アンガーマネジメントとは?怒りが起こる仕組みと、8つのやり方【心理士監修】
アンガーマネジメントを実践して怒りをコントロールすると、感情に振り回されずに行動できるようになります。それにより人間関係の円滑化や仕事のパフォーマンス向上が期待できるのです。 次のような悩みを抱えている場合は、アンガーマネジメントを実践してみてはいかがでしょうか。 「イライラして周囲から避けられている気がする...」 「些細なことで怒ってしまい仕事に集中できない」 本記事では怒りのメカニズムやアンガーマネジメントのやり方、具体的な活用シーンについて解説します。
アンガーマネジメントとは?
アンガーマネジメントとは、怒りの感情と上手に付き合うための心理教育、心理トレーニングです。
アンガーマネジメントは怒らないことを目的としない点がポイント。怒る必要のあるときは上手に怒り、怒る必要のないときは怒らなくて済むようになることを目標にします。(※1)
アンガーマネジメントは、1970年代にアメリカで生まれました。怒りの感情とうまく付き合うための心理トレーニングで、認知行動療法がベースとなっています。精神療法を受けている人や感情労働に携わる人を対象に開発・実施されて以降、その効果が注目を集め、現在はさまざまな分野に応用されています。
感情労働とは、職務遂行のために感情のコントロールが求められる職業で、たとえば看護師や介護士、接客業などさまざまな業種が該当します。肉体労働や頭脳労働のような職業のカテゴリーの1つとして扱われ、比較的ストレスがたまりやすい点も特徴です(※6)。
心理学における怒りの正体
怒りは一種の防衛本能(自分を守るための感情)でもあるため、心理学において怒りは必ずしも悪いものではないと考えられています。たとえば次のような場面で、自分を守るための反応として怒りの感情が現れます。
- 自分の身に迫った危機を回避するとき
- 自分の価値観や自尊心を守るとき
- 理想や期待を裏切られたとき
ここでは怒りの感情についてさらに詳しく理解するために、メカニズムや6つのタイプについて解説します。
怒りの感情が起こるメカニズム
怒りは二次感情(2番目に出てくる感情)とされており、怒りの感情の前には必ず「一次感情」を抱くといわれています。一次感情には、「悲しみ」や「悔しさ」「寂しさ」「不安」「苦しみ」などが挙げられます。
たとえば、約束の時間に遅れてきた友人に対して怒りを感じる前には次のような感情を抱くことも多いのではないでしょうか。
- 悲しみ:約束通りに来てくれなかったことを悲しむ感情
- 心配:事故にあったのではないかと心配する感情
- 虚しさ:1人で待ちぼうけをさせられていることに対する虚しい感情
以上のネガティブな感情は自分の心に一時的に蓄積できます。しかし蓄積された一次感情が許容量を超えると、二次感情が怒りの形で現れるのです。
6つの怒りのタイプ
一般社団法人日本アンガーマネジメント協会によると、怒りには次の6タイプがあります。
- 公明正大タイプ
- マナー違反や社会的に正しくないと思うことについて怒りを感じやすいタイプ
- 博学多才タイプ
- なんでも白黒をつけないと気が済まず、はっきりしないことや人に対してイライラする傾向があるタイプ
- 威風堂々タイプ
- 自分が一番でいたいという気持ちが強く、軽んじられたり大切にされなかったりすると怒りを感じやすいタイプ
- 外柔内剛タイプ
- 自分が決めたルールから外れることを嫌がり、表向きは穏やかだが、自分ルールから外れるとイライラしやすくなるタイプ
- 用心堅固タイプ
- 物事をネガティブに捉えがちな傾向があり、周りが大したことがないと思っていることでも必要以上に悪く捉えて怒ってしまいやすいタイプ
- 天真爛漫タイプ
- 後先考えずにとにかく行動し、なかなか思ったように進まなかったり、時間がかかるということにイライラしやすいタイプ
怒り方のクセやイライラしやすいポイントなどは人によって異なります。以上のタイプをもとに、自分の怒りの傾向を理解することが、アンガーマネジメントの第一歩です。
一般社団法人日本アンガーマネジメント協会のホームページでは、自分がどのタイプに属するかを無料で診断できます。気になる方はぜひ試してみてください(リンクはページ最下部にあります)。
怒りは自分を守るための大切な感情ですが、上手く対処できないと、ストレスを抱えたり、人間関係に悪影響をもたらしたりします。次項では、アンガーマネジメントのやり方について詳しく解説するので、ぜひ参考にしてください。
