いい人でいようとするほどつらい。“支配”と“思いやり”の違いとは?臨床心理士が解説

いい人でいようとするほどつらい。“支配”と“思いやり”の違いとは?臨床心理士が解説
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佐藤セイ
佐藤セイ
2026-01-28

他者からの「思いやり」に対し、本当は「今は不要だな」と感じていても、「せっかくのご厚意だから」「断ったら空気を壊すかもしれない」と考え、笑顔で受け取った経験はないでしょうか。自分の本音を抑え、「いい人」であろうとする姿勢は決して珍しいものではありません。しかし、その誠実さが必ずしも良い関係につながるとは限らず、違和感や疲れが積み重なり、関係がぎくしゃくすることもあります。この記事では、「いい人」でいようとする苦しさの背景にある「思いやり」と「支配」の微妙な境界について考えていきます。

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「いい人でいよう」とするほどつらい理由

自分よりも他者を優先するルール

「いい人」は心のどこかで、「相手の期待に応えなければならない」「嫌われてはいけない」という自分ルールを抱えています。

これらは、社会生活を円滑にするために役立つ側面もありますが、過剰に縛られると、「思いやり」や「善意」に対する自分の素直な気持ちは二の次で、「相手を喜ばせるための反応」ばかり考えてしまいます。

自分の気持ちを無視し続けると、次第に「私は何をしたいのだろう」「なぜ私は生きているのだろう」と虚しさを感じるようになります。もし、そのように感じているなら、自分の心を置き去りにしてきたサインかもしれません。

「思いやり」の名を借りた「支配」に巻き込まれる

他者から「思いやり」として差し出された言葉や行為が、実は相手の意図に沿うよう自分を操作する「支配」であることもあります。

「思いやり」と「支配」は、表面的にはよく似ています。

そのため、この二つを区別する意識を持たなければ、「思いやり」や「善意」として差し出された「支配」に気づかないうちに巻き込まれてしまいます。しかし、「いい人」は違いを吟味せず、何でも受け取ってしまうため、気づいたときには苦しい状態に陥っていることがあります。

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イラスト/Adobe Stock

「思いやり」の形をした「支配」って何?

そもそも「支配」とは?

「支配」と聞くと、怒鳴る、命令するといった威圧的な行為を思い浮かべがちです。

しかし実際には、もっと穏やかで分かりにくい形の支配も少なくありません。たとえば、「あなたのためを思って」「こうした方がいい」など、一見「思いやり」や「善意」に見える言葉の裏に、相手を自分の思い通りに動かそうとする意図が潜んでいることがあります。

支配する側は、自分の言動によって相手の行動や感情が変わると、「自分には影響力がある」「自分の言葉には価値がある」と感じ、一時的に承認欲求が満たされます。そしてさらに自分の欲求を満たすため、支配を強めていきます。

「思いやり」と「支配」は何が違う?

では、本当の「思いやり」とは一体どのような関わりなのでしょうか。

本当の「思いやり」とは、相手を操作しない関わりです。相手の選択や感情、ペースを尊重し、「どうしたい?」「何を感じている?」と問いかけながら、主体的に気持ちを表現するサポートを行います。

支配が「相手を動かす」関わりだとすれば、思いやりは「相手に委ねる」関わりなのです。

なぜ「支配」に抵抗するのは難しいのか

「支配」に抵抗するには勇気が必要です。抵抗すれば、「良かれと思って言ってあげたのに」と責められたり、「じゃあもう知らない」と嫌われたりする可能性があります。そのため、相手に従った方が摩擦も少なく、「いい人」のままでいられるのです。

また、支配に抵抗するには、「私はこうする」と強い意思を持ち、その結果に責任を引き受ける覚悟が求められます。しかし、「いい人でいたい」という気持ちが強いほど、「失敗して評価を下げたくない」「嫌われたくない」という不安に駆られ、相手の指示に従う方が楽で安全だと思えてしまいます。その結果、ますます支配から抜け出しにくくなります。

「支配」ではなく「思いやり」を受け取るために

自分の心に目を向けよう

相手の言動を受け取ったあと、すぐに反応せず、自分の心に目を向けてみましょう。「これは本当に自分が望んでいる選択だろうか」「無理に『いい人』になろうとしていないか」と自分に問い直すことが大切です。

すぐに行動を変えられなくても構いません。流されるままに「支配」されるのではなく、ほんの少しでも自分の感情や考えを確認する意識が持てると、それだけで「支配」から距離を取るための確かな第一歩になります。

境界(バウンダリー)を意識する

境界とは、「自分と他者を区別するための線」のことです。これは、「ここから先には踏み込まれたくない」という、自分の意思や感情を守るための目印でもあります。

たとえば、「あなたのためだから」といった名目で、境界を越えてコントロールしようとする言葉に対して、「できない」「それは違う」とNOを伝えることは、わがままではありません。むしろ、自分と相手の立場や責任を適切に分けるための、健全な行為なのです。

おわりに

「いい人でいたい」という気持ちは、誰にでもある自然な感情です。しかし、その気持ちが強くなりすぎると、失敗できない自分をつくり、相手の期待に応え続けることでしか自分の価値を保てなくなってしまいます。その結果、「支配」に気づいていても、抵抗できなくなることがあります。

一度立ち止まって自分の気持ちと向き合い、「これは本当に思いやりかな?」「支配に飲み込まれていないかな?」と考えてみてください。

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