疲れやすい、階段で息切れする…スタミナ不足の現代人におすすめ|心肺機能を高める「呼吸改革」とは


では、ヘモグロビンはどうすれば増えるのでしょうか?その鍵を握るのが、エリスロポエチンです。エリスロポエチンとは、腎臓で産生されるサイトカイン(細胞間の相互作用に関与する生理活性物質)のひとつで、主に赤血球の産生を促進する役割があります。よくマラソン選手が高地トレーニングを行いますが、人間の体は標高の高い山など、低酸素の環境に置かれると、身体が酸素分圧の低下をキャッチし、腎臓でエリスロポエチンを産生します。エリスロポエチンは血液の工場である骨髄に働きかけて、赤血球を増やします。赤血球が増えれば、酸素の運び屋が増えるので、酸素を全身に行き渡らせるのが楽になります。その結果、心拍数もそれ以前より抑えられる、というわけですね。スポーツの世界でエリスロポエチン製剤の使用がドーピングとして禁止薬物に指定されているのも、エリスロポエチンの働きが赤血球を増やし、スタミナ面で競技力を向上させる効果がある逆説的証拠とも言えるでしょう。
もちろん普通の生活の中で、低酸素状態での高地トレーニングを行うのは難しいですから、これをライトに、マイルドに、やりやすいようにアレンジする方法があります。それは「息を長く吐きながら運動する」という方法です。
例えば、1階から4階まで階段を昇るとしましょう。その時、
A)息を吸って、はいてを頻繁に繰り返しながら階段を昇る
B)息を長く吐きながら息を吸う回数と時間を最小限にして昇る
の2つを比較すると、AよりもBの方が取り込める酸素の量は少なくなります。
次は腕立て伏せでも、スクワットでもいいので、やる回数を先に決めます。50回なら50回として、その50回を毎回毎回、息を吸ったり吐いたりするのではなく、なるべく息を吐く時間を長くして(つまり息を吸う回数を最小限にセーブして)酸素の取り込みを少なくした中で、目標となる運動回数にトライしてみましょう。
運動の量を「回数」や「継続時間」で数える、「計測する」というのは多くの方がやっている方法なのですが、そこに「呼吸回数」という要素を加えるのです。スクワット50回を50回呼吸して行うのと、わずか5回の呼吸で行うのは、実際にやってみればわかりますが、身体にかかる負荷も全然違います。後者の方がきつい分、スタミナも体力もつきますし、「普段、運動に合わせて自然に呼吸してる状態」がいかに楽で、効率的か、実感できると思います。このように呼吸回数を制限して運動を行うようにすると、少ない酸素でなんとか身体を動かそうとしますので、身体がそれに順応して、ヘモグロビンが少しだけ増えたり、ミトコンドリアが増える可能性があります。そのような身体の変化もさることながら、「わずか1回の呼吸でどれだけ動けるか?」という新しい評価基準ができますので、いままで何気なくやっていた運動でも、効果的なトレーニングに変わります。
ちなみに私が格闘技選手と行うスタミナトレーニングでは、「1回の呼吸でどのくらいの時間、運動を持続できるか?」を計測して行っています。例えばボクシングやキックボクシングのシャドートレーニングは、呼吸をフリーにしてOKならば、それなりの時間を継続することはさほど難しいことでは無いかも知れません。ですが、「息を吐きながら全力シャドーを行う、息を吐き切った時点でシャドー終了」というルールを設定して行うと、最初は15秒とか20秒しか継続できなかったキックボクサーが、数か月後に1分を超える、という事例を経験しています。実際はそんなことはやらないにしても、「1ラウンド3分を3回息を吸えば動ける」という数値化を伴った自信は、競技、競争には大きく影響するものです。
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