山に登ると鼻血が出る…なぜ?考えられる3つの理由とは|医師が解説
登山をすると鼻血が出るということを聞いたことはありませんか?実際に登山すると鼻血が出やすいというデータはありませんが、実際にそのように感じる人は多いようです。では、どのような機序で鼻血が出るのでしょうか。
鼻血の出る理由
まずは鼻血が出る理由についてまとめておきましょう。
多くの鼻血は、鼻の先のほう、鼻中隔にあるキーゼルバッハ部位という場所からの出血でおこります。この場所は粘膜が薄く、その下にある血管が浅い場所に存在するため、ちょっとした刺激で血管が損傷し、出血が起こります。
もともとこのような構造をしているのは、呼吸によって入ってくる空気を暖めるためです。冷たい空気が鼻から体の奥まで入ってしまうと体温が急激に下がってしまうため、鼻の部分で加温してから空気を吸い込む必要があります。そのため、血管が浅いところに存在し、空気を血管内にある血液の温度で暖めてから吸入するようにすることで体温の低下を防いでいるのです。
鼻出血のうち90%以上はこのキーゼルバッハ部位からの出血です。また、残りの10%は、ほとんどの場合は外傷によるものです。ですので、登山をして鼻を打ったわけでもなく出血したとすれば、ほぼ全てがこのキーゼルバッハ部位からの出血と言えるでしょう。
なぜ登山で鼻出血するのか
では、どうして登山をすると鼻出血するのでしょうか。
原因として考えられるのは3つです。
まず1つ目は、吸入する空気が冷たく乾燥した空気だからです。このような空気が鼻に入ってくると、鼻粘膜は乾燥します。乾燥した粘膜はちょっとの刺激で断裂しやすくなります。前述の通り、鼻のキーゼルバッハ部位の粘膜はすぐ直下に血管がありますから、粘膜の断裂に伴って損傷してしまい、鼻出血を来してしまうのです。
2つ目の理由として考えられるのは、登山によって運動をすることで、全身様々な場所で血流が良くなることです。キーゼルバッハ部位も例外ではなく、血管を通る血液の量が増加します。すると、血管を内側から押し広げる力が強くかかり、血管の破綻を来しやすくなると考えられます。
3つ目の理由として考えられるのは、気圧です。登山をすると標高が高くなるにつれ、気圧が低下してきます。一方で、体の中の血圧はさほど変化がありません。すると、血管を外から押している気圧と血管を内側から押し広げる血圧の差が大きくなってしまいます。外から押す気圧が低下しますから、血圧の方が相対的に強くなり、内側から外側へと押し広げようとする力が強くなってしまう結果、血管に内側からの圧がかかり、破れやすくなってしまうのです。
このような条件が重なったところで、何らかの理由で粘膜損傷が起こると、普段より出血がしやすい状況になっていると考えられます。
登山中の出血とは言っても対処法は普通の止血法と一緒です。安静にして血圧が上がらないように気をつけながら、鼻をしっかりと、5分以上抑えるようにしましょう。外傷によるものでなければそれでほとんどの場合は止血されます。
AUTHOR
郷正憲
香川大学医学部医学科卒業後、徳島赤十字病院で臨床研修、その後麻酔科医として勤務。麻酔の中でも特に術後鎮痛を専門とし臨床研究を行う。医学教育に取り組み、一環として心肺蘇生の講習会のインストラクターからディレクターまで経験を積む。 麻酔科標榜医、日本麻酔科学会麻酔科専門医、日本周術期経食道心エコー認定委員会認定試験合格、日本救急医学会ICLSコースディレクター。 本名および「あねふろ」の名前でAmazon Kindleにて電子書籍を出版。その他多数の医療コラムを執筆。
- SHARE:
- X(旧twitter)
- LINE
- noteで書く