疲れやすい、階段で息切れする…スタミナ不足の現代人におすすめ|心肺機能を高める「呼吸改革」とは
呼吸に負荷をかける方法
簡単に呼吸に負荷をかけられ、効果が期待できるトレーニングがプールで行う「水中ウォーキング」です。空気に比べ、水は約830倍の密度があります。空気中では問題なく走れても、水中では同じ速度で走れないのも、物理的な負荷がかかっているからですね。ですから、水中では呼吸の度に、胸郭などの呼吸筋群に負荷をかけることができます。トップアスリートの中には、水中で投球動作やキック動作の練習をする選手もいて、これらすべてがフォームへの負荷のみならず、呼吸筋群への負荷となっています。水中での運動は喘息や呼吸器疾患のリハビリ的メニューとしてもよく奨励されています。
また、呼吸時の気道抵抗(空気の通りにくさ)を高めることで呼吸筋群の強化を図る「ストロー呼吸」も効果的です。ストローを口にくわえたまま息を吸ったり吐いたりを繰り返すだけで結構きついです。慣れてきたらストローをくわえた状態でウォーキングやジョギングを行う、競技者であればストローを加えてフォームやプレイを行ってみる…。たかが数センチのストローですが、呼吸筋群への負荷は抜群です。
生理とトレーニング
全身に酸素を送り届けるヘモグロビンを含む赤血球が増えると酸素が行きわたりやすくなることを説明しました。では、女性の生理中はどうでしょうか?健康な女性であれば20ml~140mlの出血がある生理期間中に、ハードな練習を行ってしまえば、血圧の上昇、出血量過多を引き起こすため、せっかくつくったスタミナが低下してしまう、というリスクがあるのです。以前のアスリート界では一部で「生理中はパフォーマンスが上がる」と信じられていました。その背景には、月経前症候群(PMS)と呼ばれる生理前に起こる不調のひとつであるイライラを「アグレッシブな精神状態」と捉え、その状態で競技に臨むと平常時以上のパフォーマンを発揮できると考えられたようです。しかしフィジカル面から見ると、生理期間中は出血によりヘモグロビン値が低下し、それに伴って持久力は下がりいわゆるスポーツ貧血を起こすこともあり、パフォーマンスはむしろ落ちる可能性があります。ハードなトレーニングは体のコンディションと十分に相談してから行うようにいたしましょう。
さて、今回は運動と呼吸について考察してみました。普段、ほとんど意識せずにやっている呼吸ですが、呼吸に制限をかけたり、適切な呼吸への抵抗をかけるだけで、いわゆる普通のトレーニングが、特別なものになりえるというわけです。長い通勤時間も、これやって意味あるの?と言いたくなるような会議中も、上司の説教の最中も、レジで順番を待っている間だって、呼吸に集中し、意識して呼吸を行えば、今よりも少し、でも確実に強くなれる。そんなきっかけになれば嬉しいです。
AUTHOR
二重作拓也
挌闘技ドクター/スポーツドクター リハビリテーション科医師 格闘技医学会代表 スポーツ安全指導推進機構代表 「ほぼ日の學校」講師。 1973年生まれ、福岡県北九州市出身。福岡県立東筑高校、高知医科大学医学部卒業。 8歳より空手を始め、高校で実戦空手養秀会2段位を取得、USAオープントーナメント高校生代表となる。研修医時代に極真空手城南支部大会優勝、県大会優勝、全日本ウェイト制大会出場。リングドクター、チームドクターの経験とスポーツ医学の臨床経験から「格闘技医学」を提唱。 専門誌『Fight&Life』では12年以上連載を継続、「強さの根拠」を共有する「ファイトロジーツアー」は世界各国で開催されている。 またスポーツの現場の安全性向上のため、ドクター、各医療従事者、弁護士、指導者、教育者らと連携し、スポーツ指導に必要な医学知識を発信。競技や職種のジャンルを超えた情報共有が進んでいる。『Dr.Fの挌闘技医学 第2版』『Words Of Prince Deluxe Edition(英語版)』など著作多数。
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