怒りに対処するアンガーマネジメントのやり方8選
怒りに対処するためのアンガーマネジメントのやり方について、次の8つを解説します。
- 6秒ルールを実践する
- 怒りの原因から距離をとる
- 心のなかで怒りを鎮めるためのセリフを唱える
- 呼吸法を実践する
- 怒りを点数化する
- マインドフルネスを実践する
- 自分を客観視する
- 人に見られていることを意識する
すぐに実践できる方法を紹介するので、お試しください。
6秒ルールを実践する
6秒ルールとは、怒りが湧いたら6秒数えるというシンプルなテクニックです。6秒数える間に怒りの感情と距離をとれ、怒りを鎮めることができます。
怒りの原因から距離をとる
怒りが湧いてきそうだと感じた場合は、その場から離れるのも効果的です。イライラしたら、トイレに行ったり、飲み物を買いに行ったりして、怒りの原因から距離をとると、冷静になるかもしれません。
怒りは突然爆発するものではなく、その元となる不快な感情が蓄積されて、一定の基準を超えて溢れることによって生じます。不快な感情が蓄積される前に、原因から離れることで怒りの爆発を避けられます。
心のなかで怒りを鎮めるためのセリフを唱える
心のなかで怒りを鎮めるためのセリフを唱えると、怒りの感情が和らぐ可能性があります。
事前に怒りが湧いたときに必ず唱える言葉を決めておくと、アンガーマネジメントとして簡単に実践できます。
怒りを鎮めるセリフには、「いったん落ち着こう」「わかっていることだ」など自分に言い聞かせる言葉を決めておくとよいでしょう。または好きな食べ物やペットの名前など、自分が落ち着く単語でもかまいません。
呼吸法を実践する
アンガーマネジメントの一環として、イライラしたら次の手順に沿って呼吸法を実践するのもおすすめです。
- 3つ数えながら鼻から息を吸う
- 息を止めて、2つ数える
- 6つ数えながらゆっくりと息を吐く
鼻から息を吸うときは下腹部を膨らませたり、息を吐く際は下腹部をへこませたりして腹式呼吸を意識すると効果的です。
怒りを点数化する
怒りを点数化すると感情を客観視できるため、冷静になれる可能性があります。点数化する際は、「今の自分の怒りは、10点中7点」などと心の中で考えたり、記録したりするとよいでしょう。
自分の感情を観察し点数化すると、自分の感情を俯瞰することになり、落ち着きを取り戻せるのです。
マインドフルネスを実践する
マインドフルネスとは、今、この瞬間に起きている目の前のことに意識を向ける心の状態です。マインドフルネスは怒りの感情をコントロールするための手段としても有効といわれています。(※3)
自分を客観視する
イライラする感情に気づいたら、自分を客観視できるように努めることもアンガーマネジメントにつながります。
自分を客観視することは「メタ認知」とも呼ばれ、仕事のパフォーマンスを高めたり、日常の人間関係を円滑にするためには欠かせないスキルの1つです。メタ認知ができるようになると、自分の思考から距離を置き、ネガティブな思考パターンに気づけるようになります。(※4)
その結果、物事を合理的に考えられるようになり、感情に流されずに建設的な行動を選択できるようになるでしょう。
人に見られていることを意識する
人間は人に見られていると、理性的な行動や態度を示しやすくなります。この性質を利用して、常に人に見られていることを意識してアンガーマネジメントをするのも1つの手段。
そのためにも地域や社会のコミュニティに参加して、人との交流を積極的にすすめるのもおすすめです。人との交流が自分を律する役割を果たし、社会性を保つ助けになります。
アンガーマネジメントを効果的に活用できるシーン
アンガーマネジメントは、たとえば次のような場面で役立ちます。
- 職場環境の改善
- 業務の効率化
- 子育て中のイライラ解消
- 子どもの教育
職場環境の改善
アンガーマネジメントを職場で実践すると、職場の人間関係が円滑になり働きやすい環境になる効果が期待できます。
職場で怒りを爆発させると、人間関係や職場の雰囲気などに多くのネガティブな影響をもたらします。
一方で社員一人ひとりがアンガーマネジメントを実践すると、職場での人間関係がよくなったり、コミュニケーションが活性化されたりして職場の生産性向上が期待できるでしょう。
業務の効率化
仕事中の怒りをコントロールできれば、業務に集中できるため、パフォーマンスやモチベーションのアップが期待できます。
