最新研究が示すポリアミンのがん抑制効果【医学博士が解説】

最新研究が示すポリアミンのがん抑制効果【医学博士が解説】
AdobeStock

私たちの体は歳を重ねると、細胞レベルで少しずつ衰えていきます。その細胞の衰えに働きかける成分として注目されているのが「ポリアミン」という長生き成分です。毎日の食事を少し見直すことが、あなたの未来の体を、そして人生を、大きく変えていきます。ポリアミン研究の第一人者である著者松藤千弥(まつふじ・せんや) さんの著書『あなたの中でいつの間にか進んでいる「老い」に負けない食事術』(アスコム)より、内容を一部抜粋して紹介します。

Google Newsでヨガジャーナルの記事が見つけやすくなります

Googleに登録する
広告

ポリアミンで「がんのリスク」を下げられるのか?

本書では、これまでにも、ポリアミンとがんの関係に触れてきましたが、改めてお伝えしたいのは、「ポリアミンが健常な細胞をがん化させる」という明確な証拠は、これまでに確認されていないという点です。むしろ、ポリアミンにはDNAの突然変異を抑えるはたらきが知られています。日常的に細胞のDNAは傷がつき、突然変異が起こっています。通常、私たちの細胞はそれを修復しますが、修復できなかった異常な細胞が増えると、がん化につながることがあります。つまり、ポリアミンは、正常な細胞に生じる「がんの芽」をできにくくする方向にはたらいていると考えるのが自然です。

実際に、いくつかの研究で「食事からのポリアミン摂取とがんのリスク低下」の関係が報告されています。2015年には、アメリカの研究チームが臨床栄養学の科学誌『American Journal of Clinical Nutrition』に、閉経後の女性約8万人を対象にした大規模な疫学調査の結果として、食事からポリアミンを多くとっていた人は、少ない人と比較して大腸がんの発症リスクが低かったと報告(※1)しています。 

※1 Vagas AJ et al., Dietary Polyamine intake and colorectal cancer risk in postmenopausal women. American Journal of Clinical Nutrition 102: 411–419, 2015

AdobeStock
AdobeStock

また2020年には、中国の研究チームが栄養学の科学誌『Nutrients』に、約2500名ずつの年齢と性別比率が一致した大腸がん患者と健常者を比較した研究成果を発表(※2)しています。それによれば、総ポリアミン摂取量、スペルミジン摂取量、およびプトレッシン摂取量が多い人は大腸がんの発症リスクが低かったとしています。

一方で、スペルミンについては反対の結果を示しており、まだ議論の余地は残されています。さらに、少し専門的になりますが、がん化を防ぐ仕組みの中に「ポリアミンが関わる経路」が組み込まれている可能性を示した研究もあります。2012年、権威のある科学誌『Nature』に、がん化を防ぐ遺伝子(腫瘍抑制遺伝子)を探索したアメリカの研究チームの成果が掲載(※3)されました。腫瘍抑制遺伝子は、細胞の増えすぎを抑えたり、DNAの傷を修復したり、異常な細胞を死滅させたりする役割を果たします。いわば、細胞自身がもっている「がん化のブレーキ」のための遺伝子です。この研究では、新しい腫瘍抑制遺伝子として、AMD1とeIF5Aという2つが同定されました。これらの遺伝子は、それぞれ、ポリアミン合成とポリアミンが関わるタンパク質合成に関連する遺伝子です。つまり、ポリアミンががん化を防ぐ細胞の仕組みに直接関わっていることを示唆しています。

※2 Huang CY et al., Dietary polyamines intake and risk of colorectal cancer: A case-control study. Nutrients 12: 3575, 2020

※3 Scuoppo C et al., A tumour suppressor network relying on the polyamine-hypusine axis.Nature 487: 244–248, 2012

