「話していないだけで身近にもいる」19歳で性暴力に遭った漫画家が語る、知られざる被害者の実像|経験談

『同意なんかしていない ―性被害者たちに何が起きたのか―』(文藝春秋)より
『同意なんかしていない ―性被害者たちに何が起きたのか―』(文藝春秋)より

性暴力の被害者と聞いて、どのような人を思い浮かべるでしょうか。『同意なんかしていない ―性被害者たちに何が起きたのか―』(文藝春秋)の作者・菊池真理子さんご自身も、実は性暴力の被害当事者。19歳のとき見知らぬ男3人組に連れ去られたことがあります。「自分の事件は表に出す意味がない」と長く考えてきたと話す菊池さんの考えが変わったきっかけとは。菊池さんが取材を重ねるなかで見えてきたのは、「元気そうに見える被害者」が決して少なくないということでした。世間が抱く被害者像と現実とのギャップについて、お話を伺いました。※本記事には性暴力に関する記述が含まれます。

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自分の被害は「表に出す意味がない」と思っていた

——内閣府の調査(※1)でも、性暴力被害は実は顔見知りからが多いことが示され、その認識は少しずつ広がってきていると思います。ただ以前は、見知らぬ人による被害のほうが、性暴力のイメージとしては強かったと思います。そうしたなかで、菊池さんはご自身の被害について、どのように捉えていらしたのでしょうか。

「事件としてカウントされるんだろう」という思いは、もちろんありました。ただ加害者が有名人だとか、組織の構造的な問題の中で起きたとかなら、表に出す意味があるけれど、自分の事件は複雑な背景があるわけじゃないから、警察はカウントするかもしれないけれども、社会的には何の意味もないと思っていました。

もちろん、性暴力について声を上げている方々を応援する気持ちも、連帯する気持ちもありました。ただ、自分の事件を公にする意味とは?と考えると、そういうものではないな、という感覚だったんです。

——その感覚はどう変化していったのでしょうか。

ジェンダーのことを学んでいって、自分の事件はただの通り魔だと思っていたけれど、男性が権力を持つことが多い社会の中で起こったもので、ジェンダーの問題という点では共通していることなんだ、となんとなくわかってきたんです。それで描く意味があるかもしれないと思いました。

——菊池さんは今まで父親のアルコール依存や、ご自身が宗教二世であった中で経験してきたことも描いてきています。つらい経験が重なるなかで、「なんで自分ばかり」と思われたことはなかったのでしょうか。

それがあまりなかったんです。当時は家庭内で起きていることも「これが普通」と思っていたから、自分だけが不幸だとは思っていなかったんです。眠れないとか、急に涙が出てくるとかはあったけれど、理由はよくわかっていませんでした。それでも性暴力にあった後は、他人に話したら「そんなに不幸が重なるわけないじゃん」って、嘘だと思われるかもしれないな、くらいの認識はありましたが。

その後、父のアルコール依存や、依存症に関するマンガを描いて、世間の反応が思ったより優しいことも知ったので、「嘘つき」とは言われないかもしれないと思えるようになりました。同時に本を出して反響をいただく中で「こんなにつらい思いをしてる人がいっぱいいるんだな」と思っていたので、「なんで自分ばかり」というよりは、「なんでみんなこんなにつらいの?」という感覚でした。

アルコール依存の取材をしていくと、女性たちはパートナーから暴力を受けているし、男性たちは「男らしさ」の呪縛にとらわれてお酒を飲んでいることが見えてきて、「結局根っこにあるのは、ジェンダーの問題ではないか」という感覚を持つようになっていきましたね。

被害者は社会の中にいる

——被害者像については、いまだに誤解が多い部分だと思います。取材を通じて、世間のイメージと実際とのギャップが大きいと感じたことや、読者に知っておいてほしいことを教えてください。

被害者像については、私自身が誤解をしていたんです。深刻な被害を受けたら誰でも、寝込んだり、鬱になったりするものだろうと思っていました。自分はそうはならなかったから、たいした被害じゃなかったんだとも思っていました。でもトラウマ治療の専門家の先生からは、被害を受けた後に活動量を増やすことで自分を保とうとすることもあるし、性暴力被害者が性に奔放になることがあるのは、被害体験を自分でコントロールして上書きしようとする「トラウマの再演」としてよくあることだと教えてもらいました。

性暴力に関する取材をしてきた記者さんと会う機会があって「私は寝込んだり家から出られなくなったりしてないから、被害者っぽくないですよね」と話したんです。そうしたら、「私たちがわかりやすい被害者ばかり取りあげてきた面もあるんですよね……」と言われて。普通の生活が送れなくなってしまった方は、被害者像としてわかりやすいから、そういう方ばかりが取材される傾向はあるみたいですね。

言い換えれば、現在はまだ世間に限定的な被害者像のイメージしかないので、そこから外れている方を取りあげると、その方が被害者非難・二次加害にさらされてしまう危険性もあるんですよね。本来、被害後にどんな反応を起こすかは人それぞれで、反応によって被害の重さなどがはかられるような性質のものではないのですが。報道する側としては難しいのだろうなと思いました。

——言っていないだけで、実は被害経験のある人が身近にいるかもしれないということですね。

アダルトチルドレン関連のことでカウンセリングを受ける中で、性暴力被害のことも話したことがあったんです。それで「私は寝込んでもいないし、普通に元気に過ごせているから、たいしたことないと思うんです」とお話ししたら、カウンセラーは「いや、そういう人のほうが多いですよ」とおっしゃっていて。

そのときはまだ、ピンときていなかったのですが、実際に取材をしてみたら、本当にそうだったんです。周囲には言っていないけれど、「この人元気だな」とみんなに思われているような人が、実は性暴力被害に遭っていたということもある。実際の被害者の存在を知らないだけで、私たちの社会の中にいっぱいいるよということも描きたかったんです。

——たとえ元気そうに見えるからといって、それがその人のすべてではないですよね。

元気そうにしていないと生きていけないんじゃないかなって思うんですよね。仕事もしないと食べていけないですし、落ち込んでばかりいたら「どうしたの?」ってなって、社会生活を送るのも難しくなる場面もありますし。

それに元気そうに見えるからといって、完全に元気ということではなくて、一人になったときに倒れこんだりしながら頑張っている人たちも多い。繰り返しになりますが、過剰に元気そうに見える人も、トラウマの反応として過活動になっているだけかもしれないので、大丈夫とは言えないですし。

だから話していないだけで、過去に被害体験のある人は、自分のまわりにもいっぱいるかもしれないということは、常に頭のどこかに置いておいてもいいんじゃないかなと思います。

※1:男女間における暴力に関する調査

※後編に続きます。

 

『同意なんかしていない ―性被害者たちに何が起きたのか―』(文藝春秋)
『同意なんかしていない ―性被害者たちに何が起きたのか―』(文藝春秋)

プロフィール】
菊池真理子(きくち・まりこ)

埼玉県生まれ。漫画家。アルコール依存症の父について綴った『酔うと化け物になる父がつらい』、宗教二世問題に迫った『「神様」のいる家で育ちました~宗教2世な私たち~』などのコミックエッセイ作品がある。

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