一方でアンガーマネジメントをうまくできずに周囲から「怒りやすい人」というレッテルを貼られると、関わり合うことを避けられる恐れがあります。
職場の人とコミュニケーションを取る回数が減ることで、必要な情報が入って来なかったり、メンバーのサポートを受けられなくなったりする可能性があります。それによって業務効率が落ちる可能性があるため注意が必要です。(※5)
子育て中のイライラ解消
アンガーマネジメントは、子育てにおいても有効です。子育て中の親は寝かしつけや食事マナーのしつけ、外出先でのわがまま対応などでストレスをためてしまいがちです。
子育てでイライラするのは、親が「~すべき」と考えていることを子がしないことが原因であるケースが多いといわれています。(※1)
もし子どもに対して怒りの感情をぶつけそうになったときは、自分が「~すべき」と考える価値観を子どもに押し付けていないか考えてみるのもおすすめです。
子どもの行動と自分の価値観との隔たりが原因でイライラすることがわかると、冷静になれるかもしれません。それが、アンガーマネジメントにつながり子育てによるストレスを軽減できると考えられます。
また自分では伝えているつもりでも、子どもにはよく伝わっていないケースがあることも忘れないようにしましょう。6秒ルールで冷静になり、子どもに伝えた内容が伝わったかどうか確認できる心の余裕を持てると、子育てでイライラする場面を減らせるでしょう。
子どもの教育
アンガーマネジメントは、子どもが自分の感情をうまくコントロールできるようにするための教育手段としても活用できます。
現在は子どものアンガーマネジメントを扱った絵本が多数出版されています。絵本の読み聞かせを通して、子どもとコミュニケーションを取ると、アンガーマネジメントを身に着けてもらうきっかけになるかもしれません。
アンガーマネジメントをもっと学べる書籍【編集部おすすめ】
最後に、アンガーマネジメントをもっと学びたいという方におすすめの本をご紹介します。
アンガーマネジメント入門
「アンガーマネジメント入門」は、日本アンガーマネジメント協会代表理事の安藤俊介氏が書いた入門書です。同氏はアメリカでアンガーマネジメントを学び、日本に導入した第一人者といわれています。アンガーマネジメントを体系的に学べるうえに解説も豊富なため、実践に移しやすい書籍です。
いつも怒っている人も うまく怒れない人も 図解アンガーマネジメント
本書ではアンガーマネジメントについて、豊富な図解でわかりやすく解説されています。挿絵が多いため、要点をつかみやすい点が特徴で、短時間でアンガーマネジメントを理解したい方におすすめです。
反応しない練習
「反応しない練習」は、現役の僧侶である草薙龍瞬氏によって書かれた書籍です。同氏の仏教に関する知見や体験を織り交ぜながら書かれており、実用的なアンガーマネジメントを身に着けたい場合におすすめです。心を煩わせる情報が多い現代社会において、どうすれば無駄な反応をせずに、落ち着いて過ごせるのかを仏教の教えをもとに解説されています。
アンガーマネジメントを実践しよう
アンガーマネジメントを実践すると、怒りの感情をうまくコントロールできるようになるため、仕事に集中したり、日ごろの人間関係を円滑にしたりできます。
怒りの感情は人間が自分の身を守るために大切です。しかし常にイライラしたり、激しく声を荒げたりすると周囲から避けられる恐れがあります。人間関係のトラブルになる恐れもあるため、怒りっぽい性格が気になる場合は、ぜひアンガーマネジメントを実践してみてください。
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参考資料
※1 安藤俊介『怒りに負ける人、怒りを生かす人』(朝日新聞出版)
※2 アンガーマネジメントとは?|一般社団法人 日本アンガーマネジメント協会
※3 怒りにとらわられないマインドフルネス|藤井 英雄・著(大和書房)
※4 運転時に「怒りを爆発」させやすいタイプとは? 感情をコントロールする方法|Forbes JAPAN
※5 「怒りっぽい人」が存在すると、会社は崩壊する|ナレビ マイナビ
※6 医療職や接客業…多くの仕事で求められる「感情労働」 精神科医が教える “らしさ”との付き合い方|ラジトピ
参考リンク集
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