減少するため、余分なコレステロールが血管にたまりやすくなります。したがって、バランスが取れていると、血管の中がきれいに保たれ、血液がスムーズに流れやすくなるのです。
酸化ストレスを減少させる抗酸化物質としてのエストロゲン
エストロゲンには抗酸化物質としてのはたらきもあります。エストロゲンは、フリーラジカルといわれる毒性の強い活性酸素を中和し、水と酸素に分解する「スーパーオキシドジスムターゼ(SOD)」や「グルタチオンペルオキシダーゼ」といった抗酸化酵素の活動を促進し、酸化ストレスを減少させる能力を持っています。このため、悪玉コレステロール(LDLコレステロール)が酸化されるのを防ぎ、酸化LDLの生成を抑制します。
血管の保護効果
エストロゲンは血管の内皮細胞に直接働きかけ、血管をリラックスさせて血流を良くする役割も果たします。その結果、血管の健康が保たれ、動脈硬化の進行を防ぎやすくなります。
動脈硬化とは
酸化ストレスと動脈硬化のメカニズム
エストロゲンが減ることで、血液中の悪玉コレステロール(LDLコレステロール)が酸化されやすくなり、酸化LDLが増加、これが血管に炎症を引き起こし、動脈硬化のリスクを高めます。
動脈硬化は、血管の内壁に「プラーク」と呼ばれる脂肪の塊が蓄積することで、血管が硬くなったり狭くなったりする状態です。このプラーク形成の主な原因の一つが「酸化ストレス」です。体内で発生する活性酸素(フリーラジカル)が細胞や分子を酸化して傷つけるため、細胞や血管にダメージを与えます。そして、血液中のLDLコレステロール(悪玉コレステロール)が酸化されると、「酸化LDL」となり、血管の内壁に付着しやすくなります。酸化LDLは血管の内壁に炎症を引き起こし、プラークの形成を促進します。この一連の過程が動脈硬化の始まりです。
血管が硬くなり血管老化が進行するとどうなる!?
血管老化が招く病気
エストロゲンが減少し血管老化が進むと動脈硬化を引き起こします。さらに、動脈硬化が進行すると、様々な病気を引き起こす原因となります。では、どんな病気があるのか見ていきましょう。
◾️冠動脈疾患(狭心症・心筋梗塞)
更年期から閉経後の女性では、エストロゲンの減少によって、悪玉コレステロール( LDLコレステロール)の増加と善玉コレステロール( HDLコレステロール)の減少が見られます。これが動脈硬化を促進し、冠動脈疾患のリスクを高めます。Framingham Heart Studyなどの長期的な疫学調査でも、閉経後の女性の心血管疾患リスクが高いことが示されてあり、閉経後の女性は、閉経前と比較して心血管疾患リスクが2倍になると報告されています。
◾️脳卒中(特に脳梗塞)
閉経によるエストロゲン減少は、血管内皮機能の低下を引き起こし、血圧の上昇や動脈硬化を促進します。また、血栓形成のリスクが増加するため、脳梗塞など虚血性脳卒中のリスクが高くなります。疫学的研究によると、閉経後10年間で脳卒中リスクが25%増加することが報告されています。
◾️認知症
エストロゲンは、単に女性ホルモンとしての役割を超えて、脳の健康に重要な影響を与えることが知られています。特に、以下のような理由で、エストロゲンは認知機能に関与しています。
1.神経保護作用
エストロゲンは神経細胞を保護し、脳内の損傷や炎症を抑える効果があります。また、エストロゲンは神経細胞の修復や新生を助け、神経伝達物質のバランスを保つ役割も果たしています。エストロゲンが低下すると、アルツハイマー病のような神経変性疾患が進行しやすくなります。
2.シナプス(神経細胞の接続)形成の促進
エストロゲンは脳内でのシナプス(神経細胞同士の接続)の形成を促進し、シナプスの密度を高めることで、記憶や学習能力の維持に寄与しています。
3.血流の改善
エストロゲンは脳の血流を増加させ、脳への酸素や栄養の供給を促進します。これにより、脳の細胞が十分に機能しやすくなります。
4.アミロイドβの蓄積
アルツハイマー病の特徴の一つである「アミロイドβ」という異常タンパク質が脳内に蓄積することも、エストロゲン低下によって増加する可能性が示唆されています。エストロゲンは通常、アミロイドβの除去を促進する作用がありますが、その効果が弱まることで蓄積が進行します。
5.抗酸化作用の喪失
