臨床心理士が教える「しなやかな心を作るための方法」"価値の置き場"を考える

臨床心理士が教える「しなやかな心を作るための方法」"価値の置き場"を考える
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石上友梨
石上友梨
2026-03-15

私たちは日々、無意識のうちに「自分には価値がある」と思えるための根拠を探しています。仕事の成果、SNSの反応、誰かからの感謝。今回は自分の価値についてのお話です。

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私たちは何を根拠に自分には価値があると思うのでしょうか。その「価値の根拠」がたった一つしかないとき、心は脆くなりやすいです。「仕事がうまくいかないから、自分はダメだ」「誰にも必要とされていないから、存在意義がない」このように心のエネルギーを供給する「回路」が、一箇所に集中しすぎていませんか?

1. 「能力」は数ある根拠の一つに過ぎない

自尊心(セルフエスティーム)の基盤をどこに置くかという研究はたくさんおこなわれています。例えば、ジェニファー・クロッカーらが提唱した「自尊心の随伴性」という概念があります。これは、人が何をもって自分の価値を判断するかという「基準」を指します。多くの現代人にとって、最も馴染み深いのは「価値=能力」かもしれません。テストの点数、営業成績、スキルの高さ。これらは数値化しやすく、社会的な承認も得やすいです。しかし、この根拠には弱点があります。それは他者比較を生みやすいという点です。大切なのは、「能力」以外にも価値の根拠はたくさんあると知ることです。

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2. どんなところに価値を見出せる?

人によって、何を根拠に自分は価値があると思えるかは異なります。日常的に感じやすい例をいくつかご紹介します。

関係

好かれている、つながっている感覚。

役割

親・専門職・まとめ役など実際に担っている役割。

一貫性

信念や倫理、筋を通せているか。

努力

結果より「やり続けたか」

好奇心と楽しみ

知的好奇心や楽しさを感じられているか

影響

誰かや何かに変化を起こせた感覚

存在

特に条件なく「存在してよい」と感じられる感覚。無条件なのでこれがあれば比較的安定しやすい。

例えば、仕事でミスをした時。「能力」に依存している人は「自分は無能だ」と絶望しますが、「関係」に重心がある人は「見捨てられるかも」と不安になり、「一貫性」を重視する人は「プロとして失格だ」と自責します。ひとつだけに注力せず、複数あると良いかもしれません。 

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3. 分散すること

複数の根拠に分散するよう意識してみましょう。「仕事はうまくいってないけど、趣味をしている時は自分を取り戻せる」「役職は失ったけれど、友人の前では、ただの自分でいられる」こうした別ルートを持っていませんか?まずは、自分の日常を少しだけ振り返ってみてください。

• 結果に関係なく、時間を忘れて没頭できるものはありますか?
• 「結果はさておき、これをやっている間だけは余計なことを考えずに済む」という作業はありますか?
• 「損得抜きで、これだけは丁寧にやりたい」と感じる日々のルーティンはありますか?
• 成果や役職に関係なく、ただそこに座っているだけで落ち着く場所や時間はありますか?

これらに心当たりがあるなら、あなたの中にはすでに別の価値の置き場が眠っています。

私たちは、自分の価値をどこに預けるかを変えることができます。もし今、あなたの価値が揺らいでる感覚を感じているのなら、少しだけ立ち止まって考えてみてください。「今、私はどの価値の根拠で揺れているんだろう?」と。価値の置き場は、一つである必要はありません。いくつもを編み合わせることで、心はしなやかな強さを手に入れていくのです。

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