実は「春だから、しんどい」。臨床心理士が伝えたい「春の不調」の話
桜が咲き、街が明るくなるこの季節に、なぜかしんどくなる。眠れない、気力がわかない。今回は春の不調のお話です。
「春が苦手」は気のせいじゃない
「春だから前向きにならなきゃ」というプレッシャーとは裏腹に、体と心がついてこない。そんな経験を持つ人は、決して少なくありません。季節性うつ(SAD)というと、日照時間が短くなる秋から冬に気分が落ちる「冬型」が広く知られています。でも、春や初夏にかけて不調のピークを迎える人たちも少なくありません。「春型」は、診断基準に明示された独立した疾患カテゴリーではなく、研究も途上にあります。だからこそ、「気のせい」「新生活のストレスだから仕方ない」と片付けられやすいのかもしれません。しかし、毎年この季節に繰り返されるしんどさには、もう少し丁寧に目を向ける必要があるのではないでしょうか。
データが示す、春という季節の重さ
精神科領域の疫学データを見ると、自殺や自傷の件数、精神科への受診・入院件数が春(特に4〜5月)に集中する傾向は、複数の国で報告されています。「新生活が始まるから希望がある季節」というイメージとは、大きくかけ離れた数字です。また、気分に波がある双極性障害を持つ人が春に躁状態や混合状態に転じやすいというデータも、長年にわたって積み重ねられてきました。春という季節が、気分の振れ幅を大きくしやすい何らかの条件を持っている可能性を、これらのデータは示唆しています。
冬型とは異なるメカニズム
冬型SADは、日照不足によるメラトニン過剰分泌が主な要因として語られることが多く、症状としては過眠・過食・気力低下が典型的です。一方、春の不調はメカニズムも症状も異なる側面があります。春に向けて急激に日照が増えると、セロトニンやドーパミンの分泌リズムが急変します。また、気温・気圧の不安定な変動が自律神経に負荷をかけ、花粉などによるアレルギー性炎症が気分に影響するという研究知見も出始めています。症状としては不眠・食欲低下・焦燥感・衝動性が出やすく、「なんとなく追い立てられるような感覚」と表現する人も多いです。ただし、これらはあくまで仮説の段階にあります。「春型SAD」という概念自体、研究者によって定義がゆれており、断定できるものではありません。
「五月病」というラベルの落とし穴
日本では長年、「五月病」という言葉が春の不調を包括的に説明してきました。新生活の疲れが出る、慣れない環境へのストレス——そのような文脈で語られることで、「そのうち慣れる」という解釈に落ち着きやすくなります。もちろんそれが当てはまるケースも多いです。しかし、毎年この季節になると繰り返される、環境の変化とは関係なく訪れる不調が混じっている可能性も否定できません。
春が苦手でもいい
毎年この季節に体と心が重くなる人にとって、春は「前向きになれる季節」ではなく、乗り越えなければならない季節だったりします。春が好きな人には「なぜ?」と思われることもあるかもしれません。でも、そのしんどさには、ちゃんと理由があるかもしれないのです。理由のわからないしんどさに名前がついていないからといって、それが「たいしたことない」わけではありません。繰り返すしんどさ、自分でもうまく説明できない不調を感じているなら、一人で抱えずに、信頼できる誰かや専門家に話してみる選択肢があります。春だから、しんどい。それでいいのです。
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