ポリアミンとがんの抑制

元・自治医科大学の早田邦康さんらの研究グループは、科学誌『PLoS One』で、ポリアミンと発がんの関連を示唆する動物実験の結果を報告(※4)しています。大腸がんを人工的に誘発する薬剤を用いたマウス実験では、ポリアミンを多く含むエサを与えた群で腫瘍の発生率が低下していました。また、ポリアミンを多く含むエサを与えると、加齢に伴って生じるメチル化の乱れが抑えられることも観察されました。

研究チームは、このメチル化状態の安定化が、がんの発生率の低下と関連している可能性を考察しています。DNAのメチル化は、エピジェネティクスの仕組みのひとつで、遺伝子のはたらきを正常に保つために必要です。メチル化のバランスが乱れると、腫瘍抑制遺伝子のはたらきが弱まり、がんの発生につながることがあります。この研究は、ポリアミンが発がんを抑える仕組みの一端を示すものとして注目されます。がん細胞と戦う「がん免疫」とポリアミンの関係について、最後に紹介します。京都大学の茶本健司(ちゃもと・けんじ)さんらの研究チームは、2022年、権威のある科学誌『Science』に、がんと戦うために重要な免疫細胞「T細胞」のはたらきにポリアミン(スペルミジン)が欠かせないことを発表(※5)しました。

※4 Soda K et al., Increased polyamine intake inhibits age-associated alteration in global DNA methylation and 1,2-dimethylhydrazine-induced tumorigenesis. PLoS One 8: e64357, 2013

※5 Al-Habsi M et al., Spermidine activates mitochondrial trifunctional protein and improves antitumor immunity in mice. Science 378: eabj3510, 2022

AdobeStock
AdobeStock

老化によりT細胞による免疫のはたらきが鈍くなり、がんの発症率が上がることは知られていました。この研究では、年をとったマウスのT細胞(厳密には細胞障害性T細胞)では、スペルミジンの濃度が若いマウスのT細胞よりも低くなっていることを報告しています。また、老化マウスではがん治療法の一つである「PD-1阻害抗体治療」が効きにくくなっていましたが、スペルミジンを補うとがんに対する免疫力が回復することが示されました。PD-1阻害抗体治療とは、同研究チームの本庶佑(ほんじょ・たすく)さんらが開発した治療法で、がん細胞が体の免疫システムを抑えるのを防ぎ、T細胞が、再びがん細胞を攻撃できるようにするものです。

この研究で、2018年に本庶さんは、ノーベル医学・生理学賞を受賞しています。ポリアミンが「がん治療」に貢献する……。30年前には誰も想像しなかった新しい展開です。もちろん、がんはとても複雑な病気で、絶対的な「予防法」は存在しません。それでも、細胞の健康を保つことが将来のリスクを減らす第一歩になるのは間違いありません。日々の食事の中で、ポリアミンを意識的に取り入れることが、結果的にはがんを遠ざけるライフスタイルにつながるのかもしれません。

『あなたの中でいつの間にか進んでいる「老い」に負けない食事術』(アスコム)
『あなたの中でいつの間にか進んでいる「老い」に負けない食事術』(アスコム)
 

この本の著者…松藤千弥(まつふじ・せんや) 

東京慈恵会医科大学学長。医学博士。1958年、東京都生まれ。1983年、東京慈恵会医科大学医学部卒業。同大学附属病院内科研修医、同大学大学院を経て、1989年、同大学栄養学教室助手。1992~1995年、米国ユタ大学人類遺伝学研究所留学。2001年、東京慈恵会医科大学生化学講座第2教授。2007年、同分子生物学講座担当教授。2013年より学長。また2018~2024年、日本ポリアミン学会会長を務める。専門分野は遺伝子発現調節およびポリアミンに関する生化学・分子生物学である。

Google Newsでヨガジャーナルの記事が見つけやすくなります

Googleに登録する
広告

RELATED関連記事

Galleryこの記事の画像/動画一覧

AdobeStock
AdobeStock
『あなたの中でいつの間にか進んでいる「老い」に負けない食事術』(アスコム)