家に帰るとぐったり…「普通にやっている」裏側でASDのある人に起きていること|公認心理師が解説
職場では普通にやれている、人間関係もそこそこ…なのに、家に帰るとぐったりして何もできない。そんな経験はありませんか?今回はASDのカモフラージュについて紹介します。
「普通にやっている」裏側で
表面上はうまくやれているのに、帰宅後は電池が切れたように動けなくなる。翌朝また「普通の自分」を装って出かける。その繰り返しに、なぜこんなに疲れるのか自分でも説明できない。この消耗の正体のひとつとして、近年「カモフラージュ」という概念が注目されています。自閉スペクトラム症(ASD)の研究から生まれた言葉ですが、その内容はASD当事者の方にとって「身に覚えがある」と感じる身近なものかもしれません。
カモフラージュとは何か
カモフラージュとは、社会的な場面でASD的な特性をできるだけ目立たせないために、意識的・無意識的に用いる戦略のことです。研究者のLaura Hullらによって整理されたこの概念は、大きく3つの要素に分けられます。
ひとつめは「補償」。会話のタイミングを頭の中でシミュレーションしたり、適切な表情や相づちを意識的に練習したりすることです。ふたつめは「マスキング」。体を揺らしたくなる衝動を抑える、困っていても顔に出さないなど、特性を隠す行動です。みっつめは「同化」。周囲の人の話し方や振る舞いをまねて、集団に溶け込もうとすることです。
これらは意識してやっている場合もあれば、いつの間にか身についている場合もあります。「やっている」自覚がないまま、膨大なエネルギーを使い続けているケースも少なくありません。
なぜ女性に多いのか
カモフラージュはASDのある人全般に見られますが、女性により顕著だとされています。背景にあるのは、「よい子らしく」「空気を読んで」「感情的にならず」といった、女性に向けられてきた社会的な期待です。幼いころから周囲への適応を求められるなかで、カモフラージュは自然と強化されていきます。
その結果、ASDのある女性は診断を受けるタイミングが遅くなりやすいことも研究で示されています。「うまくやれているように見える」から、本人も周囲も、支援が必要だと気づきにくいのです。
見えないコスト
カモフラージュを長期にわたって続けることには、大きな代償が伴います。慢性的な疲労、抑うつ、不安の高まり、そして「本当の自分がわからない」という自己感覚の喪失。これらは多くの研究で報告されている影響です。さらに、「うまくやれている人」として見られているからこそ、支援につながりにくいという側面もあります。しんどさを訴えても「でも普通に生活できてるじゃない」と受け取られてしまう。カモフラージュが、助けを求める声をふさいでしまうことがあります。
適応できていることと、消耗していないことは別の話
「ちゃんとやれている」は、しんどくないことを意味しません。表面上の適応の裏に、どれほどのコストがかかっているかは、外からは見えません。そして本人にさえ、そのコストが「普通ではない消耗」だと気づきにくいことがあります。カモフラージュという概念を知ることは、自分のしんどさに名前をつける入り口になります。「なぜこんなに疲れるのか」に、答えが見えてくるかもしれません。
毎日なんとかやれているのに、理由のわからない疲れが積み重なっている。この記事を読んで「これかもしれない」と感じたなら、その感覚を大切にしてみましょう。うまくやれていることと、無理をしていないことは、まったく別のことです。
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