「忙しい」を言い訳にする人の脳は老化している?臨床心理士が解説
「忙しくて時間がない」が口癖になっていませんか? 実はこの言葉、脳の認知機能低下のサインかもしれません。臨床心理士が教える、1日たった5分のマインドフルネスで、深い集中状態「ゾーン」に入り、時間と思考を取り戻す科学的メソッドをご紹介します。
「忙しい」が口癖の人の脳で起きていること
「忙しくて運動する時間がない」「忙しいから考える余裕がない」——こうした言葉を日常的に使っている人は、要注意です。臨床心理士によれば、「忙しい」が口癖になっている状態は、脳の実行機能が低下しているサインだと指摘されています。
脳科学的に見ると、慢性的な多忙感はデフォルト・モード・ネットワーク(DMN)の過活動と深く関係しています。DMNとは、何もしていない時に活性化する脳回路で、過去の反省や未来への心配といった「心のおしゃべり」を司っています。本来、タスクに集中すればDMNは静まるはずですが、現代人の多くはタスク中もDMNが働き続け、脳がマルチタスク状態に陥っているのです。
ハーバード大学の研究では、人間は起きている時間の47%を「今ここ」以外のことを考えて過ごしており、この心の彷徨(マインド・ワンダリング)が幸福度の低下と強く相関していることが明らかになっています。
さらに、この状態が続くと前頭前野(計画・判断・意欲などを司る部位)の機能が低下し、行動するための計画や判断をしたいのに関係のない思考が邪魔したり、行動に向けた意欲がわかなかったりすることが分かっています。「忙しい」と感じている人の多くは、実際には時間がないのではなく、脳が効率的に情報を処理できなくなっているのです。
「忙しさは客観的な時間の問題ではなく、脳の状態の問題なんです」と臨床心理士は語ります。
1日5分で「ゾーン」に入る、科学的マインドフルネス実践法
では、どうすれば脳を最適化し、深い集中状態「ゾーン(フロー状態)」に入れるのでしょうか。答えはマインドフルネス瞑想にあります。重要なのは、漠然と行うのではなく、神経科学に基づいた正しい方法で実践することです。
臨床心理学と脳科学の知見を統合した、今日から始められる5分間マインドフルネスの具体的なステップをご紹介します。
ステップ1:「アンカー呼吸」で脳をリセットする(1分)
椅子に座り、背筋を軽く伸ばします。目は軽く閉じるか、半眼で斜め前を見ます。
鼻からゆっくり息を吸い(4秒)、口からゆっくり吐く(6秒)。呼吸そのものに意識を集中させます。空気が鼻孔を通る感覚、胸が膨らむ感覚、吐く息の温かさを観察します。
呼吸という単一の対象に意識を向けることで、過活動していたDMNが静まり始めます。研究では、短期間のマインドフルネス実践でもDMNの活動が低下することが確認されています。
ステップ2:「思考のラベリング」で認知的距離を作る(2分)
呼吸に集中していると、必ず雑念が湧いてきます。これは自然な反応です。
雑念を否定せず、「思考」とラベルを貼り、流します。
- 心の中で「思考、思考」と唱える
- 「計画」「心配」「記憶」と分類する
- 再び呼吸に意識を戻す
この技法は「脱フュージョン」と呼ばれ、思考と自分を切り離すことで感情の暴走を防ぎます。
ステップ3:「ボディスキャン」で身体感覚を取り戻す(1分)
頭から足先まで、身体の各部位に意識を移動させます。
- 頭皮や首、肩の感覚
- 背中と椅子の接触感
- 足の裏が床に触れる感覚
ボディスキャンは、脳と身体のつながりを回復させ、内受容感覚(からだの内部の感覚)を高める効果があります。
ステップ4:「感謝の3呼吸」でポジティブ回路を活性化する(1分)
深呼吸を3回行いながら、感謝できることを1つずつ思い浮かべます。
- 1呼吸目:健康な身体があること
- 2呼吸目:仕事があること
- 3呼吸目:自分のために時間を使えたこと
感謝の実践は前頭前野の活動を高め、ポジティブな感情回路を強化します。
ベストタイミング:朝起きてすぐ、または仕事開始前
起床直後は脳が比較的ニュートラルな状態にあります。このタイミングで実践することで、1日を通して集中しやすい脳の状態を作ることができます。
マインドフルネスがもたらす脳の変化と注意点
1. 前頭前野と海馬の灰白質が増加する
8週間のマインドフルネス実践により、前頭前野と海馬の灰白質密度が増加したことが報告されています。これは、脳の認知機能向上の効果を示すサインです。
2. 「ゾーン」に入るまでの時間が短縮される
マインドフルネスを習慣化すると、短時間で深い集中状態に入れるようになります。
3. ストレス耐性が向上する
不安や恐怖を司る「扁桃体」の反応が穏やかになり、感情を冷静に制御する力が高まります。
4. 主観的な時間感覚が拡張する
脳の情報処理効率が上がることで、時間に余裕があると感じやすくなります。
なお、深刻なうつや不安障害がある場合は、自己流のマインドフルネスは避け、専門家の指導を受けてください。即効性を求めすぎず、2〜3週間の継続を目安に取り組むことが大切です。
今日の5分が、明日のあなたを変える
「忙しい」という感覚は、時間の問題ではなく脳の状態の問題でした。そしてその脳は、たった5分のマインドフルネスで変えることができます。
忙しさに追われる人生から、時間を味わう人生へ。その転換点は、今朝の5分から始まります。あなたの脳は、まだまだ変わる力を持っているのです。
参考文献・出典
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日本マインドフルネス学会 https://mindfulness.smoosy.atlas.jp/ja
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