エストロゲンの低下により、脳内の酸化ストレスが増加し、神経細胞がダメージを受けやすくなります。これも認知症リスクを高める要因となります。
しなやかな柔らかい血管を保つため摂取すべき栄養と生活習慣
更年期から閉経後の女性が動脈硬化を防ぐためには、酸化ストレスの管理が重要です。
そのためには、日常的に取り入れやすい予防習慣が必要です。そこで、普段、クリニックでお伝えしている生活習慣と、効果的な栄養摂取の5つポイントをリストアップしてご紹介します。
1. バランスの良い食事を心がける
血管の健康を保つためには、抗酸化作用を持つ栄養素や、コレステロールや血糖値のバランスを整える食品が重要です。
[具体的な取り組み]
ほうれん草、ブロッコリー、トマトなどは、抗酸化作用のあるビタミンC、ビタミンE、ポリフェノールなどが豊富に含まれており、血管の酸化ストレスを減少させます。
青魚(サバ、イワシ、サケなど)は、オメガ3脂肪酸が豊富で、血管の炎症を抑え、動脈硬化を予防しますので、週に2回以上は食べるように心がけます。
2. 適度な運動を習慣にする
運動は血流を良くし、血管の弾力性を保つ効果があります。また、血圧やコレステロールの管理にも役立ちます。
[具体的な取り組み]
通勤や買い物の際に少し歩く距離を増やす、昼休憩の時間に会社や家の周りを散歩するなど、日常生活の中で取り入れやすい方法で行うと続けやすいです。
また、自宅でできるストレッチや筋トレ(スクワット、腕立て伏せなど)を加えると、全身の血流改善につながり、筋力維持にも効果的です。
3. 禁煙とアルコールの適量摂取
喫煙は酸化ストレスの原因となり、血管を傷つけ、動脈硬化のリスクを高めます。また、過度の飲酒も血圧の上昇や肝機能の悪化につながります。
[具体的な取り組み]
自力で禁煙が難しい場合は、禁煙外来や仲間で一緒に禁煙を取り組むなどのコミュニティを利用するのも効果的です。飲酒は適量に抑えて、例えばワイン1杯やビール1缶程度にとどめると、リスクを抑えつつ楽しめます。
4. ストレス管理と質の良い睡眠
ストレスや睡眠不足は血圧を上昇させ、血管の老化を加速させる要因となります。リラックスできる時間を作り、良質な睡眠を確保することが重要です。
[具体的な取り組み]
寝る前にお風呂にゆっくり浸かる、アロマを楽しむ、好きな音楽を聴くなど、就寝前に心を落ち着ける時間を設けると、睡眠の質が向上します。
呼吸法や簡単なヨガのポーズを取り入れることでも、ストレスを軽減し、血管の健康を守ることができます。
5. 適切なサプリメントの活用
食事だけで補いきれない栄養素は、サプリメントを活用して補充することも一つの手です。特に、更年期には不足しがちな栄養素があるので、計画的に取り入れましょう。
[具体的な取り組み]
ビタミンDは、メンタルの力をサポートするだけでなく、血管の弾力性を保ち、骨の健康もサポートします。現代では、オゾン層の破壊で浴びる機会が増えた紫外線対策から日光に当たる時間が少なくなっており体内でビタミンDの生成が難しくなっています。よって、天然由来型のビタミンD3をサプリメントで補うことを検討しましょう。
オメガ3脂肪酸・ビタミンCは、強力な抗酸化サプリメントです。手軽に取り入れることで、血管の酸化ストレスを減少させ、心血管系の健康維持に役立ちます。
まとめ
エストロゲン(女性ホルモン)が減少すると肌や髪といった見た目の老化はもちろんですが、体にとって重要な血管の老化が進みやすくなります。
血管の老化が進むと、心血管系をはじめとする様々な病気を引き起こす要因となるのです。ですから、更年期以降は、特に"血管の老化を予防する生活習慣"を心がけることを心がけてください。
AUTHOR
梶 尚志
梶の木内科医院 院長。総合内科専門医、腎臓専門医、家庭医として患者を診察する中で、通常の診察では解決できない「体の不調」に栄養学的なアプローチから治療と生活指導を行う。著書に『「え、私って栄養失調だったの?」その不調は病気ではなく状態です!』、『「えっ、うちの子って、栄養失調だったの?」その不調は食事で改善します!』(共に、みらいパブリッシング)がある。
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