『稼いだら幸せになれると思ってた』作者が語る、お金や婚活から考える【自分らしい幸せの見つけ方】

 『稼いだら幸せになれると思ってた』作者が語る、お金や婚活から考える【自分らしい幸せの見つけ方】
『稼いだら幸せになれると思ってた』(オーバーラップ)より

『稼いだら幸せになれると思ってた』(オーバーラップ)の作者・福々ちえさんに、作中で描かれているお金や婚活の考え方について詳しく伺いました。

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あなたにとって「幸せ」とは何ですか。結婚・経済力・趣味の充実・家族と過ごす時間……人それぞれ答えは違うでしょうし、簡単には結論の出ない問いですよね。

『稼いだら幸せになれると思ってた』(オーバーラップ)の作者・福々ちえさんは20~30代にかけて稼ぐことに必死で漠然とした不安を抱えていました。ところが、お金の勉強をしたり、畑を始めたりする中で「自分はどう生きたいか」に向き合ったところ不安は解消されていったとのことです。

「何が幸せか」「自分はどんな生活を送りたいのか」——本作はそんな問いに向き合うサポートをしてくれる作品です。福々さんに作品を描いた背景や、作中で描かれているお金や婚活の考え方について詳しく伺いました。

必要なお金は「生活サイズ」によって異なる

——「幸せとは」というテーマをコミックエッセイの題材に選ばれた理由をお伺いします。

私は元々イラストレーターとして活動をしていて、漫画をきちんと描いたことはありませんでした。そんななか、2020年9月に元KADOKAWAの敏腕編集者の松田紀子さんが開催する「コミックエッセイ描き方講座」に参加します。松田さんとテーマを決めるコーチングのなかで、人生で一番時間を使ったことが何か振り返ったとき、「自分にとっての幸せとは?」だったため、コミックエッセイのテーマにしました。

——作品の序盤では福々さんが漠然とした不安を抱えている様子が描かれています。当時はどのようなことを考えていたのでしょうか。

私は美大で絵を学び、卒業後は会社員でイラストレーターと営業の仕事を担当していました。3年ほど働いて「独立しても大丈夫」という実感を得られ、26歳でフリーランスになりました。フリーランスになってからもすぐに安定して仕事を受注できる「食べられる状態」になり、当時彼氏もいてこのまま人生は順風満帆だと思っていました。ところが、29歳で彼氏と別れてしまって……。イメージしていた人生からずれ始め、そこから「幸せとは」と考えるようになりました。

——最初はお金に関する不安も抱えていましたが、お金の勉強もされたのですよね。今でもお金の不安はありますか。

お金の勉強をしたことで漠然と「お金はたくさん必要」と思っていたところから、「自分の生活サイズさえ決まってしまえば無尽蔵に稼ぐ必要はない」と気づきました。実際に夫が半年ほど無職だった時期があるのですが、家計を見直して生活が苦しくなることはなく。「収入が減ったら家計を見直し、その範囲で楽しめればよい」と考えているので不安はないですね。

また、今は「会社員だから安心」という時代でもなくなってきています。作中でも描いているように、35歳で畑を始めたとき「人間の歴史の中ではこういったスタイルで生活してきた歴史が長いわけで、会社員として働くことの歴史の方が短い。ゆえに会社員でないから不安になるのはおかしなことでは」と頭に浮かびました。その後「自分一人で食べていけるスキルを持っていた方が強いだろう」と結論に至りました。

『稼いだら幸せになれると思ってた』
『稼いだら幸せになれると思ってた』(オーバーラップ)より
『稼いだら幸せになれると思ってた』(オーバーラップ)
『稼いだら幸せになれると思ってた』(オーバーラップ)より

大事なのは“モテ”よりベストパートナーと出会うこと

——その後、34歳で婚活を始めるのですよね。

実際にはそれまでも婚活サイトを利用したり、合コンに行ったりはしていたのですが、全然うまくいきませんでした。結婚相談所(お見合い)は最後の砦というイメージで。それでもうまくいかなかったので結婚を諦めていました。

その後、お金の勉強をしたり畑を始めたりして「自分がどう生きたいか?」の答えが見つかって。37歳で再度婚活サイトに登録しました。そこで「この人しかいない!」と感じたのが今の夫です。私が理想とする生活ができる相手だと思い「逃してはいけない!」と感じました。

結婚相談所を利用したときは、自分がどう生きたいかもわからなかったため、プロポーズされてもまったく決められなかったんです。一方、37歳のときの婚活は自分がどういう人生を送りたいかが明確になっていたので、今の夫を見つけたときもあまり迷いませんでした。

——34歳の結婚相談所のときは、別人格を形成するようなアドバイスをされていましたが、2回目の婚活ではどのようなことを意識されたのでしょうか。

結婚相談所で勧められた方法は“モテ”を意識した方法だったと思うんです。いわゆる「女性らしい」女性を演じ、多くの人から好かれようとする手法。ですが、婚活においては大勢にモテることではなく、ベストパートナーである一人を見つけることが大事だと考えています。

私が婚活する中では、20代女性とのマッチングを望む30~50代の男性は少なくありませんでしたが、「人生で頼りになるパートナーがほしい」「話し合いができるような人が良い」など、若さや外見以外を重視する人もいました。

そこで自分がマッチングしたい人に刺さるよう「自分がどんな人生を歩みたいか」や、自分の強みを正直にプロフィールに書きました。具体的には仕事をバリバリやっていることや、年収がそこそこ高いので、家事をきちんと分担できる人でないと嫌なことも書きました。最近では「家事は分担するもの」という価値観も広まっていますが、婚活においては好感度のために家事を分担したいことをはっきりと書く人は珍しいんですよね。

また、2回目の婚活では婚活アドバイザーの方からアドバイスを受けました。私は引っ越し好きで2年に1回は引っ越ししていたのですが、その話を婚活アドバイザーに話したところ「あなたの価値観がよくわかるエピソードだから書いたほうがいいよ」と言ってもらって。私は好奇心旺盛だけれども飽き性なところがあるので「真逆な人と生きていくとお互い補えてマッチする」と言われました。実際夫はコツコツタイプです。

——自分の求めている幸せ像が可視化されたされたうえでも、やはり結婚はしたかったのですか。

「一人は嫌だな」と思っていました。一緒にご飯を食べられる人が欲しかったです。でも両親の姿を見て、結婚にはネガティブイメージを抱いていました。

——どんなイメージだったのですか。

一言でいえば「楽しくなさそう」。女性は家事をしなくてはいけない、夫を立てないといけない……など辛くて我慢が必要なものというイメージでした。昔のお母さんはそういう方も多く、それに感謝してくれる夫だとやりがいもあるのかもしれませんが、うちの父親はそういうタイプではなかったので、母の姿を見て「何の修行なんだろう」と感じていました。

ところが徐々に周囲の友人が結婚し始めると、協力し合っていたり、それぞれやりたいことをしている人も多いことがわかり、徐々に呪縛が解けていった感覚はあります。また、婚活アドバイザーに「結婚はただ一緒に暮らす契約をしているだけで、そんなに深い意味はない」と言われ、捉え方が軽くなりました。

——「結婚は楽しくなさそう」と思っているなかで、ご自身の幸せ像が見える前から婚活していたように、ずっと結婚願望があったのはどういった感情からだったのですか。

「適齢期になったら結婚せねばならない」といった強迫観念のようなものでしょうか。また、私は子どもが欲しかったので、子どものいる生活をするために出産のタイムリミットも考え、深く考えず結婚に向かって走っていました。今振り返ると、結婚に向かって走りつつも内心「結婚は嫌。なぜ修行みたいなことをしなくてはいけないの?」と思っていたので上手くいかなかったんだろうなと思います。

——福々さんが求める“幸せ”の答えは、子どもの頃に願っていた「あたたかい時間がほしい」というものに戻りましたが、なぜ見失っていたのだと思いますか。

「子どもっぽい考えは大人になったら捨てなきゃいけない」という思い込みがありました。親に「家族で仲良くしたい」という考えを伝えると、鼻で笑われたり「現実そんなに甘くないよ」と言われたり、ずっと否定され続けてきて素直に刷り込みのように信じていました。

また子どもの頃、両親がお金に困りだした頃から急激に家族仲が悪くなったので、子どもだった私は「お金がないことが不仲の原因」だと思っていたんです。でも、今振り返るとお金があったときから両親が「話し合いをできない」という問題はあって、お金がなくなって問題が隠せなくなっただけなんだと思います。

『稼いだら幸せになれると思ってた』(オーバーラップ)
『稼いだら幸せになれると思ってた』(オーバーラップ)より
『稼いだら幸せになれると思ってた』(オーバーラップ)
『稼いだら幸せになれると思ってた』(オーバーラップ)より

「自分の幸せを見つける」=「自分をよく知ること」

——本作で注目して読んでほしいところはありますか。

巻末の自分の幸せを見つけるためのワークシートが好評です。私は自分にとって幸せな生き方を見つけるまでに時間がかかっているので、チャートシートのようにスムーズにYes/Noで決められませんでしたが、当時「これがわかっていたら楽になるのが大分早かっただろう」という項目を入れました。

本編では第3章のゆうこちゃんと会話するシーンと、第4章の自問自答するシーンは色々な人に共感して読んでいただけるのではないかと思います。

——最後に読者にメッセージをいただけますか。

私はこの本で「これが幸せ!」と描いたつもりはなく、自分の立場やコンディションによって幸せの受け取り方も変わっていくため、今でも「幸せは揺れ動くもの」と考えています。

「幸せになれる方法」を説いた本ではなく、揺れ幅を狭くするようなイメージで描きました。揺れ幅を狭くするためには自分をよく知ることが必要です。私は好き嫌いや自分の取説を理解したため、何か不安やストレスがあったときに対処できたり、幸せだと感じられる時間を増やしやすいというだけなのだと思います。「読んだから幸せになれる」というのではなく、自分の取説を少しずつ確認していくように読んでもらえたら嬉しいです。

『稼いだら幸せになれると思ってた』(オーバーラップ)
『稼いだら幸せになれると思ってた』(オーバーラップ)

【プロフィール】
福々ちえ(ふくふく・ちえ)
大阪府出身。イラストレーター。娘の出産をきっかけに漫画を描き始める。『稼いだら幸せになれると思ってた』が漫画家としてのデビュー作。「それはなぜ?」が口癖。気になるとモーレツに勉強するが、飽きるのも早い。
現在は恋愛漫画を描きたくてトキメキ勉強中。案の定名作恋愛漫画&ドラマ沼にハマり毎日どきどきして大変です。

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雪代すみれ

雪代すみれ

フリーライター。企画・取材・執筆をしています。関心のあるジャンルは、ジェンダー/フェミニズム/女性のキャリアなど。趣味はヘルシオホットクックでの自炊。



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